田中×糸井対談
担当・ふなわ
第4回 誰に向かって書いているのか?
- 田中
-
2、3行のはずが7,000字になってたんですよね。
- 糸井
-
7,000字、多いですよね。
- 田中
-
多いですね(笑)。
- 糸井
-
400字で直すと、8枚くらい?うん?あ、違う違う違う。
- 田中
-
15枚くらいです。
- 糸井
-
15枚くらいか。少なくはないですね。
- 田中
-
そうですね。
- 糸井
-
書き始めたらなっちゃったんですか?
- 田中
-
なっちゃったんです。
- 糸井
-
最初のそれは、映画はなんだったんですか?
- 田中
-
『フォックスキャッチャー』っていう、わりと地味な映画なんですけど。
- 糸井
-
あぁ。
- 田中
-
オリンピックのコーチが、オリンピック選手を自分の所で育ててるんだけど、ちょっとその、男性間の愛憎の乱れみたいになってしまうっていう実話なんですけど、それについての映画で、アカデミー賞候補とかなってたんですけど、それを観て、2、3行それも書くつもりだったんですよ。そうしたら、初めて、勝手に無駄話が止まらないっていう経験をしたんですよね。
- 糸井
-
あぁ。
- 田中
-
キーボードに向かって、「俺は何をやっているんだ、眠いのに」っていう。
- 糸井
-
うれしさ?
- 田中
-
なんでしょう?なんでしょう。まぁちょっと、あのぅ、「これを明日ネットで流せば、絶対笑うやつがいるだろう」とかっていう想像すると、ちょっと取り付かれたようになったんですよね。
- 糸井
-
あぁ。一種こう、大道芸人の喜びみたいな感じですねぇ。
- 田中
-
あぁ、そうですね。
- 糸井
-
はぁ。もし雑誌のメディアとかなんかだったら、打ち合わせがどうだとかなんとかで、そんな急に7,000字って、まずはないですよね。
- 田中
-
はい。
- 糸井
-
頼んだほうも頼んだほうだし、メディアもインターネットだったし、本当にそこの幸運はすごいですねぇ。
- 田中
-
その後、雑誌になんか頼まれて寄稿っていうのもあったんですけど、雑誌は、やっぱり反響がないので、つまり、印刷されてから、それに対して僕に直接、「おもしろかった」とか、「読んだよ」とかないので、いくら印刷されて、本屋に置いてあっても、なんかピンと来ないんですよね。
- 糸井
-
はぁ、インターネットネイティブの発想ですね。
- 田中
-
反応がないというのが。
- 糸井
-
若くないのに、そのね。
- 一同
-
(笑)
- 田中
-
45にして(笑)。
- 糸井
-
いや、でも、その逆転は、25の人とかが感じてることですよね。
- 田中
-
そうですね。
- 糸井
-
はぁ、おもしろい。そんなの、すごいことですね。だって、酸いも甘いも、40いくつだから、一応知らないわけじゃないのに。
- 田中
-
すごいシャイな少年みたいに、ネットの世界に入った感じですね。
- 糸井
-
ねぇ。すると、コピーライターズクラブのちょっとした文章って、あれは何回書いてますかね。
- 田中
-
えぇと、1週間月曜から金曜までなんで、5回を1回書いて、で、次の年も、2015年と2016年に、10回書いてますね。
- 糸井
-
あぁ、それしかまず出てくるものはなかったわけだ。
- 田中
-
はい。あれだけがなんかはけ口だったんですけど(笑)、しかもあれ、反応がないんで、ツイッターとかみたいに。
- 糸井
-
とりあえずあれはないと思いますね。で、なんていうんだろう、嫌々やる仕事ですよね。
- 田中
-
うん、回ってくるので。
- 糸井
-
で、それを田中さんは嫌々ふうに書いてるけど、全然嫌じゃなかったんですか?
- 田中
-
あれは、もう初めてのことなんで、「あ、なんか自由に文字書いて、必ず明日には誰かが見るんだ」と思うと、うれしくなったんですよね。
- 糸井
-
新鮮ですねぇ。あぁ、それはうれしいなぁ。
- 田中
-
糸井さんはそれを18年ずっと毎日やってらっしゃるわけでしょう?
- 糸井
-
(笑)
- 田中
-
休まずに。
- 糸井
-
うーん‥‥、でも、それは、まぁお互いにやってからだと言えることだけど、たとえば、松本人志さんがずっとお笑いやっているのと同じことだから、「大変ですね」って言われても、「いや、うん、大変?みんな大変なんじゃない?」って(笑)。
- 田中
-
「みんな大変だろう」って(笑)。
- 糸井
-
野球の選手は野球やってるし、だから、そこは、あえて言えば、休まないって決めたことだけがコツなんで、あとは、なんでもないことですよね。仕事だからね、おにぎり屋さんはおにぎり握ってるしね。
- 田中
-
なるほど。
- 糸井
-
たぶん田中さんは今そうだと思うんですよね。
- 田中
-
前は大きい会社の社員で、夜中に仕事終わった後書いてましたけど、今はそれを書いても生活の足しにならないから、じゃあ、どうするんだ?っていうフェイズには入っています。
- 糸井
-
イェーイ(笑)。
- 田中
-
とはいえ(笑)。
- 糸井
-
27の人と今話してますね。
- 田中
-
そうですね。
- 糸井
-
誰かに相談したの、それは(笑)?
- 田中
-
すごい、悩み相談。若者の(笑)。
- 糸井
-
27の子が独立したっていうことで、「それは誰かに相談したの?すでに。奥さんはなんて言ってるの?」
- 田中
-
そんな感じですね(笑)。そう。だから、それがすごい。
- 糸井
-
愉快だわ(笑)。
- 田中
-
ただ、僕の中では相変わらず、未だに、何かを書いたら、お金ではなく、「おもしろい」とか、「全部読んだよ」とか、なんか「この結論は納得した」とかっていうその声が報酬になってますね。家族はたまったもんじゃないでしょうけどね、それが報酬だと。
- 糸井
-
車谷長吉みたいなもんですね。だけど、なんていうんだろう、自分が、文字を書く人だとか、考えたことを文字に直す人だっていう認識そのものがなかった時代が20年以上あるっていう、不思議ですよね。「嫌いだ」とか「好きだ」とかは思ってなかったんですか?
- 田中
-
読むのが好きで。
- 糸井
-
あぁ。
- 田中
-
読むのはずっと夏のね、皆さんとの雑談でも、「ひたすら読んでました」っていうのはあったんですけど、それで自分がまさかダラダラと何かを書くとは夢にも思わず。
- 糸井
-
今の言い方をどういうふうに、その、今自分が感じているんだろうっていうのを、頭の中でちょっとこう考えていたんですけど、読み手として書いてるっていうタイプの人っていうのが、そういう表現が初めてしたんでわかんない、自分にもちょっとそういうところがあって、コピーライターって、書いてる人っていうより、読んでる人として書いてる気がするんですよ。
- 田中
-
はい、すごくわかります。
- 糸井
-
だから、うーん‥‥、視線は読者に向かってるんじゃなくて、自分が読者で、自分が書いてくれるのを待ってるみたいな。
- 田中
-
おっしゃるとおり、いや、それすごく、すっごくわかります。
- 糸井
-
初めて今それを、あ、すいません、ありがとうございます(笑)。
- 田中
-
それ、でもすごい。
- 糸井
-
これ、お互い初めて言い合った話だね。
- 田中
-
いや、そんな、ねぇ、糸井重里さんですよ。
- 一同
-
(笑)
- 糸井
-
いやいや。
- 田中
-
ねぇ。