- 糸井
- その人が持っている
「俺は、こうありたいなあ」に
操上さんの
「こういう人であってほしいな」
が乗っかるんですかね。
- 操上
- うん、そうかもしれないね。
- 糸井
- 若い女の子たちが、プリクラで
目玉をこーんなに大きくして
写真を撮ってるけど
ああいう子たちを操さんが撮ったら、
どうなるんだろう。
やりとりのなかで
何かを変えていくんですかね。
- 操上
- まあ、「わたし、目がちっちゃいな」
と思うんじゃない?
- 糸井
- そうか(笑)。
- 操上
- セッションって、
お互いががアグリーしたもののなかから
生まれてくる何かなんだよね。
- 糸井
- ああ。
- 操上
- 俺も撮ってて楽しいけど、
撮られてるほうも
そのうち心地よくなってくるんだと
思うんですよね。
シャッターの音も聞こえるし、
その合間に言葉も入るし、触るしね。
俺なんか、平気で触るからね。
- 糸井
- キャッ!(笑)
- 操上
- 触るのって、けっこう大事なんだよ。
- 糸井
- 動かないものを撮っているときも、
愛情が湧いてくるんですか。
愛情というか、気持ちというか。
- 操上
- モノが美しく光る瞬間ってあるよね。
- 糸井
- へえ。
- 操上
- フォルムだったり、光の具合だったりね。
気仙沼ニッティングのセーターなんかも
袖の畳み方、皺の付け方、
同じような感じじゃおもしろくないから、
「いいな」と思って
シャッター切ったものを崩して、
まったく違う感じにすることはあります。
- 糸井
- ふぅん。
- 操上
- 人物ポートレイトの場合も、
それに近いことがあるかもしれない。
何回も撮ってる人だと、
「前回は、こうやって撮ったっけな。
ちょっと違うふうに撮ってやろう」
というのもあるし、
「以前に撮ったときよりも
もうちょっと進歩してるだろうな」
というのもあるし。
- 糸井
- 進歩って「お互いに」、ですか?
- 操上
- そう。
- 糸井
- たとえば、高倉健さんみたいな人を
撮ってるときって
ようするに、ご本人的にも
「こういうふうに見せたい」というのが
はっきりしてるじゃないですか。
- 操上
- 健さんのときはね、おもしろいんですよ。
ものすごくはっきりしてる。
それは、こういう健さんをみんなは好き、
ということでもあって、
で、俺は、それを崩したいわけであって。
- 糸井
- その、せめぎあい。
- 操上
- いつか、自動車の広告の仕事で
ハワイに行ったときも、おもしろかった。
カチッとした健さんじゃ当たり前だから、
ちょっとだけ
崩れてるくらいの健さんがいいなあって。
- 糸井
- ええ、ええ。
- 操上
- 白い麻のスーツを着て、浜辺に座ってる。
ぼーっと海を見てるんだけど、
ふいに、健さんがくしゅっと転がって、
自動車が走り出すとき、
そのままコロコロッと転がる‥‥みたいな、
そういうイメージを伝えたら、
健さんも「いいですね」って言ってくれて、
「それ、やりましょう」って。
- 糸井
- はい。
- 操上
- ‥‥言ったんだけど、
健さん、どうしても「考えちゃう」んだ。
新聞紙がクシャクシャっと風に吹かれて
転がってくみたいな、
そういうイメージで撮りたいから、
考えちゃだめです、演技じゃないのでって
何度も説明したんだけど。
- 糸井
- 考えちゃうんだ。
- 操上
- 転がった瞬間なんて、
使うのは0.何秒、何コマですよって言うのに
えらい時間かかっちゃった。
やっぱり、考えて演技する人みたいで。
- 糸井
- 永ちゃん(矢沢永吉さん)の場合は‥‥?
- 操上
- 「はい、永ちゃん、歌いながら踊って」
って言って、
こっちも踊りながら撮ってる感じだね。
ガンガン、あちらもノッてきますから
アシスタントが
ストロボを掲げて俺らを追いかけてる。
- 糸井
- 大変そう(笑)。
- 操上
- 転がったりなんかして、
洋服がバリーッて破けちゃったりとか、
そのくらい動かすかな。
- 糸井
- 永ちゃんも永ちゃんで
操さんのゲームに乗ってやろうってね。
- 操上
- そんなふうにしないと
自分のパターンを持ってるベテランは
決まった顔で来るから。
- 糸井
- 「これで」って顔ですね。
- 操上
- そんな顔が来たときには
「今だ!」って瞬間ほど撮らないけど。
- 糸井
- (井上)陽水さんとかは?
- 操上
- あの人はあの人で、また難しくて。
- 糸井
- だいぶ撮ってますよね。
- 操上
- あるときなんか、川に流したよ。
- 糸井
- すごいな(笑)。
- 操上
- 陽水がクルマの免許を取ったっていうから
「陽水、九州へ行こう。
お母さんに会うためっていうのはどう?」
「イヤですよ、そんなの」
みたいなね。
- 糸井
- でも、行ったんですよね。
- 操上
- 「そういうことは、今のうちにやっとけ。
もう二度とできないぞ。
お袋を訪ねてクルマ運転してくなんて、
最高じゃないか」って。
で、飛行機で九州に飛んで
空港からレンタカーで向かってるあいだ中、
陽水が編集してきた
カセットテープを聴きながらね。
- 糸井
- へえ。
- 操上
- で、とある陸橋にさしかかったときに
ものすごい眼下に、
渓流がバーッと流れてたんですよ。
その流れをじーっと見てたら
「ここを陽水が流れたら、おもしろいなぁ」
と、ふと浮かんだんです。
で、パッと陽水を見たら、
俺が言う前にわかったらしいんだな。
- 糸井
- 「あ、俺、川に流される」と(笑)。
- 操上
- そうそう、それで
「じゃあ陽水、ちょっと流れてみようか」
って言ったら
「やりますよ、やってみせます」って。
で、パーっと降りて行って近くで見たら
ものすごい急なの、流れが。
- 糸井
- はい(笑)。
- 操上
- 陽水に、
「絶対に泳ぐなよ。泳いだら、ただの写真だ。
サングラスしたまま、流されろ。
いいか、泳いだら負けだぞ」って言って。
陽水は「わかりました」って言って、
頭を水に突っ込んで濡らして、
サングラスかけて‥‥あいつは川に流された。
- 糸井
- (笑)
- 操上
- その写真、メチャクチャよかったよ。
- 糸井
- 覚えてますよ(笑)。
- 操上
- 「陽水、最高にいいよ。
だから、もう一回、流れてくれ。
今度はアップで撮るから」
そんな感じで、2回流したんだよ。
- 糸井
- 2回もですか(笑)。
- 操上
- ロングの写真なんかだと
川面に、陽水の顔が見え隠れしていて
サングラスがちょこっと見えてるだけ。
- 糸井
- 何でしょうね、それは。
もう「操さんのことを好きでやった」
としか言えないですよね。
- 操上
- そうなのかな。
- 糸井
- 抱き合って飛び込むみたいな話ですよ(笑)。
- 操上
- でも、そんなもんだよね、セッションって。
互いに「旅を共有してる」というか。
- 糸井
- やっぱり、カギは「旅」なんですね。
- 操上
- 山道を走って、童謡かなんかを聴きながら、
写真の話、音楽の話、
世間話なんかしながら「へえ」とか言って、
途中、母校に寄って弓道部を覗いて、
生徒が「キャーッ」ってよろこんだりして。
それから、ようやく実家について、
お母さんを連れ出して、お墓参りに行って。
ぐるーっと回って帰ってきたんです。
- 糸井
- ええ。
- 操上
- あの旅は、うん、おもしろかったな。
<続きます>