- 糸井
- はじめまして。
- 安宅
- こんにちは。
- 糸井
- 安宅さんの『イシューからはじめよ』を
読ませていただきました。 - 安宅
- ありがとうございます。
- 糸井
- 震災が起きた直後に。
- 安宅
- ああ‥‥。
- 糸井
- 読み終えて、あの時期、この本を読んだことに
とても大きな意味があると思ったんです。 - 安宅
- そうですか。
- 糸井
- ひとつは、自分のなかの「国際感覚」について。
- 安宅
- 国際感覚。
- 糸井
- これまでの僕には、外国語を話す外国の人とでも
仲間になれるんだという意識や
仕事の相手として
日本人と同じように付き合っていけるという発想が
正直いって、薄かったんです。 - 安宅
- はい。
- 糸井
- それも、かなり。
- 安宅
- なるほど。
- 糸井
- でも最近、
ボストンのベンチャー起業家と話したり、
ブータンの政府の人やお坊さんたちと会って、
大きな影響を受けたんですね。 - 安宅
- かなり、空間的にも広がりのある‥‥。
- 糸井
- そういう旅が続いたんです。
- 安宅
- ええ。
- 糸井
- 頭が、とってもスッキリしました。
- 安宅
- そうですか。
- 糸井
- 何と言ったらいいのか‥‥「おもしろい人」の
「おもしろさ」というのは
ボストンであれ、ブータンであれ、
そこがどこであれ、「世界標準」だなあ‥‥と。 - 安宅
- うん、うん。
- 糸井
- 世界の大河へつながる源流に、
それぞれ、立っているんです。 - 安宅
- なるほど。
- 糸井
- ブータンでは
一見「若い日本人の女の子」なんだけど
首相フェローを務めていた
御手洗瑞子さんに間に入っていただいて
政府レベルの人たちの
「頭の中」を、知ることができました。 - 安宅
- あ、御手洗さんとは、
マッキンゼー時代に一緒だったんですよ。
わずかな時間ですけど。 - 糸井
- そうそう、そうなんですよね。その彼女です。
で、ブータンという小国は、
うかうかしてたら
「中国」に飲み込まれてしまいそうになるので
インドとの関係を強化したり、
今じゃすっかり有名になった
「国民総幸福量」という指標を発明したりして
うまく立国しようとしている。
- 安宅
- ええ。
- 糸井
- そこには、ドメスティックなふりをして、
実はものすごくグローバルな視点がある。
そんな国に、マッキンゼー出身の
日本人の若い女の子が潜り込んでいたり、
逆に、お坊さんたちも
海外で勉強してきた人たちだったり‥‥。 - 安宅
- はー、そうなんですか。
- 糸井
- 決して資源や資本や産業が豊かでないブータンで
「イメージ」だけを武器にして
国際的な経験や価値観を持ったエリートたちが
どんな国をつくっていくのか。
そのことに、すごく興味があったんです。 - 安宅
- ええ、ええ。
- 糸井
- そのことが、ひとつです。
で、もうひとつは、やはり「東北」のこと。
国外へ向けた視線の反対側には、
やはり「東北」という場所が、ありまして。 - 安宅
- はい。
- 糸井
- 何にもなくなったとき、人はどう動くのか。
学ばされることが非常に多いですし
「ゼロ」になったことで、
胸のすくようなアイディアが出たりもする。
環境や動機は異なっているとしても、
ボストンのベンチャー起業家や
ブータンの人たちと
考えていることの「質」が
どこか似ているな‥‥と思ったんですよね。 - 安宅
- なるほど、そうですか‥‥。
- 糸井
- 何となく、そんなことを考えていたときに、
安宅さんの
『イシューからはじめよ』を読んだんです。
そして、
この本を書いた人にお会いしたいなぁって。 - 安宅
- そういう経緯があったんですね。
- 糸井
- 震災後、誰も考えを整理できていない状態で、
僕もジタバタしていました。
テレビのニュースを見たりしても
「解決すべき問題」を
示してくれることなんてないじゃないですか。
つまり「イシュー」の在り処を
親切にも、教えてくれるなんてことは‥‥。 - 安宅
- ないですよね。
- 糸井
- それぞれの問題に優先順位をつけてしまったら
リストから外れたものを
無視したように見えてしまう恐れがあるし、
問題点を明確にしないほうが
耳目を惹きつけられる、ということもあります。 - 安宅
- はい、はい。
- 糸井
- どうすれば東北の復興を成し遂げられるのか、
というのは、
本当に大きな問題ですけど、
安宅さんの本に書かれているようなことを
みんなで共有できたら、
少なくとも考えの手がかりは掴めそうだ、と。 - 安宅
- 東北を「復興する」というのは
一日も早い達成が望まれる問題ですから‥‥。 - 糸井
- いま、自分の置かれた局面で、
答えを出す必要性の高い問題とは、何か。 - 安宅
- はい。
- 糸井
- それが、安宅さんのおっしゃる
「イシューを見極める」ということですよね。 - 安宅
- そうです。
ビジネスでも研究活動でも、
本当に、バリューの高い仕事をして
世の中にインパクトを与えようとするならば、
「イシュー」こそが重要です。 - 糸井
- そしてその考え方って、
「東北」に関しても同じことだよなぁって
思ったんです。 - 安宅
- はい。
『イシューからはじめよ』のまわりで考える。
震災直後、糸井重里が読んだ本のなかに 一冊のビジネス書がありました。
タイトルは『イシューからはじめよ』といって、 著者は、安宅(あたか)和人さん。
外資系コンサルタント会社・マッキンゼーから イェール大で脳神経化学の博士号を取得、
現在は、ヤフー株式会社に勤めるビジネスマン。
読んだ糸井は 「一人ひとりが読み、チームで共有したい本」だと 言いました。
ビジネスの面だけでなく 「東北」を考えるときにも良かったそうです。
そんな『イシューからはじめよ』を真ん中に置き、
本について、本以外のことについて、
安宅さんと糸井が、いろんなことを話しました。