- 糸井
- 安宅さんが以前いらしたマッキンゼーって会社には、
話を聞くほどに
いろいろおもしろそうな人がいらっしゃったように
思うんですけど‥‥。 - 安宅
- ええ、いますね。
私が「師匠」だと思っている人の中に、
大石佳能子さんという女性が‥‥。 - 糸井
- あ、知ってます。
- 安宅
- え、本当ですか?
- 糸井
- 僕が最初に会ったマッキンゼーの人。
- 安宅
- そうなんですか。
- 糸井
- 当時は、マッキンゼーという会社のことも
よく知らなかったんで
いい加減な会社か何かだと思ってたんです(笑)。
人んちのことに
口を出して、そんなにうまくいくのかよ‥‥と。 - 安宅
- あはははは(笑)。
- 糸井
- 無知とは恐ろしいもんです。
でも、ある知り合いから
マッキンゼーにはすごい人がいるんだからって
断言されたんですね。
そんなに言うんなら会わせてくださいと言って
会わせてもらったのが、大石さんでした。 - 安宅
- 大石さんと僕は同じチームに所属していまして、
そこの責任者だったんです、彼女。
- 糸井
- 「朝までチーム」の。
- 安宅
- はい。
23時半に仕事が終わり
「じゃあ、飲みに行くかー」って話していたら
別の同僚が来て
「次の打ち合わせ1時ね」とか言い残していく
チームの、責任者。 - 糸井
- ‥‥深夜の1時?
- 安宅
- 楽しさも、ありましたけれどね。
- 糸井
- そんなチームのトップが大石さんだったんだ。
- 安宅
- 僕は彼女に、何度も「神」を見ました。
- 糸井
- それは‥‥どういう場面で?
- 安宅
- たとえば、
数百ページに及ぶ分析結果だけがあって、
全体はグチャグチャな状態。
‥‥という
厳しい状況が、たまにあるんですけど。 - 糸井
- ありましょう(笑)。
- 安宅
- 大石さん、そんなカオスを前にしても
「ちょっと考えさせて」
と言って30分後に「これでいこう!」と。 - 糸井
- ほう。
- 安宅
- そこには、見事な世界ができ上がっているんです。
瓦礫のなかから、突然巨木が立ち上がるみたいな。 - 糸井
- はー‥‥。
- 安宅
- 「こことこことここ、この3カ所が弱いから、
そこに、これを差し込めばいい」
とか説明するんですけど
ただ単にでっかいだけだったプロジェクトが
すんごくおもしろい話になってて。 - 糸井
- ‥‥楽しそうにしゃべるなあ(笑)。
- 安宅
- そのときは、店舗の売場をどうしようという
プロジェクトだったんですが、
建築家を呼んで、精巧な模型を作ったんです。 - 糸井
- うん、うん。
- 安宅
- その模型を前にして
「社長、この図ではこうなっていますが、
ここをこうすれば、こういったことも可能です」
みたいな、分析を加えた説明をするんですね。 - 糸井
- ええ、ええ。
- 安宅
- するともう、会議の参加者の目の前に
その空間が、ブワーっと立ち上がってくるんです。 - 糸井
- はー‥‥。
- 安宅
- 大げさではなく
「ウオーッ!」という地鳴りのような声が
聞こえてくる感じ。
彼女のプレゼンが終わったあと、
全員「スタンディングオベーション」です。
役員会議室で、社長まで含めて。 - 糸井
- みんなが口を揃えて評価する人なんですね。
- 安宅
- 輝ける星、です。
- 糸井
- 安宅さんは、その人の「技」を間近に見て‥‥。
- 安宅
- 彼女は「金(きん)」を見出す力がすごくて、
「とりあえず
こんな感じでやっといてくんない?」
と言われたとおりにやってると、
本当に、混沌が「金塊」に変わっていくんです。 - 糸井
- ほー‥‥。
- 安宅
- 恐ろしいなと思いました。
- 糸井
- その手つきが。
- 安宅
- ええ。
- 糸井
- 手品師に憧れた? もしくは錬金術師か。
- 安宅
- ともかく羨望の眼差し、でしたね。
で‥‥あるとき、大石さんとタクシーに乗って
仕事の話をしていたとき、
「それって
イシューじゃないんじゃないですかね」って
ポロッと、口から出たんです。 - 糸井
- 安宅さんの口から。
- 安宅
- そしたら
大石さんが「あんた、いいこと言うわ!」って。 - 糸井
- ‥‥じゃ、この本のヒントは、そこに?
- 安宅
- ほんの少しなのですが、
はじめて何かを「掴んだ」気がしたんです。
それは、僕にとって革命的な会話でした。
『イシューからはじめる』ことの重要性を
はじめて認識できた‥‥といいますか。 - 糸井
- その、タクシーの中で。
- 安宅
- 飛び上がるほど嬉しかったです。
- 糸井
- 安宅さんが、そんなに嬉しがってること、
大石さんは気づきましたか? - 安宅
- どうでしょう、
気づいてないんじゃないかなと思います。
深夜、大人数でギュウギュウで乗って、
山のような荷物を、手にしていたときで。 - 糸井
- ‥‥それ、気づいているんじゃないかな。
僕だったら、気づくと思う。
- 安宅
- そうですか?
- 糸井
- 自分の考えをひっくり返される経験って、
大きいじゃないですか。
「違いますよ」と言われて、
本当に「そうだな」と、納得したんなら。 - 安宅
- だったら、うれしいですね。
- 糸井
- ちなみにそのとき、おいくつだったんですか?
- 安宅
- 25です。
- 糸井
- 「掴んだ」気がした?
- 安宅
- はい‥‥暗闇に一筋の光が差し込んだような。
あの瞬間のことは、いまでも忘れられません。