「書く」って、なんだろう?
紙とペンがあればできる
シンプルな行為でありながら、
無数の可能性を秘めている。
「ほぼ日手帳マガジン」で
去年、多くのかたに読まれた
人気コンテンツがかえってきました。
日常的に「書く」ことと
深い関わりをお持ちのみなさん、
「書く」ってどんな行為ですか?

書くってなんだ?

堀口尚子さん(1)
SEASON2 vol.5
堀口尚子

描くとは、
もうひとりの自分と会話をすること。

切り絵やスタンプ、絵の具やペンなど
さまざまな表現方法をミックスし、
すてきなイラストレーション作品を作っている
イラストレーター、アーティストの堀口尚子さん。
ほぼ日手帳2020ではカバー・オン・カバー
クリアファイルなどの
文房具のデザインも担当いただきました。
堀口さんにとっては、
ペンで線を引くことも、はさみで紙を切ることも、
けしごむはんこを作って押すことも、
すべてが「描く」行為。
描きながら何を考え、どんなことを感じているのか、
仕事場におじゃまし、話を聞きました。

プロフィール堀口尚子Naoko Horiguchi

イラストレーター、アーティスト。
1976年埼玉県生まれ。
1998年セツ・モードセミナー卒業。
墨、アクリル絵の具、ゴム判、切り絵などの
さまざまな素材を用いて具象・抽象作品を制作。
毛糸を使った作品から包装紙、
カレンダー、ポストカード、テキスタイルなど
「なんでもつくってみる」をモットーに活動中。

ほぼ日手帳2020では
カバー・オン・カバー nonohana
カバー・オン・カバー iroiroクリアカバー tsuta
ほぼ日のクリアファイル オリジナルサイズ用
ほぼ日のクリアファイル カズンサイズ用
ほぼ日のフィルムふせん cross
ほぼ日のちいさい便箋 りんごと花
のデザインを担当。

ホームページ

もくじ

考えすぎず、まず手を動かす。

堀口
いつも、描いたり切ったりの作業は
立ってやっているんです。
ーー
立ちっぱなしで、疲れませんか?
堀口
だいじょうぶです。
このほうが、落ち着くんです。
ーー
ちょっと、作業風景を
見せてもらってもいいですか。
堀口
いいですよ。
いつも、こんな感じで、
このへんの紙に。
ーー
フリクションペンですね。
堀口
はい。細いペンが書きやすいです。
ーー
紙もずいぶん、薄いような。
堀口
これは半紙なんです。
もう亡くなってしまったのですけれど、
祖母が書道の教室をやっていたので
家に半紙が大量にあって。
いつもではないですが、よく使います。
ーー
描くときは、「こうやって描こう」とか、
なにか考えていますか。
堀口
あんまり考えていないです。
描いていくうちにだんだん
かたちになってくるから。
とりあえず落書きの延長みたいな感じで
ただ描いていって、
なにかのかたちができたときに、
そこからイメージで広がっていく感じかな。
ーー
最初に鉛筆で下描きみたいなことは‥‥
堀口
あんまりしないんですよ。
下書きが苦手で(笑)。
ーー
描く前に下描きをしながら
アイディアを出す、みたいなことをせず、
いきなり本番なんですか。
堀口
紙がたっぷりあるので、
とりあえず描いてしまいます。
ーー
「こういう絵を描いてほしい」と
依頼されたときは?
堀口
漠然とイメージはするんですけど、
あまり考えすぎていると、
途中で、ぜんぜん違うことを
やりたくなったりするので(笑)。
あまり意識しないで、
とりあえず手を動かしていきます。
ーー
絵のお仕事をはじめてから
ずっと、そのやり方ですか?
堀口
そうですね、あんまり変わらないです。
ーー
堀口さんは子どもの頃から
絵を描くことが好きでしたか。
堀口
好きでした。
幼稚園のとき、クレヨンで描いていたのを
よく覚えています。
赤とか紫とか、いろんな色で分けて塗りたくって、
モザイク画みたいな感じの絵を描いていましたね。
ーー
動物やキャラクターの絵とかじゃなくて、
抽象絵画みたいな?
堀口
何だろう、よくわからないんですけど
色の固まりみたいなのを。
ーー
絵のお仕事をしたいと思ったのは
いつからですか。
堀口
最初は美容師になろうとしていたんです。
叔母が当時、美容院をやっていたので。
ーー
え、美容師さん。
堀口
自分のやりたいことがなかったんです。
とりあえず叔母さんの美容院で
いっしょに働いたらいいかなという単純な気持ちで。
あんまり好きとか嫌いとかもなく。
ーー
ええ。
堀口
当時は、専門学校卒業後に研修で1年間美容院に勤めて、
そこから試験を受けて合格してはじめて
美容師になれるっていう感じだったんですね。
わたしもインターンで美容院に勤めていたんですが、
そのときに、たまたま週1回、芸大の先生に
絵を教えてもらえる機会があったんです。
美容室で創造力を養おう、みたいな。
ーー
みんなでアート感覚を身につけよう、みたいな?
すごいですね。
堀口
週に1回テーマが出されて、
そのテーマに合った作品を作って持っていく、
ということをやっていました。
絵を描いたり、コラージュで何かを
作ったりしていたときに、
「こういうのが好きだな」と思って。
ーー
美容師よりもおもしろいぞ、と。
堀口
はい。
美容院じゃなくて絵を習いたいなと思って、
セツ・モードセミナーに通いはじめました。
ーー
セツ・モードセミナーというと
かなり自由な雰囲気の美術学校ですよね。
どんなことを勉強したんですか。
堀口
長沢節先生という
ファッションイラストレーターの第一人者の先生と
いっしょにひたすらモデルデッサンをする授業とか、
ファッションイラストレーションの授業、
水彩の授業もありました。
授業には来てもいいし、来なくてもいいみたいな
本当に自由な学校でしたね。
学科や専攻もないし、採点もないんです。
ーー
採点も?
堀口
たとえば、自分たちが描いた絵を見ながら、
まずは生徒の何人かが
「わたしはこれがいいと思う」と、
いいと思ったものを言います。
それで、先生が最後に
「これがいいです」と言ってくれるんです。
そういう授業で、すごくたのしくて。
ーー
一般的な、いわゆる授業ではないんですね。
堀口
わたしも最初はぜんぜん知らずに、
それこそ教科書を広げて、ノートを取りながら
授業を受けるんだろうと思っていました。
でも実際、先生は自由にうろうろしているし、
生徒もただしゃべりに来ているだけだったり。
まわりも20代の学生から50代の社会人まで
いろんな人がいて、たのしかったですね。
ーー
その学校には何年通ったんですか?
堀口
2年ですね。
23歳ぐらいでしたけど、
その3年がわたしの中で大きかったんです。
時間があるようで、ないような。
ーー
美容師のきびしい世界から、
学校に行ってもいいし行かなくてもいい、
みたいな世界に、ですものね。
堀口
それまでのきっちりした
時間の感覚はすっかりなくなってしまい、
時間にはルーズになりました(笑)。
いいんだか悪いんだか‥‥。
でも、そのときの人のつながりが、
いまでもすごく大きいですね。

(つづきます)

第2シーズン

第1シーズン

photos:eric