ほぼ日刊イトイ新聞

C・シルヴェスター編『THE INTERVIEW』
(1993年刊)によれば、
読みものとしての「インタビュー」は
「130年ほど前」に「発明された」。
でも「ひとびとの営み」としての
インタビューなら、もっと昔の大昔から、
行われていたはずです。
弟子が師に、夫が妻に、友だち同士で。
誰かの話を聞くのって、
どうしてあんなに、おもしろいんだろう。
インタビューって、いったい何だろう。
尊敬する先達に、教えていただきます。
メディアや文章に関わる人だけじゃなく、
誰にとっても、何かのヒントが
見つかったらいいなと思います。
なぜならインタビューって、
ふだん誰もが、やっていることだから。
不定期連載、担当は「ほぼ日」奥野です。

08
言葉で人を彫り出している。

──
人の話を聞くことがおもしろいのは、
なぜだと思いますか。
塩野
人がおもしろいからじゃない?

人の人生はみなそれぞれだし、
誰のことも、知らないじゃん。
──
ええ。
塩野
インタビューとか聞き書きってのは、
それが文字になって読める。

その人の人生の、
ほんのわずかな断面かもしれないし、
経木のように、
薄ーく切った一面かもしれないけど、
そこに年輪は見えるし、
木のにおいは漂ってくるし‥‥ねえ。
──
ああ‥‥。
塩野
人生を一枚、薄ーく切っただけでも、
見えてくるものがあるんだね。

で、その、人生を薄く切るものこそ、
おそらく「質問」なわけ。
──
なるほど。
塩野
彫刻家はノミで仏像を彫り出すけれど、
ぼくらは「質問」で
人間像を彫ってるようなもんだと思う。

ふたりの人間が
ただ単に隣どうしに座ってるだけだと、
何も生まれないでしょう。
──
ええ。
塩野
でも「今日は、どちらから?」って
質問した途端に、何かが生じるよね。
──
どっちに転がっていくか予想もつかない、
やりとりと言うか、ラリーが。
塩野
まあ、えばってる人とか、
嘘ばっかり言ってるような人は別だけど。

そういう人の話、聞きたくないからねえ。
──
まあ、そうですね(笑)。
塩野
それより、
あっちのベンチに寝てるおじいちゃん、
「ちょっと起こしちゃって悪いけど、
どっから来たの?」
とかってやってるほうが、
絶対おもしろいことになると思うよね。
──
聞き書きは「人生ぜんぶ」を聞くから、
塩野さんは、実感として、
年をとればとるほど
人間はおもしろくなるって感じますか。
塩野
うん、思う。おもしろくなると思うなぁ。

名もなきひとりのおじいちゃんの話でも、
その人生の「断面」から、
ふっと「時代」が見えたりもするからね。
──
時代。
塩野
うん。
──
時代‥‥という言葉は、
「インタビュー」というものにとって、
とても密接なものだと感じていました。
塩野
人から時代が見えてくるインタビュー、
すごく、おもしろいもんね。

映画の人で言えばさ、
映画の黄金期があって、それが廃れて、
Vシネマがあって、今にいたる‥‥。
──
その人の歩みが、映画の歩みで。
塩野
その人の職業と、その人の生き方から、
時代の移り変わりや、
時代の年輪や、時代の枝葉や、
時代のコブや‥‥
そういうものが見えてきたりしたらさ、
もう、ドキドキしちゃうよね。
──
それは、有名な人でも、無名でも。
塩野
うん。どっちでもいいと思うけど、
コメディアンの人の「断面」には、
けっこう
「時代」が出るんじゃないかなあ。
──
ああ、なるほど。

時代の流行や雰囲気を体現してたり、
時代に対する批評性も、
持ってたりとか、しますもんね。
塩野
昔、三木のり平に
聞き書きをやった人がいたんだけど。

あれは、本当におもしろかったなあ。
そのときの日本が、
丸ごとぜんぶ見えちゃうような、ね。
──
そうなんですか。探してみます。
塩野
とはいえ、
なーんでもないおじさんやおばさん、
みたいな人を、
えんえんインタビューしていく、
というのも、いいと思うんだよ。
──
塩野さんが、
ずっとやってこられたことですよね。
塩野
とくに「ほぼ日」って、
ものすごく特殊な舞台だと思うから、
それ、合ってると思う。
──
そうでしょうか。
塩野
だって、
のんびりしたテンポで大事でない話、
いっぱい載ってるじゃない(笑)。
──
たしかに(笑)。
不要不急というものは多いですね。
塩野
うん、何だかわかんないんだけど、
「ただ、おもしろい」んだよ。

で、ポイントはさ、
奥野さんっていう取材者の個性が、
すごく目立たないでしょ。
──
ええ。
塩野
それって、すごく大事なことでね。

ぼくは芥川賞候補に4回もなったけど、
結局、くれなかったでしょ。
──
あ、はい(笑)。
塩野
つまり芥川賞作家にならなかったから、
聞き書きが続けられてると思う。
──
こう言ったら何ですけど、
こっちも「ふつうのおじさん」だから?
塩野
そう、芥川賞作家の「先生」になって、
テレビでペラペラしゃべってたり、
そんな人だったら、
あの、おじいさん、おばあさんたちは、
絶対に、ぼくに、
しゃべってくんなかったって思うんだ。
──
そう思われますか。
塩野
阿川(佐和子)さんなんかがやってる
インタビューは、
また特別だと思いますけど、
そうじゃないふつうのインタビューは、
話し手の言葉だけが浮かんできて、
聞き手は、そこにいるんだけど、
いないことにして話が進んでいくよね。
──
ええ。
塩野
インタビューをされた人の言葉だけが、
浮き上がるように、つくられてる。

その言葉を引き出した人はいるけれど、
読み手にとっては、どこにも、いない。
──
はい。
塩野
聞き書きとかインタビューって、
そういうもんだよなあって思う。
──
なるほど。
塩野
でも、その「いない誰か」が、
そこらへんのおじいちゃんの人生の
「切り口」や「断面」を
「ほーら、こんなに、おもしろいよ」
って、見せてくれるんだよね。

<おわります>

2017-07-20-THU