田中×糸井対談
担当・ふなわ
第7回 アマチュアである、ということ
- 糸井
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「ご近所の人気者」っていうフレーズは、『じみへん』で、中崎タツヤさんが、
- 田中
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はいはい。
- 糸井
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書いた言葉なんですよね。で、それをうちのカミさんが、「俺だ」って言ったんですよ。
- 田中
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なるほど。中崎タツヤさんのスタンスは、でも、素晴らしいですね。
- 糸井
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そうなんですよ。
- 田中
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もう、なんか仙人くらいの、なんていうか、スタンスの崩れなさですよね。
- 糸井
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凄味がありますね。もう1つ中崎さんので永遠に忘れまいとしたのが、まぁ主人公っていうか、男が出てきて、で、お母さんがやってることがすごく馬鹿に見えるんですね。庶民の家ですから。で、なんかそのことのものすごく腹が立って、馬鹿さ、くだらなさ、弱さ、下品さみたいな、こう下世話なものに対して、自分もそこの生まれの主人公の青年が、「母さんは、何かものを考えたことあるの?」って言うのを、もう怒りのようにぶつけるんですよ。もう、つまり自分の血筋に対する怒りですよね。
- 田中
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はい、はい。
- 糸井
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そうすると、お母さんが、「あるよ。寝る前にちょっと」って言うんですよ。
- 田中
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(笑)
- 糸井
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これ、涙が出るほどうれしかったです、それは。これを言葉にした人って、
- 田中
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それは素晴らしい。
- 糸井
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その、「寝る前にちょっと」をね、マンガにした人がいて。
- 田中
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ものすごい凄味ですね、それは。
- 糸井
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で、その、僕は、「寝る前にちょっと」を探す人なんです(笑)。で、「寝る前にちょっと」の人たちと一緒に遊びたい人なんで(笑)。
- 田中
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その時間ね、若干活発になってこられますね、深夜のね(笑)。
- 糸井
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そう(笑)。だから、それ、それ言いながら、自分に対して、「お前も幸せになれよ」っていうメッセージを投げかけ続けるっていうのは、もう俺にとって俺の生き方しかないんですよ。
- 田中
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はいはいはい、わかります(笑)。
- 糸井
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「みんなこうしろ」とも言えない。俺は探したんだもん、だって、それを。で、今の泰延さんのこの、青年、青年‥‥、なんだっけ、扶養者じゃなくて(笑)、
- 田中
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「青年失業家」。
- 糸井
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失業家(笑)。「青年扶養者」って(笑)。相当、だからこう、なんていうんだろう、自転車でランニングの人のね、横にいる自転車の人みたいな、
- 田中
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あぁ、伴走してる。
- 糸井
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気持ちで見るわけです。で、「どうなの?」みたいな(笑)。
- 田中
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本当ですね。でも、「青年」と勝手に名乗ってますけど、
- 糸井
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27ですからね。
- 田中
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27、心は。ただ、会社を辞めた理由の1つには、とは言いつつ、人生、すごい速く感じてきたなと思って、その、みんな感じると思うんですけど、20代の頃と40代だったら、もう倍以上、日が暮れるのも早くなるし。だから、僕、これ、うちのね、祖母さんが死ぬ前に言った、これ、僕忘れられない一言なんですよ。80いくつで死んだ、うちの祖母がね、こう言ったんですよ、「あぁ、この間18やと思ったのに、もう80や」って(笑)。
- 一同
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(笑)
- 田中
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その一言でものすごい時間をね(笑)、
- 糸井
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で、それは翻って、「ご近所の人気者」の話なんですよね。
- 田中
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そうですね。
- 糸井
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だから、一番近い所で僕のことを人体として把握している人たちが、「ええな」って言う、「今日も機嫌ようやっとるな」って言う、お互いにね。
- 田中
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はいはい。
- 糸井
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ここにやっぱり落ち着けたくなってしまう。で、それをご近所のエリアが、本当の地理的なご近所と、気持ちのご近所と、両方あるのが今なんでしょうね。
- 田中
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あぁ。でも、その、やっぱりそのネットを介したり、印刷物介したりするけど、その「ご近所」っていうのは、フィジカルなことすごい大事だと思ってて。
- 糸井
-
大事ですね。
- 田中
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これも、1週間前に、糸井さんの楽屋に、大阪のロフトにちょっと5分だけでも訪ねていく、で、今日がある。と、全然違うんですよね、やっぱり。
- 糸井
-
(笑)
- 田中
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何かね、ちょっと顔見に行くとか、ちょっと会いに行く。
- 糸井
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アマチュアであることとね、「ご近所感」ってね、結構ね、隣り合わせなんですよ。
- 田中
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うんうんうん。
- 糸井
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で、アマチュアだってことは、変形してないってことなんですね。
- 田中
-
あぁ、あぁ。
- 糸井
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プロであるってことは、あのぅ、変形してる。
- 田中
-
変形?
- 糸井
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つまり、これは吉本さんの受け売りで、吉本さんはマルクスの受け売りなんですけど、「自然に人間は働きかける。で、働きかけた分だけ自然は変わる」。
- 田中
-
はい。
- 糸井
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「それは作用と反作用で、変わった分だけ自分が変わっているっていうのが、これはマルクスが言ったんすね」と。で、「仕事っていう、つまり、何かするっていうのはそういうことで、相手が変わった分だけ自分が変わっているんだよ」と。それ、わかりやすいことで言うと、「ずっと座り仕事をして、ろくろを回してる職人さんがいたとしたら、座りタコができているし、あるいは、指の形やらも変わっているかもしれないしっていうふうに、散々茶碗をつくってきた分だけ、自分の腰は曲がっているしっていう形で、反作用を受けてるんだよ」と。で、「1日だけろくろを回している人にはそれはないんです」って。
- 田中
-
そうですよね(笑)。付かないですね。
- 糸井
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だから、その意味では、そこはもうアマチュアには戻れないだけ体が歪んじゃってるわけです。
- 田中
-
はいはい。
- 糸井
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でも、どの部分で歪んでないものを維持できているかっていうところに、もう1つ、「ご近所の人気者」っていうのが。
- 田中
-
なるほど(笑)。
- 糸井
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で、それは、せっかく吉本さんを出しちゃったんだとしたら、「大衆の原像」っていうふうに言われてたことが、たぶん吉本さんの手がかりなんでしょうね。
- 田中
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なるほど、「原像」ですね。
- 糸井
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あの、うち、夫婦ともアマチュアなんですよ。
- 田中
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はぁはぁはぁ。
- 糸井
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だから、ちょっと持ってるような気もする。
- 田中
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えぇ?奥様は、僕らなんか見ると、やっぱりプロ中のプロのような気がするんですけど。
- 糸井
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違うんです。だから、「プロになるスイッチ」を時限スイッチみたいに入れて、で、その仕事終わったら、アマチュアに戻る。だから、なんだろう、そういうタイプの人は、世の中にやっぱりいて、それはプロから見たら、卑怯ですよね。
- 田中
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うーん‥‥。
- 糸井
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「あんた、いいとこ取りじゃない」みたいな。でも、スイッチ換えて、仕事を両方っていうか、仕事っていうか、2つの人格をするって、なかなかしんどいし、心臓に悪いんですよね。だから、アマチュアは体力要るんですよね。
- 田中
-
そうですよね。
- 糸井
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だから、よくカミさんとの会話で、高い所とか、本当は苦手なんですよね。で、僕は、パラシュートとか、自分はできるかなって思うタイプなんで、やってみたらできたとか、すごいうれしいんですよ、なってやろうと思って。で、カミさんに、「じゃあ、仕事ならやる?」って言うと、「やる」って。
- 田中
-
おっしゃるんですね(笑)。
- 糸井
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もう、そう間髪入れずに、「やる」って。
- 田中
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なるほど。