『ディア・ドクター』の  すてきな曖昧。 糸井重里×西川美和監督
『ディア・ドクター』を強くすすめていた糸井重里は、 この対談をとてもたのしみにしていました。 初対面のふたりでしたが、 おしゃべりはほどよい緊張感で、はずみ、 微妙なニュアンスを確認しあうように進みます。  ロードショーも終盤で、DVD化はまだ先のこと。 あいかわらず「いまさら」な時期ですけれど、 自分たちが興味を持ったタイミングで伝えさせてください。 『ディア・ドクター』の監督・西川美和さんと、 糸井重里の対談です。
西川美和さんプロフィール

映画『ディア・ドクター』について
・簡単なあらすじ
・糸井重里、最初の感想
・キャスティング
・公式サイト(上映館のご確認もこちらから)

第1回 しつこくした分、よかった。
糸井 ぼくらはどうしても
自分たちの興味が優先しちゃうものだから、
とっくに公開されている映画を観て
「おもしろいじゃん、応援しよう」
っていうのが、よくあるんです。
もう、タイミングとしては遅いですよね。
西川 いえ、おかげさまで
けっこう長く上映されているようで、
まだ観られる劇場もありますので。
糸井 そうですか。
すみません、トンチンカンで(笑)。
西川 ぜんぜんです、すごくありがたい。
糸井 遅ればせながら『蛇イチゴ』も観ました。
あれは監督デビュー作ですよね。
西川 そうです、
ありがとうございます。
糸井 で、うーん、どうしよう。
どこからいこうかな(笑)。
西川 ちょっと緊張してしまいます、今日は。
糸井 なに言ってるんですか(笑)。
西川 呼んでいただけるとは思ってなかったので。
糸井 ぼくは、ものすごく呼びたかったんですよ(笑)。
ぜひお会いしたかった。
西川 本当ですか?
糸井 はい。
でも実は、ぼくより先に声を出したのは、
うちの妻のほうなんです。
彼女はもともと『ゆれる』をすごく褒めてたんで、
サンプルのDVDを持って帰ったら
「えー」とか言ってね。
自分の部屋に持って入って、
急に観はじめたんですよ。
しばらくしたら途中で1回出てきて、
「おもしろい(すごく低い声で)」って。
西川 そんな声ではないでしょう(笑)。
糸井 えーとね(笑)、
まあ違うんですけどね、
気分的にはそのくらいの声でした。
「おもしろい(もっと低い声で)」。
西川 本当ですか(笑)。
糸井 「ぜんぶ観たらあとで感想きかせて」と言ったら、
「うん」と返事をして
彼女はまた自分の部屋に入ってですね、
やがて最後まで観終わって出てきた。
そしたら、
「おもしろかった(さらに低い声で)、
 いちばんいいかもしれない」って。
西川 (笑)
糸井 『ゆれる』よりも、好きだったみたいです。
あなたはあんなに『ゆれる』を褒めてたじゃない?
ってぼくは思ったんですけど、
『ディア・ドクター』は、もっといいんだと。
『ゆれる』にはなかったことが、
『ディア・ドクター』でぜんぶできてる、と。
まあ、そんなようなことを言ってました。
西川 そうですか。
糸井 で、そのあとぼくも観ました。
いや、その通りでしたね、おもしろかったです。
西川 ありがたいです。
糸井 両方を観た何人かと話したんですけど、
「私は『ゆれる』のほうが好きだ」
という人が多いんです。
それはわかるんです、そう言う人の気持ちは。
『ディア・ドクター』のほうがいいって言うのは、
ぼくの知っている限りでは、
ぼくとカミさんだけなんですよ。
でも、『ディア・ドクター』のほうがいい
と言う人のほうが西川さんを理解している、
とぼくは勝手に思っています。
西川 うーん‥‥それって、
自分でもわからないことなんです。
私の作風はどっちなんだ? って。
その2作は、だいぶ違いますよね。
糸井 だいぶ違いますね。
だいぶ違いますけど‥‥
遠投が効いているというか……。
うん。
『ディア・ドクター』は
ホームランの大きさが違いますね。
すばらしかったですよ。
西川 いや、なんだか‥‥
ありがとうございます。
糸井 DVDで1回観て、
礼儀としてぼくは劇場で観たかったんで、
もう1回、映画館に行きました。
ストーリーの意外性もありますから、
2回観るというのは本当はきついんです。
西川 そうですよね。
私も同じ映画を何回も観ないほうです。
糸井 そうですか。
でもこの映画は、ぜんぜん大丈夫でした。
2回目もちゃんとおもしろかった。
西川 よかった。
糸井 観客としては同じ映画を繰り返し観なくても、
作る側の西川さんって、
しつこいでしょう?
西川 そうですね、
しつこいほうだと思います。
糸井 それ、ぜんぶ当たってますよね。
西川 え? どういうことですか?
糸井 しつこくした分だけ、よかったんです。
西川 ああ‥‥
あまり観る人のことを考えてないというか‥‥。
自分自身は1回しか映画を観ないほうなのに、
観る人には何回も観させるような
しつこい詰め込み方をしてるな、
というのは最近ちょっと思うんですけれども。
糸井 いいんじゃないでしょうか。
だっておもしろかったんだから。
西川 よかった、ホッとしました(笑)。
糸井 だから、こうして対談を組んでもらって
ぼくはほんとうにうれしかったんですけど、
別に、しゃべることもないような‥‥(笑)。
西川 (笑)
糸井 「おもしろかったです」くらいしか言えない。
西川 十分です(笑)。
糸井 そうなってしまうくらい、
入っているんだと思います、この映画の中に。
西川 そう言っていただけるのが何よりです。
言いたいことは映画で言ってる、
という気持ちはあるので。
糸井 言ってますよね。
だから、どうしましょうかね‥‥?
褒めるところはいっぱいあるんですけど‥‥
どこをいきましょうかね。
西川 (笑)

(つづきます)

2009-09-01-TUE

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「ディア・ドクター」やこのコンテンツへの感想を
添えていただけますとうれしいです。
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『ディア・ドクター』のすてきな曖昧。もくじ
第1回 しつこくした分、よかった。
2009-09-01
第2回 だって鶴瓶さんの映画なんだから。
2009-09-02
第3回 男は「泣き声」に決着させる?
2009-09-03
第4回 瑛太さんが育てた役柄。
2009-09-04
第5回 えらくならないほうが、いい。
2009-09-07
第6回 八千草薫さんの、女の匂い。
2009-09-08
第7回 見えない因果は、山ほどある。
2009-09-09
第8回 ズバリと言わない、山場。
2009-09-10
第9回 脚本は、ジグソーパズルを埋めるように。
2009-09-11
第10回 「夜が暗いな」
2009-09-14
第11回 すてきな曖昧。
2009-09-15
最終回 ずーっと遊べます。
2009-09-16

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