「書く」って、なんだろう?
紙とペンがあればできる
シンプルな行為でありながら、
無数の可能性を秘めている。
「ほぼ日手帳マガジン」で
去年、多くのかたに読まれた
人気コンテンツがかえってきました。
日常的に「書く」ことと
深い関わりをお持ちのみなさん、
「書く」ってどんな行為ですか?

書くってなんだ?

カメントツさん(1)
SEASON2 vol.3
カメントツ

遊んでもらいたくて、
実験しながら描いている。

漫画家のカメントツさんは、
いろいろな職業を転々としながら、
27歳で漫画家としてデビュー。
潜入取材を得意とするルポ漫画家として
ウェブで話題になることはあったものの、
作家としては伸び悩んでいたそうです。
ところが、2017年にTwitterで発表した
『こぐまのケーキ屋さん』の大ヒットで、
周囲からの評価が大きく変わりました。
ウェブで無料公開を前提にした作品として、
紙の漫画にはできない実験をくり返している
カメントツさんの「描く」に迫ります。
インタビューの最後には、
こぐまの店長を描く動画もありますよ。

プロフィールカメントツKamentotsu

1986年生まれ。愛知県出身。
WEBを中心に活動するマンガ家。
レポートマンガとキャラクターマンガを得意とする。
『カメントツのルポ漫画地獄』は、
1000万PV以上の話題作である。
また、2017年より自身のSNSに掲載し書籍化した
『こぐまのケーキ屋さん』は、
発売から1年間で累計50万部を突破。

ホームページ
Twitter@Computerozi

もくじ

理想の画風は海外作家

ーー
きょうは「書く」がテーマなのですが、
カメントツさんは『こぐまのケーキ屋さん』
「ポスカ」のペンで描いているそうですね。
カメントツ
はい、「ポスカ」で描いています。
漫画をはじめた頃、東急ハンズに並んでいる
黒のペンをたくさん買って、
1本1本線を引く実験をやってみたんです。
そうしたら1本だけ
やけに「アナログしい」ペンがあって、
それが、日向に置いて暖められたポスカで。
ーー
「暖められた」が大事なんですか。
カメントツ
「ポスカ」っていう子はけっこう、
インクの出にムラがあるんですよね。
「ちょっとインクの出がいい状態になったポスカ」
というのがすごく大事なんです。
試しに線を引いたら「あ、これだー!」と思って。
なので今使っているのは「ポスカ」の極細と、
細いところはトンボの「筆之助」ですね。
ーー
「ポスカ」って太くて鮮やかなペンなので、
繊細な漫画に使うのは意外ですが、
カメントツさんが知っている漫画家さんで
ポスカを使っているかたっていますか。
カメントツ
「ポスカ」を使う人は聞いたことないですね。
この子、すごくピーキーなペンなんです。
以前、六本木ヒルズでライブペイントをしたとき、
高い場所の気圧のせいなのか、
インクの出方が変わっちゃいました。
普通に使う分には気にしないでしょうけど、
漫画用のペンとして使うには、
あまりにもピーキー過ぎる気がします。
なので、ペンを入れる際にはドライヤーが欠かせません。
日向に置いた状態に統一するために暖めるんです。
だから、ドライヤーもぼくの画材のひとつですね。
ーー
ドライヤーも描く道具の一部なんですね。
カメントツさんの描く絵には、
優しさと、せつない雰囲気も感じるのですが、
絵の世界観は何に影響されたものなんですか。
カメントツ
昔、すごく好きだった児童文学で
『大どろぼうホッツェンプロッツ』
というドイツの作品があって、
作者のプロイスラーさんの挿絵がおしゃれなんです。
あとはトーベ・ヤンソンさんだとか、
海外の絵がすごく好きだったので、
この絵で漫画が描けないかなと思いながら、
まだ描けてないっていうのが今ですね。
ーー
ああ、たしかに似ていますね。
カメントツさんの絵は、
黒の塗り方が特徴的だと思うんです。
カメントツ
ぼくの描く黒は「カケアミ」という技法を使っています。
ネット漫画ではわりと珍しかったので、
白の使い方が変わって見えたのかもしれないですね。
ーー
海外作家の絵本を目標に、
絵のタッチを習得しようとしていたのですか。
カメントツ
ぼくがデビューしようとした5年前って、
読者のみなさんがデジタルの線に慣れてきた頃で、
デジタルの線で描いてある漫画を
スラッと読めるようになった頃です。
そんなタイミングだったんで、
ぼくがデジタルの線で描いても埋もれるだろうし、
かと言ってGペンで描き始めるには遅すぎるし。
ぼくのデビューは27歳で遅かったんで、
何かひとつ特徴的なポイントを探さないと
だめだろうなと思ったんです。
で、何を血迷ったのか、
シヤチハタだけで漫画描いてみたりして。
ーー
えっ。シヤチハタって、あの印鑑の?
カメントツ
シヤチハタの角の部分で絵を描いて、
たまにポンポン、ポンポンって押して、
何が描いてあるのかわからない
「佐藤佐藤佐藤佐藤」「鈴木鈴木鈴木鈴木」
みたいな感じの漫画なんです(笑)。
「これ、自分の名前が出てきたら嬉しいでしょ?」
と思ってやってみたんですけど、
そんなにおもしろいのが描けそうもなかったので
世に出すことなく、やめてしまいました。
ーー
シヤチハタの広告なら、
もしかしたらいけたかもしれませんね(笑)。
デビューが遅いとおっしゃっていますが、
もっと若い頃から漫画家になろうとは
思っていなかったんですか?
カメントツ
ぼく、漫画家になる前は
いろんな仕事を転々としていたんですよ。
でも、カメラマンも、デザイナーも
さほどうまくいかなくて、
イラストレーター、雑貨のデザイナー、
いろんなクリエイティブに手を出してみたけれども、
なかなか自分の思う通りにならないんです。
「もう、ぜーんぶやーめた!」となって
自動車工場で働いていたんですよ。
その工場で2年働いているうちに、
次は何をやろうかって考えるようになるんです。
よくよく考えてみたら、
「漫画がめちゃめちゃ好きなはずなのに、
ちゃんと描いたことなかったな」と思って。
こういう言い方するとカッコ付けているみたいですが、
そこで点が線になったんです。
ーー
今までの経験が、つながった。
カメントツ
児童文学が好きで、漫画を買って読むのが好きで、
いろんなクリエイティブに手を出してきた。
動画を作ったこともある、写真を撮ったことも、
子供と関わったこともある。
大学時代にちょろっと漫画を描いたことはあったけれど、
本気で漫画家を目指したことはありませんでした。
「そんなに好きなら漫画を描いてみよう」と思って、
最初に描いたのが『てんぐ子』という漫画。
黒人の男の子が天狗の女の子を好きになる話です。
ーー
いろんな経歴を経て27歳でデビューするのは、
漫画家さんにとっては珍しいものですか。
カメントツ
ぼくみたいに漫画家を目指しはじめたのが
27歳というのは少ないかもしれませんが、
「27歳でようやくデビュー」はよくいますよ。
小学館のパーティーに行くと、
33歳のぼくはまだ若手、若造扱いです。
どこの業界もそうだと思いますけど、
大御所の先生たちが
本当に才能がありすぎる人ばっかりなんで、
なかなかイスが空かないんですよ、これが。
ーー
ぼくがカメントツさんを知ったのは、
ルポ漫画家として活動していた頃でした。
怪しい世界に突っ込んで行くような、
「何かやらかしてやるぞ」みたいな
爆弾をつねに抱えた男という印象だったんです。
カメントツ
これまでぼくが描いていた漫画の反省点として、
インターネットの枠からはみ出せなかった、
というところがあるんです。
テレビに出たいとか映画化されたいとかではなく、
インフラ化したものからはみ出せなかった。
作品から派生するものができませんでした。
『カメントツのルポ漫画地獄』でやっていたことは、
コンテンツではなくて、ニュースだったんですよね。
ーー
ニュースというと?
カメントツ
ニュースは、消費されておしまいなんです。
古新聞を誰も買わないのと同じように、
遅れた情報には誰も興味がありません。
どれだけネット上で話題になっても、
その場で消費されて終わってしまったんだろうな、
という自己分析をしているんです。
ネットで話題になりたい、バズらせたい、
ということを意識しすぎてしまった結果、
それ以上の拡がりを生めなかった、と反省しています。
もちろん、あれはあれで
ぼく的にはおもしろい活動だったんですけどね。
ーー
アングラな世界に潜入する『ルポ漫画地獄』、
大御所の先生にインタビューする『漫画ならず道』。
それこそ『タッチ』のあだち充先生に、
「なんでタッチのかっちゃんを殺したの?」
と質問したことが話題になってましたよね。
ヒリヒリしながら更新をたのしみにしていたのも、
ニュースならではの喜びだったんですね。
カメントツ
そうですね、そうですね。
ぼくみたいな小ざかしい漫画家のところに
『タッチ』のあだち充先生や
『名探偵コナン』の青山剛昌先生が
下りて来てくださるっていうのも、
意図的に演出していた部分ではありました。
思いのほか出演いただいた
大作家のみなさまが超ノリノリで
楽しい作品では、あったのですが‥‥。

こぐまが始まってから青山先生やあだち先生に
お会いしたこともあったのですが、
前のような「ノリノリ」感が無くなったというか、
「おう」って感じなんですよね。
拡大解釈もはなはだしいと
自分でもわかっているのですが、
ぼくが漫画家として、恒河沙(ごうがしゃ)段ある
階段の1段目に足を掛けたから、
ぼくが漫画家としての第1歩目を
踏み出すことができたから、
「お前はもう、沢山いる作家の一人だからな」
ということなんじゃないかなー‥‥と!
ぼくの勘違いかもしれませんが、
「かわいがり」の領域から出れたみたいな
そういう厳しくて涙が出るほど
うれしい空気を感じましたね。
ーー
どこからが「漫画家」といえますか。
カメントツ
名乗ったところから漫画家と言えますけど、
ぼくが考えていることとしては、
何かひとつ、会社に黒字を出したところが
漫画家としての1歩目なんじゃないかなって。
自分の活動で経済が動いていることが
仕事なんじゃないかなと思っています。
だから、自分の本が窓際社員みたいになっちゃうと
やっぱり寂しいじゃないですか。
その会社を消費しているだけだと悲しいなって。
だから、そこを見られるようになってこそ、
作家なんじゃないのかなって。

(つづきます)

第2シーズン

第1シーズン

photos:eric