- ほぼ日
- これまでテレビで
お姿をときどき拝見していましたが、
その印象のとおり、ビシッとなさってますね。 - 野村
- はい。僕のポリシーとして
普通の人間らしくしていよう、
ということがあるからです。
人間は人間らしく、
男は男らしく、女は女らしく、
子どもは子どもらしく、犬は犬らしく‥‥
いや、別に犬は子どもらしくてもいいな。
- ほぼ日
- ははは。
- 野村
- 「らしさ」は、必要なことなんですよ。
たとえば万年筆は、
万年筆らしいから、使いものになりますよね?
もしも万年筆が
フォークみたいな格好をしてたら、
使いものになんない。
灰皿がカメラの格好をしてたら、
「らしく」なくて使いづらいでしょ?
らしさは大切なんです。
でも、僕は「お前、獣医らしくないじゃないか」
と言われるようなところがあります。 - ほぼ日
- 「らしくない」と言われてしまうのは、
野村先生の身なりが
きっちりしているからですか? - 野村
-
そうです。でも、演歌歌手だって、
パジャマで歌ったら、
きっと相手に失礼でしょう。
「ほぼ日」のみなさんがここにいらしたときに、
僕が歯も磨かずひげも剃らず、
頭モジャモジャで、
パンツいっちょうで出てきて、ビール片手に
「ん〜あぁ? どしたの?」なんて言ったら、
失礼な話でしょ?ですから、僕がいつもオシャレをするのは
まず、相手に失礼のないようにという
理由からです。
動物というと、
「臭い、汚い、狭い、うるさい、毛が抜ける」
そういうイメージがあります。
でも本当は、そんなことではいけないのです。
もしかしたら動物に携わる仕事は、
高級じゃない印象があるのかもしれませんね。
でも、欧米などでは
動物を扱う職業は、
一般職より身分が高いんですよ。 - ほぼ日
- そうなんですか。
- 野村
- イタリアでは、
金魚を金魚鉢で飼っただけで、逮捕です。 - ほぼ日
- 金魚鉢が狭いからですか?
- 野村
- いえ、
「金魚鉢じゃ、まわりの景色が
ゆがんで見えちゃうじゃないか。
金魚の身にもなってみろ」
ということなんです。 - ほぼ日
- ‥‥すごいですね!
- 野村
- これは、ヨーロッパ諸国の人間が
自分自身の「人間らしさ」を
追及した結果ですよ。 - ほぼ日
- 人間らしさを?
- 野村
-
人間が動物と一緒になって、対等になっちゃ、
人間も、ただの動物になっちゃうわけです。
そうじゃなくて、
人間が「らしさ」を重視した場合には、
動物の保護者的な立場を
とろうとするのが普通です。
だけど日本って、そうじゃないんですね。僕は、患者が動物だからといって、
獣医が、臭い、汚い、かっこ悪い、狭い、
そういうのでいいんだという考えは嫌いです。
動物を尊敬しているから、
動物に失礼がないようにしたいわけです。職業というのは、その人の人生ですから、
金銭を得るだけの手段ではないはずです。
人生をかけて挑む気持ちが必要だし、
それは、僕だけじゃなくて
いま、一生懸命仕事をしている人たちの
正直なところなんじゃないかな。もしかしたら、
「ここまでパリッとした白衣や
大がかりな設備が必要なのかな」
って思われるかもしれない。
でも、要るんです。
僕は、医者だから。
患者にとって
貧乏な医者に診てもらうほど
惨めなことはないからです。 - ほぼ日
- ‥‥と、いいますと。
- 野村
-
「清貧」って言うけれど、
清く正しかったら
貧しくなるわけがないんです。
「清く正しくても貧である」場合には、
何か問題があるんです。
下手だったり、怠け者だったり
どこかの部分で手を抜こうとしている場合が
多いんじゃないでしょうか。
まじめに仕事をしていれば、
絶対に利益は出るんですよ。
ですから、僕はなるべく
身なりをきちんとします。
「清く正しく、
みなさんのためにがんばってますよ」
「みなさんを馬鹿にしていませんよ」
「私はこういう人物です、
そういう医者に、あなたは診られています」
ということを示しています。
海外では医者はみんな
こういう努力をしていますが、
日本人はちょっと、
ひねくれた国民性を持っているから
伝わらないんですね。 - ほぼ日
- 奥ゆかしさが美徳という意識もありますし。
- 野村
-
奥ゆかしいというよりも、
それは、ひがみが怖いからじゃないでしょうか。
怠けたせいでうだつが上がらない人が
能力のある人間に対して
自分なりの解釈をしないと、
自分の立つ瀬がないからじゃないかな?たとえば、大きな家を建てた人に対して
何も知らないくせに
「あいつは親が金持ちだから」って
言うヤツ、いるでしょう。
本人ががんばって
建てた家なのかもしれないのに、
「お金持ちのお父さんを持ったことも
運のうちだよね〜」
などと言っておけば、
努力をしない自分を正当化できるんです。 - ほぼ日
- 自分を守るために言ってしまうんですね。
- 野村
- そういうことをちゃんと理解できるかどうかは、
やっぱり経験が重要だと思います。
おそらく、苦労の度合いなんですよ。
苦労をしていない人は、理解力がないために、
表面だけを見て結論を出そうとするでしょう。
そういう人たちというのは概して、
つきあいづらいよ。 - ほぼ日
- ははははは。
- 野村
- いや、ほんとの話ですよ。
信頼で成り立つ商売において
つきあいづらい人を招くのは、
致命傷につながるんですよ。
どんなによくしても、
そういうヤツは必ず恩をあだで返すから。
「カリスマ獣医」と呼ばれる野村潤一郎先生は、東京・中野で動物の病院を開いています。愛車はフェラーリとランボルギーニ、ソファーはカッシーナ、飼っているペットは120匹以上。
たくさんのスタッフ、毎日やってくる患者さん、生きているもの、死んでいったもの、人間を含むたくさんのいきものに囲まれた毎日を送っています。
もともとは「睡眠論」の特集でお話を伺いに行ったのですが収まりきらない内容になったのでスピンオフ企画になって、ここに連載いたします。