もくじ
第1回3代目継承問題 2016-12-06-Tue
第2回木曽漆器について教えてください! 2016-12-06-Tue
第3回産地としての取り組み 2016-12-06-Tue
第4回伝統に新風を 2016-12-06-Tue
第5回後継ぎは恵まれている 2016-12-06-Tue
第6回やりたいことをやっているだけ 2016-12-06-Tue
第7回最後に 2016-12-06-Tue

1983年長野県生まれ。
祖父が創業した会社に入り、ゆくゆくは3代目を襲名する予定です。

伝統を継ぐこと

伝統を継ぐこと

担当・miyahara

第6回 やりたいことをやっているだけ

今回お話を伺ったのは「ちきりや手塚万右衛門漆器店」の
手塚希望さんです。今年25歳という若い手塚さんが
なぜ漆器の仕事をしようと思ったのか聞いてみました。


手塚希望さん

──
本日はよろしくお願いいたします。手塚さんは木曽平沢で家
業の漆器屋をお手伝いしていると聞きました。本格的に家に
入って仕事をしようと思ったのはいつですか?
手塚さん
大学を卒業し、去年から木曽平沢に帰ってきて手伝いを始め
ました。
──
大学では何を専攻されてたんですか?
手塚さん
大学では社会学部でした。その時は家の仕事をするというこ
とは、全然考えてなくて。
──
では、何をきっかけにこの業界に?
手塚さん
卒業後に木曽平沢に帰ることになって、
ちょっとやってみようかなと。
去年1年は事務的な仕事を手伝っていたんですけど、
近くに漆器の技術が学べる漆芸学院があることを知り、
今年4月から通い始めました。
──
技術を学んでいるということは職人さんになるということで
すか?
手塚さん
まだそこはぼんやりしてるんですけど。とりあえず、
学べることは学んでみようかと。実家に帰ってきたのも成り行
きというか、「これをやりたい!」という感じでもなかった
んです。帰ってきて、やってみたら楽しいなと思って。
──
じゃあ、結構なんとなく??
手塚さん
そうですね。なんとなくです。(笑)
──
御社はどれくらいの歴史があるんですか?
手塚さん
創業は寛政年間と言われています。今、父が7代目です。
──
すごく長い歴史があるんですね。ゆくゆくは手塚さんが8代目になるのですか?
手塚さん
うーん。まだそこまではわからないです。
というかあんまり考えてないです(笑)
もともとの性格もそうなんですが、
あまりプレッシャーとか感じなくて。
やれる時にできることをしようという感じなんです。
もちろん生活していかなきゃいけないので、
考えていかないといけないんですけど。

──
今日お邪魔している、このギャラリーもすごく素敵ですし、
7代も続いてる家業ってすごいですよね。
ここまで続くということは
なにか秘密があるのでしょうか。
手塚さん
祖母の代までは、お客様が大量買いをしていく時代だったみ
たいですが、父の代から個人で自分のものだけ買うという買
い方が主流になってきたそうです。父は時代に合わせて、特
別な時だけ使うものではなく、毎日の生活の中で器を使って
ほしいという思いでオリジナルの塗り方を考えたようです。
サイズ展開もたくさんして子供用から大きなどんぶりまで作
ったりもしています。
──
手塚さんとしては技術を身につけて何か新しいことをしたい
と考えていますか?それとも伝統を繋いでいくことを考えて
いますか?
手塚さん
そうですね。どっちもできたらと思っています。昔から受け
継がれ、続いて来た理由もあると思うし、それを継いでいく
のも素晴らしいことだと思うので。でもやっぱり、漆器と
いうと高級品というイメージがまだあると思うんですが特別
なものとしてだけではなく、もっと小物やアクセサリーなど
日常的な可愛いものにも応用できるのかなと思ってます。
──
確かに、時代に合わせて漆器も変わっていく必要があるのか
もしれませんね。漆芸学院では他に手塚さんのような若い人
も学んでいるのですか?
手塚さん
はい。意外と女性の方も多いです。最初はちょっとやって
みたいという趣味程度で始めて、そこからもっと勉強したい
と思う人もいるみたいです。
県外から移住を考えている方もいると聞きました。
──
移住!?
手塚さん
どこかで漆器に触れて、いいものだと思って、自分でも作っ
てみたい、産地に住みたいとまで思ってくれるんですかね。
漆器の製品自体もそうですが、技術に魅力を感じる人もいる
んだと思います。
──
すごい!漆器という「物」から「技術」まで広がるんです
ね。私は家の仕事をすると決めた時に、なんとなく長女
としての使命感というようなものがあったんですが、
手塚さんはここまで続いた家業を後世に残さなきゃ!
みたいな義務感はあるのですか?
手塚さん
父たちから、家の仕事をやってくれと言われたことも
なかったですし、「継がなきゃ」という気持ちはあまりなか
ったです。今も自分のやりたいことをやっているという感覚です。
──
手塚さんが家に入るといった時の、お父さんの反応ってどう
でしたか?
手塚さん
「え?本当にやるの?」みたいな反応でした(笑)
父も母も一年くらいしたら、飽きてまた出て行くと思ってたみ
たいで。
──
じゃあ漆芸学院で勉強を始めてまたびっくり!ですか?
手塚さん
そうですね(笑)私自身も今、自分が漆器の技術を
学んでいる事を不思議に思うこともあります(笑)。
──
自分でもそう思うくらい、考えてもみなかった
ことだったんですね。自由な発想の手塚さんの言葉で
気持ちが少し軽くなりました。本日はありがとうございました。

長い歴史のある家業を継ぐということに対して気負わず、
「やりたいことをやっているだけ」という手塚さん。
今後伝統が続いていくためにはこのような自由さも大切に
なってくるように感じました。そしてこの地域の人だけでなく、
漆器を作ってみたいという人が木曽平沢を訪れてくれることも
もう一つの木曽漆器の広がり方になるのかもしれません。

ちきりや手塚万右衛門漆器店
長野県塩尻市木曽平沢1736−1
0263-34-2002
http://www.chikiriya.co.jp/

(つづきます)

第7回 最後に