- 糸井
- あの、操上さんの
「しょうもないカッコいい伝説」(笑)って
いくつも、あるじゃないですか。
- 操上
- うん?
- 糸井
- たとえば、ほら、どこかロケへ行ったら
「ホテルの部屋を
自分の部屋にしちゃう」みたいな。
あれって、自分ちから
わざわざ、いろいろ持ってくんですか?
- 操上
- 持っていかないよ。
- 糸井
- じゃ、どうやって「自分の部屋」に?
- 操上
- 気に入らないドアには
俺の好きなジャケットをぶら下げて、
部屋には
タワーレコードで買ってきた
好きなレコジャケをバーっとならべて、
預けっぱなしにしてる
ターンテーブルを部屋に持ち込んで、
好きな音楽を聴きながら、
好きな本、
たとえば田村隆一の
『青いライオンと金色のウイスキー』とか
好きな詩集を、何冊か置いておく。
そうすると、部屋に入ってきた人が
「操さん、
自分の部屋にしてるね」って。
ほら、今みたいにロケが短くないから。
- 糸井
- 昔は、遠いところに、長くいた。
- 操上
- まあ、今は、そうじゃないですけどね。
着いたらすぐに現場へ向かい、
チェックとミーティング、
次の日から
撮影に入れるように準備しているし、
終わったらすぐ帰ってしまう。
- 糸井
- 前は、ひと月くらいいたんですか?
- 操上
- ひと月はいないけど、
少なくとも
10日から2週間くらいはいたよ。
打ち合わせをしたり、
モデルのオーディションしたり、
ロケハンして撮影許可を取ったり、
いろいろやることがあるから
日数も、たくさんかかったんです。
- 糸井
- そうでしょうね。
- 操上
- だから、自分の車も借りて置いてありました。
毎晩、みんなで一緒に行動するのって
面倒くさいんですよね。
車があれば
ひとりでバーッとどっかへ行けるから。
- 糸井
- へえ。
- 操上
- 最初のころは誰かと相部屋だったけど。
1970年代。
- 糸井
- ドルが「360円」とかの時代。
- 操上
- いびきのうるさいやつと相部屋だと、
まったく寝られないわけ。
たたき起こしてやろうかなとも
思うんだけど、やっぱりかわいそうだからさ。
シーツ引っぱがして、
バスルーム行って、包まって寝てたりしてた。
- 糸井
- 操上さんが(笑)。
- 操上
- それでも結局、一睡もできずに‥‥。
- 糸井
- 「風呂場」ですもんね、そこ(笑)。
- 操上
- うん、次の日、朝飯を食いながら
「お前、熟睡してたな。
俺なんかまったく寝てないんだぞ、ゆうべ」
って言ったら、クライアントが
「じゃあ、別に部屋を取りましょうか」って。
それからようやく、
別々の部屋を取ってもらうようになったんだ。
- 糸井
- こうやって、あとから語る話としては
おもしろく聞けるけど、
でも、当時は、イヤだったでしょう?
- 操上
- もう、イヤで、というか大変でしたね。
- 糸井
- 操(くり)さんって、
自分のなかの「世界観」みたいなものごと
動きまわってるイメージがある。
- 操上
- そう?
- 糸井
- だって、旅先なら旅先で、
「操さんのいる場所」は「操さんの場所」に
なるじゃないですか。
- 操上
- うん‥‥そうかな。
- 糸井
- なってますよ(笑)。
- 操上
- ロケハンのときに
アンティーク屋から変なものを買ってきて
部屋に並べたりすると
だんだん「自分の場所」になってくるんだ。
好きな音楽もかかってるしさ、
そういうのって、ちょっと楽しいじゃない。
- 糸井
- 東京にいるときと
ロケ先にいるときと、同じ感じですよね。
- 操上
- そういう感覚って、大事だと思うんだよ。
それに、撮影のときにセットを組んだり、
デザイナーに説明したりするとき、
そういうことしてると役に立つんだよね。
ふだんから
空間をつくるってことを、やってるとさ。
- 糸井
- あ、そうでしょうね。
- 操上
- 次はこういう雰囲気にしたいなあとか
イメージも湧いてくるし、
誰かの提案に対してNGも出せるしね。
- 糸井
- 操さんの「いいなあのモノサシ」が
あるってことですね。
- 操上
- 俺、遅れてこの業界に入ったでしょ。
そのとき、勉強だと思って
建築雑誌をメチャクチャ読んだんだ。
- 糸井
- へぇ。
- 操上
- なんで建築雑誌だったのかは
いまとなってはよくわからないんだけど
『新建築』とか『近代建築』とか
そんなのばっかり読んでた。
たぶん、そのころって、
「インテリア」だとか「空間」だとかに
何か新しいものを
感じていた時代だったんだと思う。
- 糸井
- なるほど。
- 操上
- これから写真を撮るんだったら、
空間に対するセンスが必要になってくる。
そう思って、どれだけ読んだか。
- 糸井
- ファッション誌は?
- 操上
- まったく読まなかった。
- 糸井
- そうなんですか。
でも、操上さんには
「ファッションじゃなく建築、美術」
って気配はずっと感じてたかも。
- 操上
- そうだね、建築雑誌とか、美術雑誌。
若いころは
そんなのばっかり、眺めてましたね。
<続きます>