2011年・新春おいわい対談!   鶴瓶さんと。  ネアカ元気で、へこたれず。
2011年のお正月は、 笑福亭鶴瓶さんのご登場です。 迎える糸井重里の前に、 あの笑顔でやってきてくださった鶴瓶さん。 鶴瓶さんと、落語の話をしました。 鶴瓶さんと、「フリー」のおもしろさを話しました。 鶴瓶さんと、「えっらい怒られた話」をしました。 鶴瓶さんと、ツイッターでいっしょに遊びました。 お正月にふさわしい、あかるいあかるい対談です。 年の初めに、ぜひぜひどうぞ。 「ネアカ元気で、へこたれず。」 ことし、みんなの支えになる言葉かもしれませんよ?
1 『錦木検校』
糸井 うひゃ、鶴瓶さん。
鶴瓶 どうもどうも、糸井さん。
糸井 お久しぶりで。
鶴瓶 ほんま、お久しぶりで。
あ、これ、
「明けましておめでとう」なんや。
糸井 そうそう、
まあ一応ね、お正月に載せますので。
鶴瓶 そんならもっと、
ちゃんとした格好してきたらよかった。
糸井 いやいや、そんな(笑)。
鶴瓶 (かしこまって)みなさん、
明けましておめでとうございます。
糸井 ふつうでいいですよ、ふつうで(笑)。
鶴瓶 そやね、12月ですからね、まだ。
糸井 なにしろきょうは、ありがとうございます。
鶴瓶 いえいえ。
糸井 このあいだは、ラジオ局のそばで。
鶴瓶 そうそうそう、ニッポン放送の。
糸井 なんかね、なにかを憂いながら、
こう、歩いて。
鶴瓶 そうそう、憂いながら。
いや、あれなんよ、
あのお‥‥『錦木検校(にしきぎけんぎょう)』
という落語をね、
ちょうどこのあいだの会であげたから、
だから、それがたいへんやって。
糸井 たいへんで。
鶴瓶 あのね、全盲の話なんです。
糸井 はあ‥‥あ、そうか、検校か。
鶴瓶 検校。

※検校(けんぎょう)

 室町時代以降、目の不自由な人に
 与えられた最高の官名。
 専用の頭巾や衣服、
 杖などの所持が許された。

糸井 そうかそうか‥‥
ぼくは知らないのかな。
その題の噺を、聞いたことがない気がする。
鶴瓶 もともとは『三味線栗毛(しゃみせんくりげ)』
というやつなんですよ。
糸井 あ、『三味線栗毛』はしってます。
鶴瓶 『錦木検校』は、
それの、検校のところだけをやるんです。
糸井 ああー、なるほど。
鶴瓶 柳家喬太郎さんの『錦木検校』をきいて、
これはいいなぁ思いましてね、
自分でも高座にかけることにしたんですわ。
糸井 喬太郎さんの。

※柳家喬太郎
(やなぎやきょうたろう)さん

 1963年、東京都生まれの落語家。
 1989年、柳家さん喬に入門。
 2000年、12人抜きで真打ち昇進。
 古典落語に磨きをかけながら、
 独自の新作での注目を集める。
 『錦木検校』が収録されたCDはこちら

鶴瓶 あのね、お殿さんに嫌われてる次男がおって、
その次男が、お城の下にある
下屋敷にさげられてしまうんですよ。
糸井 うんうん。
鶴瓶 角三郎いう名前なんですけど、
町の人間にばかにされるわけです。
「酒井のバカ殿」って言われる。
「若殿」やけど「バカ殿」って言われる。
糸井 うん、バカ殿。
鶴瓶 ある日、角三郎のところに、
錦木いう、あんまさんが揉みに来て言うんです。
「骨組みがふつうやない」と。
殿さんのせがれやと知らないからね。
「おたくは、いったい何者や、
 これは殿さんになる骨組みやぞ」と。
で、角三郎、
「そうか、俺は殿になる骨組みなんか。
 じゃあ、もし俺が殿になったら、
 おまえを検校にしてやるよ」
糸井 うん。
鶴瓶 ふたりはものすご仲良うなるんですけど、
あるとき、
錦木がものすごい熱を出して、
1か月くらい寝込むんです。
そのあいだに、まあ、いろいろあって、
バカ殿や言われてた次男が、殿さんになるんです。
酒井雅楽頭(さかいうたのかみ)いう。
糸井 うん、なるほど。
鶴瓶 で、寝込んでる錦木のところに
近所の人が来て言うんです。
「あんた、そんな弱気になって‥‥。
 今、世間は酒井雅楽頭の話でもちきりや。
 次男で冷や飯食うとったんが
 急に殿さんなったんや。
 みんなでバカ殿や言うてたけど、
 あの人は名君や。
 角三郎いうてたあの人は‥‥」
それで、錦木「ええーーーー!」ってなって、
行くんです、殿さんのところに。
糸井 うん。
鶴瓶 そっからもまあ、いろいろあるんですが、
錦木はなんとか城に入ります。
ひとりでポツンと座ってると、
そこへ殿さんが入ってきて、
おごそかに「酒井雅楽頭である」と。
友だちだったころとは、
まったく違うしゃべりかたですよ。
ごっついきっちりした言い方で、
「酒井雅楽頭である」と。
前は仲良うしゃべってたのにね。
それを聞いた錦木は、
自分は検校になれると思って来てるんやけど、
もう、もう場違いになってしまって。
で‥‥
「あんま錦木、よう来たのう。
 そのほうを探しておったのじゃ。
 どこに住んでるのか聞いてなかったもんでな。
 いの一番にそのほうに知らせたかったが、
 そうもできんでの。
 いろいろバタバタ忙しく、
 落ち着いたら手を尽くそうと思うておった。
 おお、錦木、おもてを上げい」
後光がさして、おもてを上げられない。
「上げられません」
「何を申しておる、おもてを上げい。
 錦木‥‥‥‥‥‥‥‥
 おい、大名になったよ」
って、そこからガッと崩すんです。
糸井 おお‥‥。
鶴瓶 「大名になったよ。
 おまえは本当に名人だな」って。
錦木は、そのときに初めて、
自分はえらいとこへ来てることがわかって、
「祝いに来ただけです」言うて帰ろうとすんのよ。
すると、
「大事な約束があるではないか。
 約束を覚えておろう?
 おまえは忘れても、わしは覚えておる。
 皆の者よく聞け!
 ここにある、あんま錦木、
 今日ただいまより検校である!」
とまあそういうことになるんです。
糸井 うん、うん。
鶴瓶 ところが、
「検校、錦木、おもてをあげい。
 ‥‥錦木? 錦木!」
死んでるんです。
そこからはもう、殿さまはダダ泣きになりながら、
「おまえはわしを大名にしておいて、
 なんでわしがおまえを
 検校にささんつもりや!
 わしを、わしを恩知らずにするつもりか!」
というのがラストなんです。
糸井 ほう‥‥。
人情噺なんですね。
鶴瓶 人情噺なんです。
糸井 いや、もう、最初っからいいですねぇ。
ありがとうございます。

(つづきます)
 
2011-01-01-SAT
 
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