- 糸井
- あんこ世界とひとつになる。
これが、あんこと私たちの関係だと思うんです。
そう考える私ですから、
あんこにおける対立は、悲しいことです。
- 観客A
- 対立、といいますと?
- 糸井
- それはつまり、あんこについての論争です。
あんこをめぐる、争い。 - 全観客
- ああー。
- 糸井
- 争いを見て、私はあんこのかわりに嘆きます。
‥‥なんということだ。
- 観客A
- あんこになりきっている‥‥。
- 観客B
- ‥‥我はあんこなり。
- 糸井
- 私があんこの世界にいるとき、
あんこの世界は私である。 - 全観客
- (笑)
- 糸井
- (観客の笑いを気にもとめず)その立場からすると、
やれ、「つぶあんこそがあんこである」とか、
「なにを言う、こしあんだけがあんこなのだ」とか、
そういう論争は私には、できません。
あんこと一体になっている人間には、
そういうことは‥‥もう言えない。
- 全観客
- (笑)
- 糸井
- しかし残念ながら、
そうやってあんことの関係をつくる人たちもいます。
‥‥ま、横尾忠則さん(笑)。
「つぶあん原理主義」な方です、横尾さんは。
そういう方は、いらっしゃいます。
それらはすべて、
あんこへの愛、深さゆえの争いなんです。 - 全観客
- はい。
- 糸井
- ただ、どうでしょう‥‥(苦悩の表情)。
‥‥そこまでもひっくるめて包み込んでしまうのが、
あんこの慈愛なんですよ。
わかりますか、
包み込むんです。争いまでをも、やさしく。
あんこは包まれる存在だとみなさん思ってますけど、
実は包む存在ですからね。 - 観客C
- ‥‥あ、それは、おはぎ。
- 糸井
- そうそう(笑)、きみはいいことを言いました。
おはぎはあんこで包んでます。
あれはすばらしい慈愛をあらわしています。 - 観客D
- 慈愛、ですか‥‥。
- 糸井
- 自分があんこになってみればわかることです。
- 全観客
- 自分があんこに!(笑)
- 糸井
- (観客の笑いをものともせず、真面目に)
先ほども言いましたが、恋愛と同じです。
婦人との関係と同じ。 - 全観客
- はあー。
- 糸井
- やはりあくまでも、あんこはエロチシズムですね。
それと‥‥そうだ、タナトスも。
エロスとタナトス。 - 観客E
- タナトス?!
- 糸井
- タナトスは「死」の象徴ですから、
小倉山がそうですね。
すべてを眠らせようとするんです。
動から静へ引き込もうとする、あんこの世界。 - 全観客
- ‥‥‥‥。
- 糸井
- だからたとえば、
お汁粉を飲んでるときも、呼ばれてるんですよ。 - 観客G
- 呼びかけられてる。
- 糸井
- お汁粉と、私。
漆黒の闇に、呼ばれる私‥‥。
おそろしささえ感じます。
そんなお汁粉の闇を、なんていうんでしょう、
曖昧にするかのように、
ゆらぎを出すために、餅が入るんです。
餅は、「性」そのものですから。 - 全観客
- ‥‥ざわざわざわ。
- 糸井
- もちもちするとかね。
もち肌とか。
餅は、生きるための性そのものですから。
漆黒の、その暗闇の手前にある女体です、あれは。 - 全観客
- 女体?!
- 観客A
- にょ、女体ですか。
- 観客B
- 餅が女体であるとすれば、
女性はそれをどう理解すればいいのでしょう? - 糸井
- だから‥‥そういうんじゃないんです。
- 全観客
- そういうんじゃない!
- 糸井
- 男とか女とかじゃなくて、
どう言ったらわかってもらえるでしょうねぇ‥‥
ぜんぶをいったん、男性にします。
だから、「人間」は「男性名詞」です。 - 全観客
- ‥‥‥‥。
- 糸井
- ‥‥‥‥。
- 観客C
- ‥‥すごい発言が、いま。
- 糸井
- 俺も、いまのは微妙だと思う(笑)。
- 観客D
- 「人間」は「男性名詞」って。
- 観客E
- 女性のみなさんから怒られそうです。
- 観客A
- どうしましょう、
このくだりを記事にして伝えるのはかなり難しいです。 - 観客B
- うーーん‥‥。
- 糸井
- だーいじょうぶ、自分でなんとかする。
- 全観客
- おお‥‥。
- 糸井
- ‥‥海。
海は、女性名詞ですよね?
母なる海。 - 観客C
- 「海」は「女性名詞」。
はい、それは言えると思います。 - 糸井
- あの広大な海は、女性である。
もうほとんど地球のすべてと言ってもいいような
そんな偉大なるものが、女性である。
- 観客D
- はい。
- 糸井
- じゃあ、私たちは、
そんなにも大きな海を
女性にすべて捧げてしまったあとで、
この世の何を「男性」と思えばよろしいのでしょう‥‥
‥‥‥‥「人間」ですよ。
- 全観客
- おーー(笑)。
- 観客A
- これで、記事にしても大丈夫?
- 観客B
- ぎりぎりの男女平等感が出たような気がするので、
載せましょう。 - 糸井
- ここはカットしないでください。
「人間」は「男性名詞」。
すくなくともあんこの話のあいだは
そういうことにさせてください。 - 観客B
- では、あんこの話のあいだのみ、そういうことで。
- 糸井
- ‥‥ちなみに、余談かもしれませんが、
お汁粉ということば。 - 観客C
- はい。
- 糸井
- 最後が「こ」で終わってますよね。
「こ」を最後につけることばは、
かわいいぞっていう意味なんです。
たとえば東北弁の、
「どじょっこ」だの「ふなっこ」だの。
かわいいですね。 - 観客D
- 「馬っこ」とか。
- 糸井
- はい、かわいいです。
その一方で、ことばの最初に「お」をつける。
これは丁寧語です。
たいせつに扱うぞっていうことです。
- 観客E
- なるほど。
- 糸井
- お汁粉から「こ」を抜くと、
‥‥「おしる」になります。
丁寧だけど、かわいさはなくなりますね。
で、丁寧さを抜いて、かわいいだけにすると、
‥‥「しるこ」。 - 全観客
- かわいい(笑)。
- 糸井
- というわけで、
「きみのことを丁寧に扱うし、かわいいと思ってるよ」
っていうのが、お汁粉なんですよ。
いいですか? 復習しますよ?
「お」と「こ」で、挟まれたことば。
これは、とてもたいせつですごく愛おしいものです。 - 全観客
- ‥‥‥‥。
- 糸井
- ‥‥‥‥。
- 観客A
- また微妙な‥‥。
- 糸井
- それはたとえば‥‥
- 観客B
- やめましょう! たとえばはやめましょう!
- 糸井
- ま、ここから話を
いくらでもエロティックな方に持っていけますが、
いかないでおきます。
各自でよく考えていただければと思います。 - 観客C
- ‥‥ありがとうございました、大統領。
ある意味とても新年にふさわしいお話で。 - 糸井
- ああ! そうかっ!!
- 観客D
- どうしました?
- 糸井
- 大統領だったことを忘れてた(笑)。