- 糸井
- 空間とか建築って言えば、
操さんの会社(ピラミッドフィルム)も
竹芝の鈴江倉庫ですよね。
- 操上
- あそこに引っ越したときも、
いろいろと口を出してやってましたね。
- 糸井
- あの時代に「海岸(※港区海岸)」に
事務所を移すって、
「これからはここだぜ」みたいな感じに
見えたと思うんですよね。
- 操上
- 俺らも糸井さんも
セントラルアパートにいたじゃない?
- 糸井
- はい、原宿のね。なにせ狭くて(笑)。
- 操上
- そう、一個一個の部屋が狭かったから、
どんどん増えていったよね、部屋が。
このままだと
えらいことになるなぁと思ったのと、
ニューヨークでも、パリでも、
彫刻家だとか絵描きだとか
アーティストのアトリエをロケ場所にしようって、
何軒か見て、撮影用に借りるんです。
- 糸井
- ええ。
- 操上
- ロケハンで、
そういう海外のカッコいい部屋に入ると、
全員が、かならず、
「うわぁ!」って上を見上げるんだよね。
天井が高くて、広いもんだから。
- 糸井
- なるほど。
- 操上
- アーティストの絵が飾ってあって、
彫刻が置かれていて
なぜか部屋の真ん中にジャクージがあったり、
窓だってバーンとしてる‥‥。
だから、原宿のセントラルアパートが
手狭になってきたとき
みんなのために
「ニューヨークとかパリで見たような
でっかい空間をつくってやろう」
と思ったんです。
- 糸井
- それで、鈴江倉庫。
- 操上
- そう、自分のところの天井が高くて
大きければ、
あっちへ行っても
いちいちびっくりしなくてすむから。
- 糸井
- あのあたりって、
まだ誰もいなかったんじゃないですか?
- 操上
- ヨーガンレールと、
横田茂ギャラリーはすでにあったかな。
とにかく
海岸にある倉庫を貸すっていうんで、
見に行ったら
倉庫って、荷物がダーッと積んであって、
壁と柱しかないんだ。
- 糸井
- ええ、そうですよね。
- 操上
- で、家主が
「柱と柱の間は、20坪くらいあります。
一区画、どうですか?」って。
でも、そんなんじゃ、
ぜんぜん、誰も驚いてくれないでしょ。
- 糸井
- 驚くかどうかが重要なんですね(笑)。
- 操上
- だから
「最大、どれくらい借りられますか?」
って聞いたら
「えっ?」って顔しながら
「200坪くらいなら、貸せますけど」
- 糸井
- 「ま、借りられるもんならね」みたいな
言い方ですね。
- 操上
- そこで、俺は
「あのあたりに、中間つくってもいいですか?」
って聞いたんだ。
「中間」って、つまり、
階段をつくって「中二階の部屋」をね。
- 糸井
- なるほど。
- 操上
- そしたら「一部だったら、いいですよ」
っていうから、
「じゃあ、200坪借りたら300坪になって、
でも家賃は200坪だな」と。
- 糸井
- 計算が早い(笑)。
- 操上
- その場で「じゃあ200坪で」って決めた。
消防法があるんで、
完全には床で埋められなかったんだけど、
階段を外せるつくりにしておけば
中二階にしてもいいって。
「よし、200坪の家賃で300坪だ」と(笑)。
- 糸井
- いいなあ(笑)。
- 操上
- それで、セントラルアパートに帰ってきて
「おい、引っ越すぞ。海岸に移る」
って言ったら、
当時は、原宿が人気でさ、
そのことを目当てに入ってきた若者たちは、
ブーブー言ってた。
「お前たち、海岸って銀座のとなりだよ?
タクシー、ワンメーターだよ」
って言って、ゴリ押しで借りちゃったけど。
- 糸井
- ぼくのまわりの人たちも
みんな「えっ?」って驚いてましたよ。
- 操上
- 当時は、夜なんか誰もいなくなるんだ。
もう寂しくて、怖くてね。
- 糸井
- 実際、人気(ひとけ)なかったですもんね。
- 操上
- バーがあって、船着き場でね‥‥。
昼間はまだいいんだけど、
夕方になると、すうーっと人がいなくなる。
夜中になったら、ひとりもいなくなる。
- 糸井
- はい(笑)。
- 糸井
- ところが、うち、暗室あるじゃない?
真夜中にアシスタントが現像してるんだけど、
ガードマンが見回りに来るんだって。
コツコツコツコツ‥‥って。
その音を暗室で聞いてると、怖いらしいんだ。
- 糸井
- 怖そう(笑)。
- 操上
- みんなね、夜中に相当ビビってたみたい。
- 糸井
- セントラルアパートは「何十坪」でしょう?
- 操上
- そうだね。
- 糸井
- 部屋を3つか4つ借りてたとしても
ぜんぶ足したって、たかが知れてますよね。
- 操上
- それが、あの大空間だからね。
‥‥セントラルアパート、俺が入ったとき、
小澤征爾さんがいたんだよなあ。
- 糸井
- 各部屋に電話がついてなくてね。
- 操上
- そうそう(笑)。
- 糸井
- セントラルアパートに電話かけるときは
「605号室お願いします」
とかって言うと、
まず「はい」って交換手の人が出て、
各部屋に「お電話です」と。
文字どおりの「アパート」ですよね。
- 操上
- 屋上に上がったら、
住んでる人たちが洗濯物を干してたりね。
まわりを、子どもがちょろちょろしてて‥‥
そんなところだったよ、最初はね。
<続きます>