- 糸井
- 「これからどうなる?」なんてこと、ここじゃ、まったく聞かないですけど。
- 田中
- ええ。
- 糸井
- 聞かないんですけど、なんかこう、さっきの釣りのこう、「当たり」みたいなおもしろさのところのはたどり着いてみたいですねぇ。
- 田中
- それはいい、今日はいい話、非常に聞きましたよ、本当に。
- 糸井
- おもしろいんですよ。その魚がね、生存をかけてひったくるわけじゃないですか。
- 田中
- はい、はい。
- 糸井
- 俺の罠を。あれはすごいですよ。
- 田中
- さっきのね、「ご近所」の話もそうですし、釣りの話もそうですけど、糸井重里さんにお会いして、身体性の話に行くと思ってなかったから、今日、もうそれがもうすごい、何か僕のこれからやっぱり変わってくると思います。
- 糸井
- 身体性の話は、ちょっとそれ、身体性の話の中で、こう、ちょっと編集的に都合悪いかもしれないですけど、おしっこ我慢してるんですよね。
- 田中
- 今?
- 糸井
- 今。
- 田中
- 今の話?それはね、止める人いないです。
- 糸井
- ちょっと行ってきます。
- 田中
- 惨事を招きますから。
- 糸井
- すいません。
(しばし中断)
- 糸井
- 身体性つながりですけど、今までで人としゃべってて、おしっこが我慢できなくて中座したっていうのは、たぶん、僕これ、2回目で、
- 田中
- そんなに、そんなに長い中で2回目なんですか(笑)?
- 糸井
- そうです。で、講演の途中でトイレに行ったことっていうのが1回あります。
- 田中
- はぁ。
- 糸井
- で、講演ってしないのに、その1回があるってことは(笑)、もう4分の1くらいの確率になってるんです(笑)。で、喜ばせるような話なんですけど、話しがおもしろかったんで、予定よりもこう夢中になって長引いたから、おしっこしたくなったんです。
- 田中
- 素晴らしい。
- 糸井
- で、もう1回は、誰もトイレに立てないような長い時間、そのぅ、たとえ出たくても言えないっていうようなケースだったんですよ。何かって言うと、高倉健さんなんです。
- 田中
- それは、それは無理ですね(笑)。
- 糸井
- で、僕は、弱ったなぁと思って、「すいません!」って言って、
- 田中
- (笑)
- 糸井
- おしっこ行ったんですよ。
- 田中
- その「すいません!」っていう言い方がもう健さんっぽいですね。
- 一同
- (笑)
- 糸井
- それで、後で、結構そこにいた人が言うには、「健さんの前でトイレに中座したのは糸井さんが初めてです」って。
- 田中
- (笑)
- 糸井
- 言われて、そうかもしれない。ただ、理由は、みんなが立てないくらい、有名なんですけど、健さん、電気点かないまま暗くなった時にそのまましゃべってるっていう人なんで。
- 田中
- あぁ。
- 糸井
- みんな、身じろぎもせずにね、「あぁ、そうですか。ワッハッハ」なんて言ってるわけですよね。僕は行きましたね。
- 田中
- 高倉健さんって言えば、前ね、僕は本当にテレビで、高倉健さんがどれだけすごいかって認識したのは、小学校の時に、ある映画の記者会見、もちろん健さん主演で。で、「高倉さんは」、パシャパシャパシャッとこうね、フラッシュが光って、「高倉さんは、この主人公と同じような立場になったら、どういう気持ちになられますか?」って言ったら、「気持ちですか‥‥」って考えて、フラッシュがピタッて止まるじゃないですか、何言うかと思って。で、1分くらい、放送事故かと思うくらい生放送が止まって、シーンって、もう記者が集まって、1分くらい経ってから、「わかりません」。
- 一同
- (笑)
- 糸井
- あぁ。
- 田中
- 僕、その時、高倉健さんっていうのはどんなに偉い人なんだと、さすがだなと。
- 糸井
- いやぁ、そのあたりは高倉健さんっていう、その、なんだろう、1人の人物が1つの企業でもあるわけじゃないですか。そのあたりは健さんのドライブは、やっぱりすごかったんじゃないでしょうかね。
- 田中
- ブランドそのものが、生身なのに、歩いてるってことですもんね。
- 糸井
- そういうことですよねぇ。だから、「さっき、信号待ってたね」って電話を貰ったことがあって。
- 田中
- (笑)高倉健さんから?
- 糸井
- そういうのって、自慢になるんですよね(笑)。で、知ってますよね、そのことをね。
- 田中
- なるほど(笑)。
- 糸井
- どっちかって言うと、やっぱり実業家だと思いますよ。俳優として素晴らしく、あのぅ、よくできた人、高倉健を抱えた社長だと思いますよね。
- 田中
- なるほど。
- 糸井
- あの二人三脚はすごい。でも、「近所の人気者」になるのはむずかしくなっちゃいましたよね。
- 田中
- あぁ、なるほど。
- 糸井
- だから、床屋にいる時は「近所の人気者」だったんじゃないですか。
- 田中
- なるほど。
- 糸井
- 毎日のように田中邦衛さんが遊びに来るんだそうですよ。
- 田中
- へぇ。
- 糸井
- 毎日のように床屋に行って。
- 田中
- へぇ。
- 糸井
- で、それがたぶん「近所」だったんじゃないですか。
- 田中
- あぁ。
- 糸井
- そういうのはねぇ、僕らはやっちゃだめですよね。やっちゃだめっていうか、なれっこないんだけど、いや、すごい人生ですよね。
- 田中
- それは生身の人が、その巨大化したブランドである自己を抱えて歩くのは、矢沢永吉さんはもちろんそうですよね。
- 糸井
- 永ちゃんはね、もっと上手。
- 田中
- そうなんですか。
- 糸井
- 永ちゃんはすごいですよ。その、うん、たとえば、うーん‥‥、イタリアンの、ちょっとこう、道をちょっと入った所にあるイタリアンみたいなのがあって、で、そこは僕がよく行ってた所なんだけど、僕が永ちゃんの関係の人だっていうことも知ってて、「この間、矢沢さんがお見えになって、で、『何時ごろ何人とか入れますか?』って予約して帰って、で、その後、社内の人を連れて来てくれました」と、「矢沢さんって、ああいう気さくな人ですね」。つまり、みんなの分を予約して、顔出していくような人なんですよ。
- 田中
- 矢沢さんが?
- 糸井
- うん。本当に「ご近所の人気者」なんですよ。で、あと、社員が、なんか引っ越しで、なかなか探しあぐねてるみたいなのがあったら、何日か経って、ある日、すっごい朝早い時間に電話あって、電話取ったら、「あ、俺だけど」って、永ちゃんで、「豪徳寺となんとかにいい物件あったから」(笑)。
- 田中
- 矢沢永吉が(笑)。
- 糸井
- そう。
- 田中
- 物件見てくるの?
- 糸井
- そう。で、「A、B、Cみたいに3つあるんだけど、BとCは俺、話しつけてあったんで、何時に行くといいぞ」。
- 田中
- ほぉ。
- 糸井
- で、全部。で、永ちゃんに言われたら、行かないわけにいかないんで(笑)。
- 田中
- 絶対行く(笑)。
- 糸井
- 「それはご親切にありがとうございます」って感じで行って、で、「それ、どっちかに決まったの?」って言ったら、「いや、決まらなかったんですけどね」って。
- 一同
- (笑)
- 糸井
- だから、その、「決まらなかったんです」も含めて「ご近所」の人だし、あの人、一級船舶の免許持ってますから。
- 田中
- へぇ。
- 糸井
- すごい大変だったらしい、取るのね。で、永ちゃんが全部手配してくれて、なんとか島まで行けるんですよ、八丈島とか。
- 田中
- はぁ。
- 糸井
- で、それ全部やって、で、たしか向こうの民宿とかも予約しておいてくれて、永ちゃんが、デーッって言ってクルーザー乗っけて行ってくれて、で、「俺は船があるから」って言って、そこで待っててくれるの。その繋いで、みんな泊まって、で、また、「帰ろうぜ」って言って、また帰っていく。
- 田中
- へぇ。
- 糸井
- 全部、だから、それ、サービスというわがままなんですけど。
- 田中
- あぁ。
- 糸井
- でも、いいじゃん(笑)。そんなことだらけですよ。なんだろう、ロスの永ちゃんちで、「じゃあ、このままバーベキューして」みたいな、全部火の世話から何から全部永ちゃんがやって。
- 田中
- 本人が(笑)。
- 糸井
- で、みんな腹いっぱいになったかなと思ったら、今度は、こっち側の居間みたいな所にDVDをセットしてあって、みんなで永ちゃんのステージを見る。
- 田中
- 見るんだ(笑)。
- 糸井
- で、永ちゃん自身が、やっぱりここはね、さっき言った「受け手として」っていうのはね、近いかもしれない、「いいね、矢沢」って言うんだよ(笑)。
- 田中
- 言いながら。
- 糸井
- で、俺と一緒に行った若いやつとかが肩をこうやられて、「矢沢、最高だね」って言う(笑)。それはね、「受け手の永ちゃん」なんだよ。
- 田中
- なるほど。
- 糸井
-
これは、俺はちょっとちょっと近いものあるなぁ。そこは、失敗しなかったケースですよ。なんかでご飯食べて、じゃあ、どこどこで別れてっていって、パッと歩いて、もう1軒寄っていくみたいなのも行くもんね。あれはね、違う。
あと、さっきの釣りで言うと、永ちゃんと釣りに行った時に、複数回行ってるんだと思うんだけど、最初の時だったかな、糸を通してあげて、ルアー付けて、「これで」ってやったら、「あ、糸井、糸井、ちょっと、俺にやらせて」って言うんだよ。で、同じ向きにこう構えて、「ここから、え?ここ通して?」っていうのを全部真似してやって、ルアー付けるのも、こうやってこうやって見て、
- 田中
- 見よう見まねで?
- 糸井
- そう。で、「やっぱり自分でできた方がいいから」って言うんだよ。
- 田中
- はぁ。
- 糸井
- 偉いでしょ?偉いっていうか、これがこの人なんだと思う。
- 田中
- やって、「投げるだけやらせて」じゃないんだ。
- 糸井
- ないの。
- 田中
- ここから、ちゃんと糸を通すところから。
- 糸井
- それ、普通に全部自分でやる。だから、プロモーターがやるようなこととか、そのぅ、一緒に仕事した、チェコのオーケストラなんだけど、それはディズニーの仕事で頼んだ時に、グスタボオーケストラ(:グスタボ・ボーナー・ オーケストラ)っていうんだけど、ロスで「星に願いを」を歌ってもらったんですよ。
- 田中
- はい。
- 糸井
- その時のオーケストラがディズニーのお抱えみたいなチームで、で、それをバックにグスタボさんっていう人が指揮をして、で、永ちゃんが歌うっていう企画だったんだけど、で、そこで知り合った人たちを、今度は自分の東京のコンサートに呼んで、で、その交渉とか自分でやってるんですよね。
- 田中
- はぁ。
- 糸井
- で、もうちょっとおしゃれな話としてまとめると、永ちゃんは、そのオーケストラを舞台の向こう側に隠しておいて、で、2曲だけ、そのフルオーケストラで歌うんですよ。
- 田中
- はぁ。
- 糸井
- で、その経費とかはメチャクチャかかるんだけど。
- 田中
- かかる、2曲だけ(笑)。
- 糸井
- で、「うれしいじゃん、矢沢が呼んだんだから」っていう。「何それ?って。「あいつは金にどうのこうの」みたいに、簡単に悪口言うやつはいるけど、儲けるのもプレゼントするのも、やっぱり永ちゃんのやってることを俺は結構好きでさ。ちょっといいでしょ?
- 田中
- いやぁ、すごいなぁ。へぇ。
- 糸井
- 健さんの伝説とかはもうだいたいいっぱいあるんだけど、永ちゃんのほうは、もっと、しゃべる人がいないから、楽屋に誰かを呼ばない人だからね。だから、結局しゃべる人が少ない分だけ知らないんですよね。でも、ものすごくおもしろいですよね。