- 糸井
- 和菓子の「とらや」って
もう「500年」以上の歴史があるんです。 - 安宅
- そうなんですか。
- 糸井
- 以前、うちの社員が
北海道の六花亭の社長さんに取材したとき
憧れている会社を
「とらや」とおっしゃったそうです。 - 安宅
- ほー‥‥。
- 糸井
- ここ数年の不景気について
「100年に1度」だとか言われてますけど、
そうだとするなら
「とらや」は、これまで「5回」も
そういう大きな不景気を乗り越えてきてる。 - 安宅
- ああ‥‥。
- 糸井
- もちろん、不景気以外にも
戦争みたいな国家的危機だってあったわけです。
そういう「500年」を、
「とらや」は、生き抜いてきたから‥‥と。
- 安宅
- 尊敬のしかたが、すごいですね。
- 糸井
- つまり「100年に1度」ということで
みんなが「自分が負けていい理由」にしてるけど
「とらや」は、負けなかったんですよ。 - 安宅
- たしかに‥‥そうですね。
- 糸井
- 東北の被災地で
商売の基盤をすべて無くしてしまったかたに
会ったんですけど、
「羊羹だったら、
ぜったい『とらや』がいい」って。 - 安宅
- おお。
- 糸井
- そう憶えていたので、
次、本当に「とらや」の羊羹を持っていって
お渡ししたんですけど、
一家総出で、よろこんでくれまして。 - 安宅
- やっぱり「とらやだ」と。
- 糸井
- これが「500年」のすごみなんだなぁと。
このあたりの時間の感覚って
「グローバル」と呼ばれる西洋中心の世界では
欠けてる部分だと思うんです。
それは「アメリカの歴史の短さ」に要因が
あるんじゃないかなと思うんですが。 - 安宅
- ああ、そうかもしれません、はい。
- 糸井
- ボストンで話したベンチャー起業家も
この視点を「おもしろい」と言うとは思うんですが
感覚としては、僕らと少し違うかもしれない。 - 安宅
- どちらかというと
アジアの人たちには「響く」と思います。 - 糸井
- あ、そうですね。ブータンの人とか。
- 安宅
- 10年くらい前、
アメリカから日本へ帰ってきたときには
すでに不況だったんですね。 - 糸井
- ええ。
- 安宅
- そのとき
「日本は2000年以上やってきてるから
これくらい、どうってことないよ」
と言ったら、
アメリカ人は「こいつ、なに言ってんだ?」
という顔をしていました。
でも、中国人やインド人のやつらは
「ああ、おれたちも
数千年、生きてるから」みたいな。 - 糸井
- やっぱり。
- 安宅
- この数百年の間だけを見ても
いろいろあったし、
これくらいどうってことないだろう‥‥という
アジア的な感覚が
これからの時代に生きてくるかもしれませんね。
- 糸井
- 自分の世代では無理だけど‥‥みたいな発想が
ありますよね。
将来世代の繁栄のために行動する、という。 - 安宅
- ええ。
- 糸井
- 小川三夫さんという
宮大工のかたが、おっしゃるんです。
法隆寺というのは
1000年以上も人々に愛されてきたのだから
1000年後のために
今から檜を植えとかなきゃならない、
その責任があるはずだ、と。 - 安宅
- なるほど。
- 糸井
- 数十年で育つ杉の木を植えるのでも、
外国から木を買ってくるのでもなく。
本気で、1000年単位で考えてる。 - 安宅
- 1000年の考え、かぁ‥‥。
- 糸井
- 僕、この安宅さんの本を材料にしたら、
そういう考えに
すっと移行できるような気がしたんです。
困った問題に直面したとき、
『イシューからはじめよ』を手がかりに考えたら
問題を長い視点で捉えて
そのための一歩を踏み出せるような。 - 安宅
- そう言っていただけると、嬉しいです。
- 糸井
- どんな人に、読まれてるんでしょうね。
- 安宅
- やはりビジネスパーソンが多いんですけど、
不思議なことに
デザイナーさんに、けっこう刺さるみたいで。
最初のコンタクトは
インダストリアルデザイナーの人でしたし。 - 糸井
- あー‥‥わかる気がします。
- 安宅
- そうですか? 僕はビックリしました。
デザインには直接関係ない本だと思いますって
申し上げたんですけど
ぜひ、お会いしたいと言われて‥‥
「これ、デザインの世界と同じなんです」と。 - 糸井
- 商品の魅力をどう表現するか。
デザイナーも「イシュー」の捉えかたに
同じ悩みを抱いているんでしょうね。 - 安宅
- そうみたいですね。
- 糸井
- 今、日本には「本当のビジネス書」が
必要なんだと思うんです。 - 安宅
- はい。
- 糸井
- つまり
「ビジネスは社会に必要だ、ということを
言い切れるビジネス書」が。 - 安宅
- なるほど、それは「気持ち」の部分ですね。
- 糸井
- そう。
- 安宅
- 僕、ビジネスに本当に大切なのは
突き動かすような「気持ち」とかじゃないかと
思うことがあって。
- 糸井
- それは、「思いの強さ」ですよね。
この本のなかの安宅さんみたいに。 - 安宅
- あははは(笑)。
- 糸井
- この『イシューからはじめよ』みたいな本が
たくさん書店に並べばいいなぁ。 - 安宅
- そういっていただけると、うれしいです。
- 糸井
- 『イシューからはじめよ』を手がかりにして
いろいろ、考えてみます。
今日は、ありがとうございました。 - 安宅
- こちらこそ、ありがとうございました。