今回、やってきたのは丸嘉小坂漆器店。
私の家から300mほどのご近所さんですが、
お話するのは今回が初めてです。
ガラスに漆器を塗った「hyakushiki」というシリーズを手掛け
られていて、伝統的な漆器屋の多い木曽平沢のなかでも革新的
な企業というイメージを持っていました。
専務の小坂玲央さんにお話しをお聞きします。
写真左から小坂玲央さん、奥様で塗師の智恵さん
- ──
- 本日はよろしくお願いいたします。御社の美しいガラス製品の
大ファンです。衰退していっているように見える木曽漆器の
中で、新しい商品を生み出して活躍している御社に是非お話を
お伺いしたかったのです。まずは御社の歴史から教えてください。
- 小坂さん
- 祖父が1945年に創業したのが始まりです。立ち上げ当初は下
地屋だったのですが、父の代のときに呂色塗りをやるようにな
り、座卓を作るようになりました。
経済成長の時期は座卓ばかり作っていたのですが、
バブルがはじけたころから、木曽平沢の問屋さんからの
発注がなくなり、どうしようかという時に始めたのが
ガラスに漆を塗るという技法だったんです。
当時作っていた座卓の上にガラス天板を
乗せるものがあったのですが、それがあまりにも
シンプルだったので、そこに絵を書いてみようと
思ったのがきっかけだったようです。
- ──
- 偶然というか、ひらめきで始まったのですね。
- 小坂さん
- はい。しかしガラスの上に漆を塗っても定着せず、
1年くらいで剥がれてきてしまって一旦断念したんです。
けれどもその後、県の方の協力もありガラスに漆を定着
させる技術を研究しました。そして商品化したのが、1994年です。
- ──
- そこからは、ガラス商品だけを扱っているのですか?
- 小坂さん
- 平行して家具もずっと作っています。
ガラス製品の商品化はできたのですが、
当時はやはり家具の売り上げがメインだったので、
もう少し新しい動きをしようと2013年12月に
新ブランドを立ち上げました。
- ──
- 新ブランドの立ち上げは小坂さんが入ってからの
ことですか?
- 小坂さん
- はい。私が入社したのが2009年です。
- ──_
- 入社されるまでは何をされてたのですか?
- 小坂さん
- 大学を卒業してからは、サラリーマンをやってました。
- ──
- え!?そうなんですね。
- 小坂さん
- サラリーマンをやってから、どうしても漆器の仕事がしたくな
り、木曽郡にある上松技術専門校で木工を学び、木曽平沢の
漆芸学院も卒業しました。
- ──
- 学生時代から、デザインやものづくりなどの勉強をされていたの
ですか?
- 小坂さん
- いいえ。医療関係の勉強をして、医療事務の仕事をしていました。
- ──
- それがまたなぜ家業を継ごうと思われたんですか?
- 小坂さん
- 離れてみて客観的な目線で家業を見た時に
とても魅力的に見えたんです。
そして、自分でもやってみたいと思いました。
- ──
- その時、お父さんは喜ばれましたか?
- 小坂さん
- 父は継がせる気は全くなく、最初は反対されました。
- ──
- 反対!?
- 小坂さん
- 大変だということがわかっていたからでしょうね。
でも強引に継ぐと決めたんです。
- ──
- 私も同じで、東京の出版社で働いていたんです。
でも30過ぎたくらいから漆器って魅力的かもしれないと
思い始めました。私には漆器を作る技術はないから、
広めていくことができたらと漠然と思ってはいるのですが。
離れてみてわかる家業の良さというのはありますよね。
- 小坂さん
- そうですね。
- ──
- しかし、うちでは継ぐことに反対はされなかったので、
反対されたというエピソードには少し驚きました。
- 小坂さん
- でもなんとなく気持ちはわかるんです。
苦労してきたからこそ、子供に継がせたくないという思いも。
- ──
- 小坂さんがガラスに漆を塗ってるのですか?
- 小坂さん
- 新ブランドの漆の塗りは妻が担当しています。
私は木工職人なので、家具作りを主に担当しています。
- ──
- 奥様も木曽平沢の人なんですか?
- 小坂さん
- 妻は長野県中野市の出身です。
上松技術専門校を私より先に卒業していまして、
民芸家具作りの下請けの工房で働いて
家具を作っていました。そして家具に漆を塗る
勉強をしてみようと漆芸学院に入学したんです。
私と妻はそこで出会いました。
- ──
- では、今はお父様と奥様と3人でやられているんですか?
- 小坂さん
- 今は、職人も増えました。木曽平沢の方も一名。
県外からきている職人さんもいます。
- ──
- どういうご縁で県外からも職人さんがきてくれるんですか?
- 小坂さん
- ほとんど上松技術専門校の卒業生です。学校でこの地域の産
業の勉強もするんです。従業員は20代が2人、30代が私と妻を入
れると3人です。
- ──
- 若い方もいらっしゃるんですね。
- 小坂さん
- はい。若い世代に繋げていかないといけないと思っているんです。
(つづきます)