女優からアイドルを経て、
人気ライターとして
本を2冊出版するまでの話。
女優として芸能界デビューしたあと、
SDN48のメンバーとしてアイドルに転身。
そんな華やかな経歴をもつ大木亜希子さんは、
現在、人気ライターとして活躍されています。
歩き方が急にわからなくなるほど
精神的に追いこまれた日を境に、
自分の人生を見直しはじめた大木さん。
紆余曲折を経たいまだからこそ、
学生たちに伝えたいことばがありました。
担当は、ほぼ日の稲崎です。
なにを選んでも大丈夫。
- ――
- 大木さんはいま、
ライターとして活躍されていますが、
いまのお仕事は天職だと思いますか?
- 大木
- いまはライターとしての自分を
必要としていただくことが多いので、
それに少しでもお応えしたい感覚が強いです。
じつは仕事がいつなくなってもいいように、
まだバイトには籍を置いたままなんです。
あと、ライターが集まるスナックで、
チーママとしてもはたらいています。
タレント業とか司会業とか、
バイトのように受けることもあります。
いまは職業をひとつにしぼるつもりはなくて、
女優もタレントも何年もやってきたことだし、
いろんな足場をつくることのほうが
自分には大事なことなのかなって思っています。
- ――
- いろんな選択肢はあったほうがいいと。
- 大木
- そうですね。
ひとつしかもってないと、
そこで方向転換したいときに
逃げ道がなくなっちゃうんです。
私も会社員をやめるときに、
そのあたりのことがよくわかりました。
お金を稼ぐ手段がいくつかあれば、
人生を詰むこともない気がしますし、
どこかが伸びたらそこに力を入れるけど、
もしダメだったとしても他があるから大丈夫、
という状況つくっておきたいんです。
- ――
- そのほうがきもち的にも楽ですよね。
- 大木
- そうです、そうです。
- ――
- いまみたいな話に共感する人もいれば、
「最近の若者には夢がない」とか
「もっと一生懸命になれる夢を持とうよ」とか、
そういうふうに思う人もいると思うんです。
- 大木
- ええ。
- ――
- いろいろな経験をされた大木さんにとって、
「夢」ってどんなものだと思いますか?
- 大木
- 私も夢の正体って、
ずっとわからなかったんです。
でも、大人ってなぜか「夢を持て」って
言いがちじゃないですか。
- ――
- そうですよね。
「人生をかけられるものを見つけろ」とか。
- 大木
- 私がいろいろ経験してわかったのは、
人には「夢」と「使命」のふたつがあると思うんです。
- ――
- 夢と使命?
- 大木
- 夢は自分が能動的にやりたくて、
それに向かって1つずつステップアップしてくもの。
いわゆる、人生の目標ですよね。
でも、使命というのは夢とは違って、
自分の意思とはちょっと違うところで、
こういうことをするとまわりが救われるとか、
どうやらよろこんでくださるようだとか、
そういう自分に与えられた特別な役割だと思うんです。
私がアイドルのセカンドキャリアの本を書いたり、
人生もがいているような
女子の悩みをあけすけに書いたりするのも、
それを書かせていただくことで、
私に似ただれかをちょっぴり楽にできるかも、
という思いがあります。
それは、私のいまの使命だと思っています。
それは「夢は諦めた」というような
うしろ向きの話じゃないんです。
自分に与えられた使命をがんばって、
ちゃんと人生を生き抜こうとすることで、
必然的に自分に必要な人や、
夢を手助けしてくれる人が出てくるのかなって、
そんなふうに思いはじめています。
- ――
- 使命をがんばれば、
結果的に夢の実現にも近づくと。
- 大木
- そうですね。
でも、夢と使命って、
どっちのほうが大切とかもないと思うんです。
私のいまの考えでは、
夢は最初の第一段階でしかなくて、
ほんとうは「使命」にゴールがあって、
そこに向かうために「夢」というものを
経由するのかなって思っています。
- ――
- もし、社会に出る前の学生たちから
「自分には夢がありません」と言われたら、
大木さんはどんなふうに声をかけますか?
- 大木
- 私がお世話になってる心療内科の先生に、
私も同じような質問をしたことがあります。
「私、これから夢とかどうしたらいいんでしょうか」って。
- ――
- はい。
- 大木
- そのとき先生はこう答えてくれました。
「なにを選んでもいいんですよ」って。
- ――
- なにを選んでもいい?
- 大木
- 先生は「なにを選んでも正解なんですよ」って
おっしゃってくれました。
「なにを選んでもまちがいなんかなくて、
いつか自分の本質的なところに戻って来るから、
どんな選択肢になっても、
なにを選んでもそれは正解なんですよ」って。
- ――
- すごく勇気づけられることばですね。
- 大木
- 私もそれ言われたとき、
すごく心がホッとしたんです。
当時は100%は理解できなかったんですけど、
自分がまったく意図してなかった
人生を歩んでいるいまだからこそ、
「あのときの言葉って、こういうことだったのかも」
って思えるようになりました。
もし社会に出る前の学生さんに
ひとつだけ声をかけさせてもらうとしたら、
私は「なにを選んでも大丈夫ですよ」って、
そう言ってあげたいですね。
- ――
- 「なにを選んでも大丈夫」。
いいことばですね。
- 大木
- そして、もしやりたいことが
ちょっとでも思いつくんだったら、
先のことを考えて悩むよりも、
そこに飛び込んじゃうのがいいと思います。
バイトでもいいから、ちゃんとお金をもらって、
まずはその仕事をやってみる。
- ――
- まずはやってみる。
- 大木
- はたらいてお金もらうのって、
私はすごく大事なことだと思うんです。
仕事という責任をもってはじめて
がんばれる人間もけっこういると思うんです。
お金をもらうことで、
自分でやるしかない状況を
つくっちゃうのもひとつの手だと思います。
- ――
- 自分をどうやって鼓舞するかって、
けっこう大事なことですよね。
- 大木
- そうだと思います。
そのためにも、
まずは「なる」ことが大事な気がします。
「なりたい」と思うだけじゃなくて、
なれるものを探して、まずはそれになってみる。
一流の会社に就職したいじゃなくて、
どうしても大手の企業に入りたいとかじゃなくて、
自分が入れるところに入って、
実際に仕事をするところからはじめてみる。
先生のことばを借りるなら、
その選択にまちがいはないんです。
結果的に、自分の本質に戻ってくるから。
だから「なに選んでも大丈夫だよ」って、
学生さんたちにはそのことばを贈りたいですね。
- ――
- きょうはどうもありがとうございました。
素敵なお話をたくさんいただきました。
- 大木
- いやいや、そんな!
私みたいな未熟者がえらそうにすみません。
でも、ほんと、なに選んでも大丈夫だと信じています。
だって、そうじゃないと人生があまりにも
「絶対に一発勝負」になっちゃうじゃないですか。
だから思い切ってはじめてほしいですね。
どうもありがとうございました。
(おわります)
2020-01-24-FRI