- 糸井
- そもそも、どんな問題意識から、この本を?
- 安宅
- 自分としては「宗教書」のようなつもりで
書いたんですよね。 - 糸井
- ほう‥‥。
- 安宅
- マッキンゼーにいたときって、
僕、ずっと「安宅教(?)」の教祖みたいな
感じでして‥‥。 - 糸井
- 教祖!
- 安宅
- いや、そう言ったら
偉そうに聞こえるかも知れないんですけど‥‥。
もちろん、そんな宗教ありませんし
拝まれてもいません(笑)。 - 糸井
- でも、本を読めば、その意味がわかります。
つまり「この場合はこうしなさい」という
「教え」が書かれてますもんね。 - 安宅
- この本には、好き勝手なことを書きました。
藤原新也さんの『メメント・モリ』じゃあ
ありませんけど、
言いたいことだけを、えんえん書くという。 - 糸井
- だから「体系」が、
それほど、意識されてないんですね。
- 安宅
- そうかもしれないです、はい。
- 糸井
- 逆に言えば、まったくウソはない。
- 安宅
- アリゾナ州のセドナという
ネイティブ・アメリカンの聖地で拾ってきた
石があるんですけど
それを‥‥握りしめながら書いたんです。
おっしゃるように、
絶対、ウソだけは書かないように‥‥って。 - 糸井
- 石に誓って。
- 安宅
- ウソを書いたら絶対にバレちゃいますから、
それだけはやるまいと。 - 糸井
- その思いは、伝わってきましたよ。
- 安宅
- あ、それはよかった(笑)。
- 糸井
- もちろん、できるかぎり
わかりやすく読んでもらおうという意図も
同時に感じたんですけど、
それ以上に‥‥
安宅さんの「思い」を感じたんです。 - 安宅
- そうですか。
- 糸井
- 僕自身の経験からすると、
そういう「思いの入ったもの」を書くときって
背景に
巨大な「いらだち」みたいなものがあるんです。 - 安宅
- いらだち‥‥それは、あったかも知れません。
- 糸井
- 何に対する?
- 安宅
- 僕の場合は
「無駄な時間を過ごすこと」でしょうか。
- 糸井
- ほう。
- 安宅
- 「不毛な時間」を、積み重ねてきたこと。
- 糸井
- これまでの人生で?
- 安宅
- ええ。僕の人生の7割ぐらいは、
ムダだったんじゃないかと思うことがあります。 - 糸井
- たしかに、この本のなかには
「人生」って言葉が、よく出てきますね。 - 安宅
- 「人生は、とても長い」というのが、
僕の持論なんですけれど‥‥。 - 糸井
- 「長い」?
- 安宅
- 「正しい使いかたを知れば」ですが。
- 糸井
- なるほど。
- 安宅
- ただ、その「正しい使いかた」を知るまでに
えっらく長い時間がかかってしまって(笑)。 - 糸井
- そうだったんですか。
- 安宅
- 僕の「無駄な」経験を
どこかに書き残しておかなければと思って
この本ができたんです。 - 糸井
- たとえば、どのようなことが無駄だったと?
- 安宅
- 時間をうまく使えていなかったころの
あらゆるとき、あらゆる場面で。
マッキンゼーに入社した最初の数年も。 - 糸井
- へー‥‥。
- 安宅
- 当時、臨死体験するぐらい働いていたんです。
朝8時から夜中の2時ぐらいまで、
毎日、1年に360日くらい。 - 糸井
- はー‥‥。
- 安宅
- これは、正しい人生の使いかたではない、と。
- 糸井
- 不毛だった?
- 安宅
- ただ、そうやって働いた仕事の結果としては、
悪くなかったと言うか‥‥
大きな仕事で
成果を、たびたび出すことができていました。 - 糸井
- それなのに‥‥無駄?
- 安宅
- 労力と結果がまったく相関していないんです。
- 糸井
- つまり「納得できてなかった」んだ。
- 安宅
- ほとんど「思いつき」で実施した案件が
大当たりして
ポーンと1千億円くらい売り上げたと思ったら、
3ヶ月くらい命を懸けて取り組んできた案件で
何の結果も出せなかったり。 - 糸井
- はー‥‥。
- 安宅
- これは何かおかしいぞ‥‥と思いはじめたのが、
入社1年後くらいでした。
最終的には、結果が出ているからいいのですが、
もう一方の膨大な無駄、
あれはいったい何だったんだろう‥‥と。 - 糸井
- そうした壁には、ぶつかりますよね。
- 安宅
- あ、糸井さんも。
- 糸井
- 「それでもいいんだ」という言いかたも
一方ではあって、
「駆け出しのころはさ」とか
「ちょっと足腰を鍛えるつもりで」とか。 - 安宅
- 僕も若いときは、さかんに言ってたんです。
「1回は死ななきゃダメだろう」なんて。 - 糸井
- いまは‥‥。
- 安宅
- まわりの若い連中には
「根性論」こそ、ダメだと言ってます。 - 糸井
- 僕の場合、
「サボるよりも
サボらずにやるほうがおもしろい」
と気づくのに、時間がかかったんですよね。 - 安宅
- ああ、なるほど!
- 糸井
- もともと僕は、
根性論のノリでやるのが嫌いなんです。 - 安宅
- ええ。
- 糸井
- いや、生意気な意見なんですけど、
そうやって
アスリート的に無理矢理がんばってやっても
「本当のおもしろさ」を感じられなくて。 - 安宅
- 結果が出たとしても?
- 糸井
- そう。
- 安宅
- それは「内面の充実」の問題ですか。
- 糸井
- そうでしょうね。
でも「サボらずにやる」ことならできるし、
サボってたときより、
おもしろいことに気づいたんです。 - 安宅
- そこで「人生の使いかた」を知ったんですね。
- 糸井
- うん、そうかも知れません。