糸井 |
うひゃ、鶴瓶さん。
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鶴瓶 |
どうもどうも、糸井さん。
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糸井 |
お久しぶりで。
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鶴瓶 |
ほんま、お久しぶりで。
あ、これ、
「明けましておめでとう」なんや。
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糸井 |
そうそう、
まあ一応ね、お正月に載せますので。
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鶴瓶 |
そんならもっと、
ちゃんとした格好してきたらよかった。
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糸井 |
いやいや、そんな(笑)。
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鶴瓶 |
(かしこまって)みなさん、
明けましておめでとうございます。
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糸井 |
ふつうでいいですよ、ふつうで(笑)。
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鶴瓶 |
そやね、12月ですからね、まだ。
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糸井 |
なにしろきょうは、ありがとうございます。
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鶴瓶 |
いえいえ。
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糸井 |
このあいだは、ラジオ局のそばで。
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鶴瓶 |
そうそうそう、ニッポン放送の。
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糸井 |
なんかね、なにかを憂いながら、
こう、歩いて。
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鶴瓶 |
そうそう、憂いながら。
いや、あれなんよ、
あのお‥‥『錦木検校(にしきぎけんぎょう)』
という落語をね、
ちょうどこのあいだの会であげたから、
だから、それがたいへんやって。
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糸井 |
たいへんで。
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鶴瓶 |
あのね、全盲の話なんです。
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糸井 |
はあ‥‥あ、そうか、検校か。
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鶴瓶 |
検校。
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※検校(けんぎょう)
室町時代以降、目の不自由な人に
与えられた最高の官名。
専用の頭巾や衣服、
杖などの所持が許された。 |
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糸井 |
そうかそうか‥‥
ぼくは知らないのかな。
その題の噺を、聞いたことがない気がする。
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鶴瓶 |
もともとは『三味線栗毛(しゃみせんくりげ)』
というやつなんですよ。
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糸井 |
あ、『三味線栗毛』はしってます。
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鶴瓶 |
『錦木検校』は、
それの、検校のところだけをやるんです。
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糸井 |
ああー、なるほど。
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鶴瓶 |
柳家喬太郎さんの『錦木検校』をきいて、
これはいいなぁ思いましてね、
自分でも高座にかけることにしたんですわ。
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糸井 |
喬太郎さんの。 |
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※柳家喬太郎
(やなぎやきょうたろう)さん
1963年、東京都生まれの落語家。
1989年、柳家さん喬に入門。
2000年、12人抜きで真打ち昇進。
古典落語に磨きをかけながら、
独自の新作での注目を集める。
『錦木検校』が収録されたCDはこちら。
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鶴瓶 |
あのね、お殿さんに嫌われてる次男がおって、
その次男が、お城の下にある
下屋敷にさげられてしまうんですよ。
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糸井 |
うんうん。
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鶴瓶 |
角三郎いう名前なんですけど、
町の人間にばかにされるわけです。
「酒井のバカ殿」って言われる。
「若殿」やけど「バカ殿」って言われる。
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糸井 |
うん、バカ殿。
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鶴瓶 |
ある日、角三郎のところに、
錦木いう、あんまさんが揉みに来て言うんです。
「骨組みがふつうやない」と。
殿さんのせがれやと知らないからね。
「おたくは、いったい何者や、
これは殿さんになる骨組みやぞ」と。
で、角三郎、
「そうか、俺は殿になる骨組みなんか。
じゃあ、もし俺が殿になったら、
おまえを検校にしてやるよ」
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糸井 |
うん。
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鶴瓶 |
ふたりはものすご仲良うなるんですけど、
あるとき、
錦木がものすごい熱を出して、
1か月くらい寝込むんです。
そのあいだに、まあ、いろいろあって、
バカ殿や言われてた次男が、殿さんになるんです。
酒井雅楽頭(さかいうたのかみ)いう。
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糸井 |
うん、なるほど。
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鶴瓶 |
で、寝込んでる錦木のところに
近所の人が来て言うんです。
「あんた、そんな弱気になって‥‥。
今、世間は酒井雅楽頭の話でもちきりや。
次男で冷や飯食うとったんが
急に殿さんなったんや。
みんなでバカ殿や言うてたけど、
あの人は名君や。
角三郎いうてたあの人は‥‥」
それで、錦木「ええーーーー!」ってなって、
行くんです、殿さんのところに。
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糸井 |
うん。
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鶴瓶 |
そっからもまあ、いろいろあるんですが、
錦木はなんとか城に入ります。
ひとりでポツンと座ってると、
そこへ殿さんが入ってきて、
おごそかに「酒井雅楽頭である」と。
友だちだったころとは、
まったく違うしゃべりかたですよ。
ごっついきっちりした言い方で、
「酒井雅楽頭である」と。
前は仲良うしゃべってたのにね。
それを聞いた錦木は、
自分は検校になれると思って来てるんやけど、
もう、もう場違いになってしまって。
で‥‥
「あんま錦木、よう来たのう。
そのほうを探しておったのじゃ。
どこに住んでるのか聞いてなかったもんでな。
いの一番にそのほうに知らせたかったが、
そうもできんでの。
いろいろバタバタ忙しく、
落ち着いたら手を尽くそうと思うておった。
おお、錦木、おもてを上げい」
後光がさして、おもてを上げられない。
「上げられません」
「何を申しておる、おもてを上げい。
錦木‥‥‥‥‥‥‥‥
おい、大名になったよ」
って、そこからガッと崩すんです。
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糸井 |
おお‥‥。
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鶴瓶 |
「大名になったよ。
おまえは本当に名人だな」って。
錦木は、そのときに初めて、
自分はえらいとこへ来てることがわかって、
「祝いに来ただけです」言うて帰ろうとすんのよ。
すると、
「大事な約束があるではないか。
約束を覚えておろう?
おまえは忘れても、わしは覚えておる。
皆の者よく聞け!
ここにある、あんま錦木、
今日ただいまより検校である!」
とまあそういうことになるんです。
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糸井 |
うん、うん。
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鶴瓶 |
ところが、
「検校、錦木、おもてをあげい。
‥‥錦木? 錦木!」
死んでるんです。
そこからはもう、殿さまはダダ泣きになりながら、
「おまえはわしを大名にしておいて、
なんでわしがおまえを
検校にささんつもりや!
わしを、わしを恩知らずにするつもりか!」
というのがラストなんです。
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糸井 |
ほう‥‥。
人情噺なんですね。
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鶴瓶 |
人情噺なんです。
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糸井 |
いや、もう、最初っからいいですねぇ。
ありがとうございます。
(つづきます) |
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