- 糸井
- さっき言った「ほぼ日」の写真連載で
濱田祐史さんという若い写真家が
「コンセプトって言葉が
写真にとっては、ちょっとじゃまだ」
って言ってたんです。
- 操上
- ええ。
- 糸井
- ぼくの場合は写真じゃないんですけど、
若いころから
「コンセプトが大事」って言われて
「そうなんだけど、じゃまでもあるなあ」
って、ずっと思ってたんです。
操上さんは、どう思いますか?
- 操上
- うん、じゃまですよね。
だって大事なのは
本能だとか、生理だとか、肉体だとか、
感覚的な刺激。写真家の場合はね。
- 糸井
- とくにそうだってことですか?
- 操上
- 広告をつくる場合は
はじめに「コンセプトらしきもの」を
設定しておく必要があるけど、
つくっていく過程では直感がすべて。
身体で感じたことなんかを
いちいち何だかんだ考えてたら、
前に進まないからね。
- 糸井
- つまり「考えが先だ」って「考え」は、
ひとつの幻想だったのかもしれないと。
- 操上
- うん、現実は目の前だから、
バーッといかないとさ。
- 糸井
- ロバート・キャパの写真を見て
「カメラがあれば、どこへでも行ける」
と思ったときの操上さんは
カメラが、まるで「乗り物」みたいに
見えていたと思うんですよ。
- 操上
- そうかもしれない。
- 糸井
- 操上さんには、そのころからずーっと、
「旅」というイメージが
ついてまわっているような気がします。
「カメラが、俺を乗っけて、
どこかへ連れて行ってくれる」って。
- 操上
- うん、いいですよね、カメラがあると。
ほんと、どこへでも行けるから(笑)。
- 糸井
- もし、カメラなければ‥‥。
- 操上
- 行かないかもしれないなあ。
- 糸井
- 操上さんは
「いいなあ」って感じたものの写真を
撮ってるんですか?
- 操上
- そうですね。直感で!
- 糸井
- シャッターの「カシャッ、カシャッ」って、
じゃあ、
「いいな、いいな」って言ってるんですね。
- 操上
- そうだね。
「たまらないね、この場所は」みたいな。
「街並がいいなあ」とか、
「人間がいいなあ」とか、
「空気がいいなあ」とか、
「光がいいなあ」とか‥‥そんな感じで。
- 糸井
- 「イヤだねぇ」っていうシャッターの音も、
あるんですか?(笑)
- 操上
- うーん、イヤだイヤだと言いながら、
シャッターを押す?
まあ、イヤなもの自体が
おもしろかったりする場合はあるよ。
- 糸井
- 「イヤだ」という「いい」。
- 操上
- 「イヤだ」って存在が俺を挑発してきて、
「いいね、いいね」と(笑)。
- 糸井
- 操上さん、
「潰れた空き缶」ばっかり撮ってるときが
あったじゃないですか。
- 操上
- ええ、ありました。
- 糸井
- あれも「いいなあ」だったんですね。
- 操上
- うん、なんか魅かれるんだよね。
- 糸井
- ずいぶんたくさん
撮ってらっしゃいましたもんね(笑)。
- 操上
- いまだに好きなんですよ、錆びたもの。
錆びるとか、腐るとか、朽ちるとか、
その途中段階にあるもの、とか。
それもひとつの「旅」って気がして。
- 糸井
- なるほど。
- 操上
- そいつの命の終わりに向かう旅みたいな、
そういう瞬間を感じられるもの。
人間だって、いつか死んでしまうまでは、
やっぱり「旅」じゃないですか。
- 糸井
- うん、うん。
- 操上
- そこらへんにある「空き缶」が
潰れて、腐って、錆びて、
いつしかボロボロに朽ち果てていく
そのプロセスが、
なんとも愛おしいなあと思うんです。
で、その「愛おしさ」が、
シャッターを切らせるんだな。
- 糸井
- 「はじめから完成しているもの」
なんて、ないですもんね。
- 操上
- 進行形だよ、常に。
- 糸井
- 操上さんは、それを記録してる。
- 操上
- そう、愛おしいなと。
- 糸井
- 「俺は、見たぞ」と。
- 操上
- で、気に入ったら、拾って帰ってる。
- 糸井
- そうなんですか(笑)。
- 操上
- 拾ってきた空き缶やらが溜まったら
スタジオに入って、
自分の光を当てて、もう一回、見る。
奥の方にしまいこんであったものは、
時間が経って、
ボロボロになってるんだけど
そのボロボロに、大事に光を当てて‥‥
それが、おもしろいんだよね。
- 糸井
- 奥さんはいやがらないですか?
- 操上
- ぜんぜん。
- 糸井
- あ、そうですか。
- 操上
- うん。
- 糸井
- あ、溜め込んでるのは
ご自宅以外のところってことですか?
- 操上
- 家だよ。
- 糸井
- 本当?
- 操上
- 本当。
- 糸井
- それで、よく嫌がられないですね。
だって、他人にとってはゴミですよね?
- 操上
- そうだよ。
だから「俺のゴミに触るな」って(笑)。
<続きます>