もくじ
第1回金魚鉢は景色がゆがむ。 2008-05-08-Thu
第2回ハエと人間、何が違うの? 2008-05-09-Fri
第3回野村V先生。 2008-05-12-Mon
第4回太陽が東から昇るように。 2008-05-13-Tue
第5回女は裏切る、男は撒く。 2008-05-14-Wed
第6回クワガタムシも笑うんだ。 2008-05-15-Thu
第7回ものを言わない動物だから。 2008-05-16-Fri
第8回いきものとして。 2008-05-19-Mon

ほぼ日
我々は無意識で
人間と、ほかのいきものの境を
引いてしまっているかもしれません。
野村
人間も、ほかのいきものと同じですよ。
哺乳類だともっと近いでしょう。
例えばね‥‥例えば、男の人なら
だれでも経験したことあると思うんだけど、
男のピンチというものがあるんです。
ほぼ日
女のピンチとはちがうんですか?
野村
女のピンチとはちがうと思う。
男同士の戦いで「消滅させられる」、
生きるか死ぬか、こてんぱんの目にあう
そういうピンチです。
ライオンで言えば、
自分の女たちの群れを
よそ者に乗っ取られるようなことです。

新しく王座についたオスライオンは
赤ん坊たちを目の前で食います。
そのとき、メスたちはそれを許します。
「もっと強いタネで子を産みなおそう」と
思うんです。

ほぼ日
そうなんですか。
野村
追っ払われただんなとの子どもを食べられて、
「いい食べっぷりですね」と
うっとりしているかどうかはわかりませんが、
そんな妻たちのようすを、負けた男は
草むらから見るしかありません。
それが男の世界です。
ほぼ日
きびしいですね。
野村
きびしいですよ。
ですから、男にとっては、
会社をクビになったり
カメラを落として壊すよりも、
恋愛で傷ついたことのほうが
本能的な部分まで及びます。

彼女を寝取られちゃったら、
急に仕事もうまくいかなくなって
体重も減っちゃった、など、
ものすごく嫌なことが
つづくのではないでしょうか。
別れた彼女が知り合いの男と
ホテルに入るのを見ちゃった、
なんていうのもショックなのでは?

ほぼ日
別れたあとでもですか?
野村
気持ちが悪いと思いますよ。
いまつきあっている彼女が、
モト彼と友達づきあいしていたりしても、
むっちゃくちゃ嫌な気持ちになりませんか?

だからこそ、おっかなくて、みんな
彼女の携帯電話を見られないでしょう。
見たらおしまいかもしれませんよ。
人間の生殖形態には
そういうところがあるようです。

例えば、男はことが終わったあとに、
女のことをウザくなっちゃいます。
暑いし、もう、
布団から出て釣りに行きたい!

ほぼ日
急に別世界に行きたくなるんですね。
野村
そう。終わったあとは、プラモデル作ったり、
山登ったり、絵を描いたりしたいんです、
本当は。
なんでこういうことが起こるか、知ってますか?
ほぼ日
人間の生殖形態に関係があるんですか?
野村
いつまでも男にへばりつかれていたら、
女が次の男とできないからです。
ほぼ日
次の男。
野村
次の男がまたすぐやってくるんですよ。
人間の男の性器には
前の男の精子を掻き出すための部分が
あるんですけど、知りません?
それがあるのとないのでは、
掻き出し率が90%も違うんだって。
ほぼ日
‥‥掻き出すためとは、知らなかったです。
野村
男はスッキリしてしまうと、
「さあてと、じゃあ家帰って
 今日は国木田独歩でも読むかな!」
なんて思いながら、帰るわけです。
ほぼ日
女性がそのままでいると、またやってくる。
野村
また次の男が、
「お、前のが済んだ、済んだ」と言って
やってきます。
そして、前の精子を掻き出して
自分の精子を入れる。
だから女は、快感曲線の下降がなだらかで
夢うつつな気持ちになる生きものなんです。

そんなわけですから、
人間のメスは、オスを裏切りやすいんです。
その結果──まあ、こっちが
原因かもしれないけど、
男はあっちこっちに
ばら撒かなきゃいけないんです。
あ、もちろん強いオスは
自分のメスにちょっかい出すオジャマ虫を
こてんぱんに打ちのめしてもOKです。
こういったオスとしての普通さを
認めなくなったのは、何なのかな?
倫理観?

ほぼ日
う〜ん、うう〜ん。
野村
女を得るための戦いに不利な人たちが
「異議あり!」って
はじめちゃったからでしょ?
僕は、本来は
そんなこと言ってちゃいけないと思う。
男たるもの、実力の世界で
女を勝ち取るのが本当で、
人間だけがそうしなかった場合、
未来への存続が確立できなくなります。

場合によっては、でかい男同士が戦っている間に
ひ弱なオスがサササッと行って
ゲットしちゃうときもあるかもしれませんね。
だけどその結果、
いろいろなバリエーションの次世代が生まれます。
そうやって人間は発達してきたんです。

こういうことに反発する人は、
ドリーミーな世界に住んでいる机上論者と
マスメディアです。
圧倒的多数の意見を肯定していないと
自分の身があやうくなるからでしょう。
でもそんな、なまやさしいことばかりを
言っていたのでは、本来の、
動物の一種としての人間の未来はない。

第6回 クワガタムシも笑うんだ。