デヴィッド・ルヴォー対談 だから演劇はやめられない。 ──昔の日々と、今の日々。──  ゲスト 宮沢りえ[役者と演出家編]/木内宏昌[演出家と劇作家編]
舞台演出家のデヴィッド・ルヴォーさんが、 ひさしぶりの日本公演をおこないます。 タイトルは『昔の日々』、 もちろん日本人キャスト、日本語での上演です。 ウエスト・エンドやブロードウェイで活躍してきた ルヴォーさん(すごい人なんですよー!)が、 なぜ異国のニッポンでこれほど緻密に、 しかも日本語の舞台を演出できるんだろう? そもそも舞台って何? 演劇ってどんなもの? 役者の立場からは、宮沢りえさんが。 戯曲家の立場から、木内宏昌さんが聞き手となって、 ルヴォーさんの原点から「今」までをさぐる インタビューをおこないました。 演劇ってよくわからない、というひとも、 なんだか苦手っていうかたも、 ぜひお読みいただけたらと思います。
デヴィッド・ルヴォーさんってどんな人?
宮沢りえさんのプロフィール
木内宏昌さんのプロフィール
公演『昔の日々』について
おひさしぶりです、ルヴォーさん。
 
[役者と演出家編]その1 ひとの記憶の不思議さと不確かさ。
宮沢 ルヴォーさん!
またお目にかかれて嬉しいです。
ルヴォー こちらこそ、来てくださってありがとうございます。
宮沢 今回のお芝居は、どんなお話ですか?
ルヴォー あるひとりの女性を巡って男と女が闘うっていう、
彼女の取り合いみたいな話です。
不思議な感じがしますよ。
3人がひとつの部屋に集まって過去の話をするんだけれど、
それぞれの過去が、違うんです。
「こうだったよね」って話をひとりがすると、
別の人が「ううん、そうじゃなくて、こうだった」。
その過去が過去のままではなくて、
現在に過去が浸食してきたりする。
とても面白いです。
人間の記憶って、当てにならないものである、
っていう話でもあって。
人間って、現実を勝手に作っていくものだよね。
ぼく自身、たとえば4歳の時に体験したことが
記憶として残っていても、
体験というものが重なってきた時に、
どんどんその記憶が変形していく。
宮沢 そうですよね。
ルヴォー ぼくは母親から、「あなたたちのお父さんとは
エレベーターの中で知り合ったのよ」って
ずっと聞かされてきたんです。なれそめの話です。
でも、「その通りだ」っていう一言を
父からは、聞いたことがない。
ひょっとして、母はそういうふうに覚えているけれど、
父は違う話として記憶しているのかもしれない。
宮沢 お父様も、ご自分の記憶が
確かじゃないかもしれないとおわかりだから、
おっしゃらないんでしょうね。
ルヴォー そうなんです、本当にそう。
自分の体験は違うんだけど、
母の記憶が間違っているわけでもないだろう、みたいな。
宮沢 でも、お父様よりお母様のほうが、
ものをどんどん前に表現できるから。
ルヴォー そう、父親よりも母親のほうが表現が豊かです。
父親は、秘密をずっと持ってる感じで。
たぶん、母のなれそめの話には、
どこか違うところがあるんだろうなぁ。
彼らが知り合った頃は、4階建て以上の建物が
そんなにロンドンになかった時代なんですよ。
だから、エレベーターで知り合ったっていっても、
とても短い時間だよね(笑)。
宮沢 そうね(笑)。
ルヴォー 父は別に手が早いタイプではないので(笑)、
エレベーターで声を掛けるなんてことはあるかなって。
4階しか上り下りしない時に声を掛けるなんて。
宮沢 でも、昔のエレベーターって、のんびりしてるから。
ルヴォー それもある! どこかで止まっちゃったのかもしれない。
でも、それでもね、相当、父の手が早くないと、
そんな所で声を掛けられなかったと思う。
宮沢 そうですね。記憶が変化していくのって‥‥、
自分にいいように変化するのかな?
 
ルヴォー 自分のいいように、かどうかもわからないですよね。
宮沢 そうですね。
そもそもなぜ変化するんでしょう?
ルヴォー 肌が、生きててどんどん変化するように、
記憶も変化し続けていくものなんじゃないかな。
自分たちで認めるよりも、
過去ってすごく不思議なものなんじゃないかなと思う。
で、不思議だから、自分の中でつながるように、
勝手に並べ替えたりする。
でもその中には、自分じゃない人の体験が
混ざっていたり。
変化して違う人間になっていきますからね、どんどん。
宮沢 今取り組んでいる『海辺のカフカ』っていうお芝居は、
ひとつのストーリーの中に
いろんな人間たちのドラマが描かれていて、
突然戦後になったり、突然戦中になったり、
突然現代になったり、飛ぶんです。
でも、戦時中に生きてた人も、今ここにいる人も、
絶対に何かがつながっているっていうことを、
みんなの解釈を(稽古場で)提供し合っていて。
わたしは、この人の生まれ変わりがこの人で、
わたしが母親だったんじゃないかとか、
そういう話を今すごく深くしているので、
記憶とか、もしかしたらその人が生まれる前に
生きていた記憶っていうのも、
どこかにはきっとあるんだろうなっていうのを
すごく感じるんです。


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『海辺のカフカ』
村上春樹さんの世界的ベストセラー小説を原作に、
2012年、蜷川幸雄さんの演出で舞台化。
宮沢りえさんが主演。
この2014年は、カフカ役に
これが初舞台となる新人・古畑新之さんを抜擢、
埼玉、大阪、東京での公演のほか、
2015年にはロンドンとニューヨークでも
上演されることが決まっている。
東京公演
大阪公演
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ルヴォー DNAの中にいろんな情報を持って生まれるって、
本当のことじゃないですか。
生まれ変わりっていうのを信じるかどうかは置いておいて、
完全に空っぽの状態で生まれるわけじゃないっていうのは
信じざるを得ない気がする。
何かがもう生まれつきあって生まれてくる。
その個人の何かもそうだけど、文明や社会も、
持って生まれる気がします。
宮沢 そうですね。
ルヴォー そういう意味で演劇がおもしろいのは、
物語は、世代から世代へと
どんどん手渡されていくものだということです。
昨年、ブロードウェイで『ロミオとジュリエット』
演出したんですけれど、
こんなふうに言う人もいるんですよ。
「現代化するんですか?
 それとも、昔のままでやるんですか?」みたいな。
アメリカ人だから、そういう聞き方をしてくる。
そういう選択肢しかないの? と思ってしまう。
そりゃあ、シェイクスピアをタイツのままでっていうのは、
あんまりいいアイディアだと自分も思わないけれど。
「現代化する」みたいな表現を彼らは使うんだけれど、
ぼくからしてみると、
「いや、そうじゃなくて、現代と感じられるんだけども、
 古代と手をつなぐことができるものを
 作らなきゃだめだろう」って。
宮沢 そうですね。
ルヴォー 観客に道を開いて、
自分たちの先祖と手をつなぐことができるみたいな
感覚をおぼえられたら、
それってすごいことだと思うんです。
演劇にはそれができると思う。
宮沢 そうですね。
  (つづきます!)
2014-06-02-MON
    つぎへ
その1 ひとの記憶の不思議さと不確かさ。
2014-06-02-MON
  その1 もうすべてを倒してやれ!
2014-06-03-TUE
その2 演劇だけにできることがある。
2014-06-04-WED
  その2 なぜルヴォーさんは
日本語の演出ができるんだろう。

2014-06-05-THU
その3 アントニオ・バンデラスほどの役者でも。
2014-06-06-FRI
  その3 ピンターは、おそるべき子ども。
2014-06-09-MON
その4 ピンター劇とニッポン。
2014-06-10-TUE
  その4 政治を志したいと思ったこともある。
2014-06-11-WED
その5 鍛えられている状態であるということ。
2014-06-12-THU
  その5 女性、そして革命的な出会い。
2014-06-13-FRI
 
『昔の日々』公式サイト

<東京公演>
6月6日(金)~6月15日(日)
日生劇場

<大阪公演>
6月19日(木)~6月22日(日)
梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
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