もくじ
第1回3代目継承問題 2016-12-06-Tue
第2回木曽漆器について教えてください! 2016-12-06-Tue
第3回産地としての取り組み 2016-12-06-Tue
第4回伝統に新風を 2016-12-06-Tue
第5回後継ぎは恵まれている 2016-12-06-Tue
第6回やりたいことをやっているだけ 2016-12-06-Tue
第7回最後に 2016-12-06-Tue

1983年長野県生まれ。
祖父が創業した会社に入り、ゆくゆくは3代目を襲名する予定です。

伝統を継ぐこと

伝統を継ぐこと

担当・miyahara

第5回 後継ぎは恵まれている

ガラスに漆を施し、美しい器を作られている「丸嘉小坂漆器店」さん。
専務の小坂さんに木曽漆器の今後について
お話をお聞きしています。

──
木曽平沢の漆器業が縮小している現状についてはどう思われ
ますか?私の家業についても今後どうしたらいいんだろうと
いう危機感がすごくて、実は相談したかったんです。
小坂さん
どうしたらそれが改善するかは全然わからないのですが、
自分の経験からいうと、まず時間を投資してやってみないと見
えてこないものがあると思っています。苦しくても一歩外にでて
みると、新しいことが入ってくるんですよね。自然とやらない
といけないことが見えてきたりするんです。例えば、うちの場合
は新しいブランドを立ち上げて、それを発表して、注文が入る。
そうすると、今いる人数ではとても対応できないので、職人さ
んを雇う。そうやって進んでいくんです。まずはやらざるを得
ない状況に自分を追い込むというのは必要かもしれません。
──
現状維持を考えていても進まないということですね。
小坂さん
はい。しかし、今の産地の現状は職人さんの仕事がない
状況で、自分の子供に継がせられないというのは
現実的にあると思います。その辺の意識の改革を
どうできるのかというのは難しいですよね。
──
小坂さんや、周りの方のような若くして漆器業に携わっている
方たちの意識はどうなんですか?
小坂さん
今の木曽漆器業界の若手の中では意識は高まっていると思い
ます。皆で産地をどうしていこうかと話し合っているんです。
少ない人数ではありますが、取り組み始めているんですよ。
──
自分の会社の話を聞いてる時は希望を見出せなかったのです
が、今後の木曽漆器に明るい展望を持ってもいいものでしょう
か。
小坂さん
明るいと信じないとやれないですよね(笑)。
でも、後継ぎって恵まれていると思うんです。
一からはじめるにはいろんな投資が必要ですが、
後継ぎはある程度の基盤がある状態。
いくらでもなんとでもなると思うんです。
──
えっ!? 恵まれている?私はプレッシャーだなという思いが先
行してしまいました。
小坂さん
産地の人たちの中にもいろんな考え方があると思うので
一概にこれとは言えないのですが、木曽漆器という地場産業が
ある土地に生まれたということはかなり強みだと思うんです。
ものづくりをしたい人でも、そういうバックグラウンドを
持っていない人の方が多いなかで、私たちには木曽漆器という
ブランドがある。その環境は強みだと思います。
──
家業を継ごうと思った時にも、プレッシャーはなかったんです
か?
小坂さん
スタートから自分がなんとかしなきゃという義務感ではなか
ったです。周りの話を聞いてもそうですが、最初は違う仕
事をしていても、やっぱり惹かれるものがあり、
自分の意思で戻ってきたという人は多いです。
──
離れていても引き戻される漆器の魅力ってなんなんですか
ね?
小坂さん
小さい頃から触れていた愛着もあるでしょうし、そうでなくて
も木のぬくもりや使い心地のよさに大人になって気づいたり、
それを自分の手で作ってみたいという人はいるでしょう。
──
そんな中で小坂さんは、新しい取り組みをしながらも、
木曽平沢の全体のことを考えていらっしゃるんですね。
小坂さん
伝統的な木曽漆器にこだわってそれしか作らないということ
ではなく、新商品を作ることは、最終的に木曽漆器を知っても
らうための手段だとも思っているんです。私としては、新商品
を自分が作ったというよりも、父が持っていたものの幅を広げ
たという感覚なんです。ガラスに漆を塗ったものは素材として
は悪くないと思っていたけれどそれがあまり売れなかった。
そうしたら見せ方を変えていくしかないと思ったんです。
そして今後は私の会社だけでなく、木曽平沢全体で盛り上
がることが理想だと思っています。全体で盛り上がっていけば、
一つ一つの企業も自ずと上がっていくんですよ。昔の木曽平沢
に活気があったのは、まさに産地全体が盛り上がっていたからだ
と思います。
──
木曽平沢全体の未来まで考えているという小坂さんの力強い
お話が聞けて本当に良かったです。今日はありがとうござい
ました。

全く違う仕事をしていた小坂さんが、今は新しいことに挑戦し
ながら、木曽漆器全体の未来のことまで考えているという姿勢
に驚きました。また、私たちのような家業を継ぐか継がないか
問題に直面しているということについても「恵まれている」と
前向きにとらえている。その言葉がとても印象的でした。

丸嘉小坂漆器店
長野県塩尻市木曽平沢1817-1
0264-34-2245
http://www.maruyoshi-kosaka.jp/

若い方の漆器を学ぼうという熱意が育ってきている木曽平沢で
漆芸学院に入って、漆器の技術を学んでいる人たちがいます。
次はその方に会いにいきました。

(つづきます)

第6回 やりたいことをやっているだけ