- 糸井
- 無駄な時間を過ごしてしまったことに対する
「いらだち」が
この本のきっかけになったということですが。 - 安宅
- ええ。
- 糸井
- お話ししていると、割に控えめというか‥‥
「私はこう考えるわけです!」
とか猛烈にまくし立てませんよね、安宅さん。 - 安宅
- そういう意味では、私、この本には淡白です。
- 糸井
- 答えは書いてある、読めと。
- 安宅
- ただ、ちょっと付け足しますと‥‥。
- 糸井
- ぜひ、足してください。
- 安宅
- 日本人って、たしかに素養が高くて
優秀だとは思うんですが、
なんというか‥‥「奴隷労働的」になる人が
すっごく多くて。 - 糸井
- そうですね。
- 安宅
- テクニシャンではあるんだけれど
技術一辺倒になってしまう人を、よく見るんです。
- 糸井
- なるほど。
- 安宅
- 結局、そういう人は「目先の仕事」を
「最高のクオリティに仕上げる」ことばかりに
集中していて
「本当にやるべきこと」に注力しない。
だから、結果につながらないんですね。 - 糸井
- 海外では?
- 安宅
- たとえば、アメリカを見てみると
短時間の労働で
高い結果を生み出せる人が多くいるんです。
この問題を突破すればうまく解決する‥‥
という一点に対して
高い集中力を持って取り組むことができる。 - 糸井
- うん、うん。
- 安宅
- 日本社会に蔓延している「根性論」が、
そういう才能を潰している現場を
たくさん見てきました。
そのことが、結果的に
私たち日本人あるいは日本国のレベルを
落とす要因になっていると思います。 - 糸井
- やればできる、がんばれば報われる‥‥
みたいな考えかたが。 - 安宅
- そのあたりを打破できなければ、
世界では勝てないんじゃないでしょうか。 - 糸井
- 本のオビにも「根性に逃げない」と。
- 安宅
- ええ。
- 糸井
- 僕がこの本を読んだときに思ったのは、
安宅さんのような考えを持つ人が活躍できる
会社組織にならなければ‥‥ということ。 - 安宅
- そうですか。
- 糸井
- 一人ひとりが読むべき本であり、
チーム内で共有しておきたい内容ですから。 - 安宅
- それは、ありがとうございます。
- 糸井
- ただ、
「日本人が奴隷労働的だ」という問題については
解決すべきだとは思うんですが、
他方で、人間には
「奴隷の大将に憧れる」部分があると思うんです。 - 安宅
- ええ、そうなんですよね。
- 糸井
- 「奴隷の大将」は、ある種「ヒーロー」なんです。
メディアや大衆から「褒めてもらえる」から。
その在りかたに「憧れ」を抱いてしまうことって
少なからずあることだなと思っていて。
- 安宅
- わかります。
- 糸井
- だって「テレビやラジオで引っ張りだこ」なんて
よく言われますけど、
「引っ張られるだけ」なのは「奴隷」ですもの。 - 安宅
- そこに「自分の意志」がなければ。
- 糸井
- 僕は、もともと広告をやっていたんですけど、
あの世界にも「根性論」はあって、
「どんな商品でも売ってみせる」というのが
誇るべき「腕」みたいになってる。 - 安宅
- うん、うん。
- 糸井
- 「売れるべきものが売れていく」のは
いいんですけど
「本当は売れないもの」が「売れちゃう」のは、
おかしいんですよ。 - 安宅
- ‥‥先ほども言いましたが、
マッキンゼーに入社して間もないころ、
努力と結果とのあいだに
あまりに何の相関もないということが
僕を大混乱させました。
力を込めたものが、結果を生まない。
思いつきみたいな仕事が、すごい成果を出す。
結果が出てさえいれば
誰からも文句は言われないんですけど、
これには、すごく悩みました。 - 糸井
- うん、うん。
- 安宅
- DeNAという会社の前社長・南場智子さんが
まだマッキンゼーにいたころ
すごく怒られたことがあったんですね。 - 糸井
- どんなことで?
- 安宅
- 当時、僕は巨大なプロジェクトの立て直しに
単身で突っ込んでいました。
結果的には、良い成果を出せたのですが、
南場さんは
「あんたみたいな若いのが
独りで入っていって、
たまたま当たったから良かったものの
もし失敗していたら?
そこに費やされた何ヶ月間という時間は
決して返ってこないのよ」と。 - 糸井
- ‥‥ほう。
- 安宅
- ようするに
「仕事とは、きちんと取り組まなければ
自分を成長させることはできない」
ということを、強く言われたんですね。 - 糸井
- なるほど‥‥。
- 安宅
- 朝から晩までボロボロになるまで働いて、
オフィスで
次の日を迎えるという日々のなかで‥‥
「掴まなければ!」と
強く思うようになったきっかけ、でした。