- 糸井
- 大石さんとのやり取りの中から
「イシューとは何か」についてのひらめきが
訪れたということですけど、
そういう「瞬間」は、他にもありました? - 安宅
- 数カ月後、もっと大きな衝撃が。
- 糸井
- おお、聞きたいです。
- 安宅
- ある製品の商品化に
携わっていたときのことなんですけれど‥‥
2本の軸を元にプロットしていたら、
データを見る限り
すべての要素が1点に集約され、
市場のトレンドが
ぱぁっと「見えた」瞬間がやってきたんです。
- 糸井
- へぇー‥‥。
- 安宅
- それはたぶん、
誰も見たことのないプロットのしかたで。
大石さんに話しても
「それはすごいよ」ということになって。
クライアントの副社長に説明したら
その場に商品担当マネージャーを呼んで
「すぐにこの商品をつくれ!」と。 - 糸井
- ‥‥すごいですね。
- 安宅
- 実際、大成功しました。
- 糸井
- その体験も「光」になったんですね。
- 安宅
- ええ。
- 糸井
- ‥‥僕の好きな釣りの話で恐縮ですけど、
1匹釣れただけなら
単なる「出来事」に過ぎないんです。
ただの偶然かも知れないし。 - 安宅
- ええ。
- 糸井
- でも、2匹釣れたら「データ」になる。
- 安宅
- ‥‥なるほど。
- 糸井
- 安宅さんの場合も、2回目のひらめきがあって
「掴めたかも」と実感できたんじゃないですか? - 安宅
- そうですね‥‥実際、そのときからの考えを
『イシューからはじめよ』に書いています。
‥‥本当に伝わっているのか、
いまだに、ちょっとわからないんですけど。 - 糸井
- 本当に「わかる」ためには
具体的な「経験」も、必要でしょうからね。 - 安宅
- そう、そうなんです。
- 糸井
- これは、この本を読んでいて感じたことでも
あるんですが、
「考え」を生み出すためには
「経験」も、同じように必要なんですよね。 - 安宅
- はい、そう思います。
僕の場合は、天才的な師匠について
いろんな経験を積ませていただいたことが
相当大きな部分を占めていますから。 - 糸井
- そうでしょう。
- 安宅
- だから、僕は‥‥
「天才たち」を体系化しようとしてたのかも
しれないなと、いま思いました。
大石さん以外にも
天才的な「師匠」が何人かいたので‥‥。 - 糸井
- 逆に言うと
「体系化できるに違いない」という確信が
安宅さんにはあったわけで。 - 安宅
- ええ。
- 糸井
- そこは「科学者の目」ですよね。
- 安宅
- そうですね、完全にそうです。
科学の世界自体、体系化というか
「伝承される部分」が、大いにあるんです。
- 糸井
- というと‥‥。
- 安宅
- 大科学者は、大科学者の元から生まれやすい。
- 糸井
- ほー‥‥。
- 安宅
- ノーベル賞学者の弟子は
同じくノーベル賞を受賞するくらいの成果を
上げることが多いんです。
たぶん、そうでない科学者の何百倍も。 - 糸井
- そんなに!
- 安宅
- 1人のノーベル賞学者の下から
5人くらい
ノーベル賞学者が生まれることすらあって。 - 糸井
- へぇー‥‥。
- 安宅
- 「伝承アブル」な部分は、絶対あるはず。
- 糸井
- つまり「伝承可能性」は、あると。
- 安宅
- 僕が「掴みとろう」としていたのは、
天才師匠たちからの「伝承」だったのかも。 - 糸井
- 師匠から弟子へと伝わる、何か。
- 安宅
- 大石さんの場合、
複雑な事象をシンプルなものに変換する能力が
ものすごくて。
たとえば、
「飲料が与えるベネフィットを体系化する」
という仕事があったんですね。 - 糸井
- ええ。
- 安宅
- 僕は、はじめ一気に「200」くらい挙げて、
そこから煎じ詰めて「50」くらいにした。
で、それを大石さんに提出したら
「まだ4つに分けられるよ」なんて言うんです。 - 糸井
- ものすごい分析力、なわけだ。
- 安宅
- そうなんです。
- 糸井
- もしかしてその天才‥‥「面倒くさがり」では?
- 安宅
- ‥‥‥‥‥‥‥そうかもしれません。
複雑なのは、イヤなんだと思います。 - 糸井
- そこは僕と似てるんですけど、
たぶん、「面倒くさがりな人」のほうが
実際の消費者に近いんですよ。 - 安宅
- そうですね、確かに。
- 糸井
- もちろん「200」出す仕事も必要ですよね。
- 安宅
- ええ、それは。
- 糸井
- ひとつひとつ積み重ねていく種類の仕事も
「信用」を得るためには、欠かせないから。 - 安宅
- その通りだと思います。
- 糸井
- だから、
その両方の面をうまく連携させるのが
「チームプレー」だし、
マッキンゼーという会社には、
そういうプレーを生み出せる「血」が
あったんでしょうね。 - 安宅
- はい、そうだと思います。