- 糸井
- 操さんの写真って「人物」が多いですよね。
そういう自覚はありますか。
- 操上
- ありますよ。圧倒的に人物、多いです。
- 糸井
- ぼくがいちばん覚えているのは、
吉本(隆明)さんを撮ってもらったときで、
「操さん、撮ってくれます?」
って聞いたら、
「前から撮りたかったんだよ」って。
- 操上
- そうだったね。
- 糸井
- で、一緒に撮りに行ったんですよね。
「撮りたかった」って、
あんなに率直に言ってくれるなんて、
思ってなかったんだけど。
- 操上
- あ、そう?
- 糸井
- 操上さんって、
撮られる相手の気迫とか気持ちに対して、
「いいね」って、
シャッターを押してますよね。
- 操上
- 昔、俺にヌードを撮ってほしいって
女の人がいたんだけど
半年後に
がんばって痩せてきたんですって言うから
本当に、撮ったことがあってね。
「わたし、痩せてきれいになったの」って
言っている女性は
きれいに撮ってやったらいいわけで。
- 糸井
- それは「肯定」ですよね。
- 操上
- 写真って、そこがスタートだからね。
- 糸井
- 操上さんの写真って、
凝視する種類の写真だと思うんです。
- 操上
- 好きにならないと撮れないから。
その人のことを「いいなあ」と思わないとね。
- 糸井
- じぃーっと見て、
最終的に「いいなあ」に持っていくところが、
操上さんの人物写真ですよね。
- 操上
- もっと軽く撮ってもいいと思うんだけど。
- 糸井
- まあ、軽くもやってると思うんですけど、
セッティング自体が
「じっと撮る」になってますよね。
- 操上
- そうかも。
- 糸井
- 「悪いんだけど、俺はじっと見るから。
サッとは済まないよ」
みたいなところが、あると思うんです。
- 操上
- でも、最近だと気が短くなってきてね。
年のせいか、だいぶせっかちだよ。
- 糸井
- そうですか。
- 操上
- はじめのうちは三脚を使ってたとしても
10枚か20枚撮ったら、
もう「はい、手持ちで」になるんです。
重たいカメラだろうが、なんだろうが。
- 糸井
- へえ。
- 操上
- スタジオでも、長玉(※望遠レンズ)で、
手持ちで、撮ってるんです。
そっちのほうが
はじめに「こう決めた」ってところから、
もっと遠くへ行ける気がしていて。
- 糸井
- そうやって、自分で自分の興味を
かきたて続けてるわけですね。
- 操上
- 停滞するのがイヤなんですよ。
- 糸井
- 先日、雑誌の『SWITCH』で
タモリさん撮ったのがえらく評判ですけど、
あんなタモリさん、
みんな、見たことないと思うんですよ。
- 操上
- ああ、そうかな。
あれこそタモリって感じもするけど。
- 糸井
- あれは、ああやって撮れるのはわかってて、
ロケ地へ行ったんですか?
- 操上
- いや、どこまで行けるのかは
わからなかったですよね、やっぱり。
- 糸井
- 操さんでも。そうですか。
- 操上
- タモリさんとは、
朝、同じ新幹線で東北へ行ったんですよ。
はじめから、
雪の中でトランペットを吹いてる
イメージがあったんだけど、
新幹線を降りたら
もう、ぜんぜん、雪がなかったんです。
- 糸井
- あ、そうなんですか。
- 操上
- 現地の人にあらかじめ雪を撮りたいと
伝えてあったんですが、
雪を探しながら、動きまわって。
- 糸井
- 操上さんに撮られた人って、
後でうれしかったろうなって思えるんですよね。
- 操上
- それって、こっちもうれしいよ。
- 糸井
- なんだろう、
操上さんと一緒に旅をしてる感じというかなあ。
でも、「緊張感」はゼロではない。むしろある。
つまり、
リラックスできてていいというわけじゃなくて
ある程度、緊張感を感じさせながら
「楽しかった」みたいな、
そういう旅のような気がするんです。
- 操上
- 緊張感は、あったほうがいいですよ。
- 糸井
- そうですか、やっぱり。
- 操上
- セッションって、
リラックスしっぱなしだと撮れない。
ちょっとくらい緊張していたほうが
ほどよいセッションができる。
その「ほどよいセッション」をしながら、
楽しくなれたらいいんでね。
- 糸井
- なるほど。
- 操上
- 終わったあと「ああ、緊張したー」って、
みんな、かならず言いますもんね。
「楽しかったじゃん」
「いや、楽しかったけど緊張した」って。
- 糸井
- それ、タモリさんの写真からも感じます。
- 操上
- タモリさんに
「写真ができたらサインして頂戴」って
言われました。
- 糸井
- わかるなあ、それ。
ちょっと前に、
荒木(経惟)さんの肖像写真展があって。
- 操上
- 俺も行きましたよ。
おもしろかったですよね、あれは。
- 糸井
- 仮に、撮られているその人が
大したことあるように見せようとしてても
ぜんぶ、バレちゃうんですよ。
荒木さんは
「私とあんたは、大したしがらみはないよ」
ということを撮っていて、
「でも、それは本当だからいいよね」って。
- 操上
- うん、うん。
- 糸井
- 操さんの場合は
「一緒につくりましょう」っていうかなあ、
「こんな感じ、いいと思わない?」
みたいな場の雰囲気が、すごく出てますね。
- 操上
- そうですか。
- 糸井
- 撮られたいって人が多いの、わかりますね。
<続きます>