- 野村
- 本来父親は、
種だけ撒いて去っていく存在です。
次の人がせっせかせっせか
掻き出すこともあるわけですから。
一方、畑側の母親の母性はものすごく強くて、
父親の父性より勝っています。 - ほぼ日
- なるほど。
- 野村
- ところが、それに勝るものがもうひとつあって、
それは、犬と飼い主のテレパシーです。 - ほぼ日
- そうなんですか。
- 野村
- 「父ちゃんヴィオちゃん通信」
というのがありまして。 - ほぼ日
- はあ。先生のワンちゃんの。
- 野村
- この間亡くなったんだけど、
ヴィオラっていう犬だったんです。
僕とヴィオちゃんはですね、
いっつも心の中で呼び合ってたの。
僕が「ヴィオちゃん」と呼ぶと
向こうが「父ちゃん」と呼ぶ。
「ヴィオちゃん」「父ちゃん」
「ヴィオちゃん」「父ちゃん」
「ヴィオちゃん」「父ちゃん」 - ほぼ日
- テレパシーで?
- 野村
- はい、そういうものですね。
僕が海外に行くとどうなるでしょうか。 - ほぼ日
- どうなるんでしょうか。
- 野村
- 成田空港でも、まだつながってます。
「ヴィオちゃん」「父ちゃん」
「ヴィオちゃん」「父ちゃん」
「離陸しますので、
シートベルトをお締めください」
ウイ〜ン、クォォォォオア〜、
♪チャラリラ〜(機内アナウンスの案内音)。 - ほぼ日
- はい、はい(笑)。
- 野村
-
そうすると、
「ヴィオちゃん」‥‥「父ちゃん」‥‥
「ヴィオ‥‥ちゃん」「父‥‥ちゃん」
通信のインターバルが
だんだん長くなっていきます。そして海外の、
ニューギニアあたりまで行っちゃうと、
もう届きません。
でも、ふたたび成田空港に降り立つと
復活します。ビ〜、ジャジャジャジャジャ、
ザザッ、ザザッ(無線電波のノイズのような音)、
「ヴィオ」、ザザッツ、
ザザザザザッツ「父ち」ザッ
「ヴィオちゃん」「父ちゃん」
「ヴィオちゃん」ザザッ
「父ちゃん」「ヴィオちゃん」「父ちゃん」 - ほぼ日
- 本当ですか。
- 野村
- 成田からスカイライナーに乗って
「ヴィオちゃん」「父ちゃん」
中野駅からタクシーに乗って
「ヴィオちゃん」「父ちゃん」
「ヴィオちゃん」「父ちゃん」
そして、玄関のドアまで来ると既に
おもちゃくわえて「おかえり」。 - ほぼ日
- へええ。
- 野村
- 僕が成田に降りたときに
犬が部屋でウロウロし出すから、
そうするとみんなが
「あ、院長先生、成田に着いたね」
って、わかるんです。 - ほぼ日
- すごい。
ほかの動物‥‥たとえば
猫にはないんですか? - 野村
- 猫にはありません。
猫といういきものと
犬といういきものが違うからです。 - ほぼ日
- 残念。猫にはないんですか。
- 野村
-
猫と犬が違うからこそ、
猫と犬がいるんですから。猫は猫のすばらしさがあって
犬は犬のよさがあります。
例えば、飼い主が強盗に殺されても、
猫は何もしません。
でも、それは猫が悪いのではなく、
猫がそういういきものだからです。犬は集団で獲物をしとめるから
チームを組む能力に長けています。
猫は一匹でハンティングするから、
単独行動が得意で、
爪も牙も鋭く、足も速く、
動物として洗練された形をしています。
灰皿と万年筆は違うんです。
それだけのことで、
どっちが偉いなんていえないんです。 - ほぼ日
- 動物とすごすことで
見えてくるものはたくさんありそうですね。 - 野村
- うん。やっぱり、
動物を飼っている人は、
「違うな」と思いますよ。
まずは、自分が食べること以外のところで
人間以外の命を愛せること。
ひとことでいうと、心に余裕があるんですよ。 - ほぼ日
- いやおうなくそうなりますね。
- 野村
- でしょ? そうすると、
その人の人生ってずいぶん違うな、と
思うんです。
エジソンやレオナルド・ダ・ヴィンチなど、
人間圏で成功している人たちは、
例外なく動物好きですよ。 - ほぼ日
- ああ、なるほど。
- 野村
- 「動物が嫌いだ」と言っている人で
成功している人は、
僕はひとりも見たことがないです。
自分の力で何かを切り開いて、
文化や文明を作り出した人たちは
例外なく動物が好きで、
自然科学に興味ある人たちばかりです。 - ほぼ日
- いろんな人を思い浮かべると、
たしかにそうかもしれません。 - 野村
- 余裕のない人間ほど
「犬にも心はあるんですか?」とか、
わけわかんないことを言うんですよ。
クワガタムシだって、
突っつけば怒るでしょ? - ほぼ日
- はい、はい、怒ります。
- 野村
- かみついてきますよね?
でね、怒るってことは、泣くんだよ。 - ほぼ日
- はあ。
- 野村
- で、泣くってことは、
笑うんだと思うなぁ。 - ほぼ日
- ええ?
- 野村
-
僕が3歳ぐらいのとき、
カナリアのオスとメスを飼っていました。
ところが、うちのおふくろが
エサ箱を掃除するときに、
メスの足を鳥カゴで挟んじゃった。
それがもとで、メスは死んでしまいました。
そうしたら、それまでいつも
唄っていたオスが、
急に唄わなくなったの。
エサも食べなくなって、
いつもうずくまるようになって、
そして、死んじゃいました。そのときに、思ったんですよ。
「食べものを食べてりゃ
生きていかれるってわけじゃねえんだな」って。大人になってからの結論は
「体はご飯を食べて生きていくけど、
心って、
愛や夢を食って生きてんじゃないかな」
ということでした。カナリアも人間も、
本当は
夢食って生きてるんですよ。 - ほぼ日
- 夢を。