![](images/p_09/01.jpg)
『粘菌生活のススメ』の出版準備は、
順調に進んでいました。
本の内容には満足していたのですが、
実は、ひとつだけ、心残りがあったんです。
悪魔的美しさを誇るルリホコリ系の写真を、
載せていることは載せているものの、
それは、粘菌研究者・川上新一博士所有の、
標本を撮影した写真だったんです。
ルリホコリの仲間は、好雪性粘菌と言って、
雪国で多く見られる種類なんです。
変形体は、主に雪の下で活動していて、
春になって雪が解けると子実体をつくるという、
いわば、粘菌界の異端児(笑)。
できるなら、標本ではなく、
フィールドで撮影したルリホコリの写真を載せたい!
撮影のタイムリミットは、すでにギリギリ。
印刷会社に入稿したデータは標本の写真ですが、
数日後に出る色校正を戻すときに写真を差し替える!
という荒業を仕掛けるわけです。
つてをいろいろたどった結果、
筑波大学山岳科学センター菅平高原実験所で、
毎年4月に発生が確認されているという情報を入手。
早速連絡してみると、なんと、その年に限って、
天候不順で発生が確認できてない、とのこと。
しかしながら、諦めきれず、
3人の大学院生が探索に協力してくださるとのことで、
雪が残る菅平高原へ向かったのでした。
4人で筑波大学の広大な敷地、
そして、近くのスキー場周辺を探すも、
やはり、見つからず……。
諦めて帰ろうとしたそのとき、
ふふふ、と、女神が微笑みました。
なんと、筑波大学の研究棟の真横、
ぼくが車を停めていた場所の真ん前の雑木林で、
ルリホコリの仲間が見つかったんです!
手伝っていただいた3人の大学院生には、
感謝の言葉しかありません。
いやあ、感激しましたねえ。
特に、マクロレンズを使ってアップで撮影したとき。
目に前にあるのは、まさに、瑠璃色の宝石です。
何枚シャッターを切ったことか。
粘った甲斐あって『粘菌生活のススメ』に、
フィールドで撮影したルリホコリの仲間の写真を、
載せることができました。
今回、『もりの ほうせき ねんきん』という、
子ども向けの粘菌の本を出すにあたり、
一番最初に考えたことは、ごく単純に、
粘菌という生きものがいることを知ってほしい、
ということでした。
粘菌という生きものを知れば、
粘菌が気になり、粘菌が生きている環境が気になり……、
という感じで、子どもたちが、少しでも、
自然に興味を持ってくれたらいいなあ、と思ったわけで。
そして、粘菌という生きものを紹介するなら、
美しい子実体の姿を見てもらうのがいちばん。
ぱっと思い浮かんだのがルリホコリの仲間でした。
まさに、宝石のように美しいですから。
もちろん、大人も同じこと。
粘菌という生きものを通して自然を見ることで、
今までと違った自然が見えること間違いなしです。
粘菌という生きものに少しでも興味を持ったら、
ぜひ、野外で、本物の粘菌を探してみてください。
探しやすいのは、粘菌の子実体です。
梅雨の晴れ間、あるいは、梅雨明けすぐくらいに、
木がたくさんあるような場所へ行き、
倒木、枯れた立木、生木のウロなどを探すといいかも。
木に顔を近づけて、じっくり見てみてください。
気づいてないだけで、
粘菌は、けっこう身近にいるんです。
![](images/p_09/02.jpg)
その宝石のように美しい粘菌は、
筑波大学山岳科学センター菅平高原実験所の、
駐車スペースの真ん前にいたのでした。
筑波大学山岳科学センター菅平高原実験所の、
駐車スペースの真ん前にいたのでした。
![](images/p_09/03.jpg)
一番最初の写真は、見つけた場所で撮影したもの。
この写真はルリホコリの仲間が発生している落枝を日影に移し、
フラッシュ3灯使って撮影しました。
この写真はルリホコリの仲間が発生している落枝を日影に移し、
フラッシュ3灯使って撮影しました。
![](images/p_09/04.jpg)
これまた美しい、コンテリルリホコリ。
山形自然博物館で川上新一博士所有の標本を撮影。
山形自然博物館で川上新一博士所有の標本を撮影。
![](images/p_09/05.jpg)
シロイトルリホコリ。
「球」の直径は2mmほど。
山形自然博物館で川上新一博士所有の標本を撮影。
「球」の直径は2mmほど。
山形自然博物館で川上新一博士所有の標本を撮影。
![](images/p_09/06.jpg)
キンルリホコリ。
山形自然博物館で川上新一博士所有の標本を撮影。
山形自然博物館で川上新一博士所有の標本を撮影。