「ほぼ日刊イトイ新聞」には、
日々、さまざまな企画の持ち込みがあるのですが、
この企画には乗組員一同が強い興味を抱きました。
届いたメールには、こう書いてあったのです。
「左右が反転して見えるメガネをかけて
8月8日から15日間、生活してみようと思います」
左右反転? 世界の右と左が逆?
そんな特殊なメガネをかけて、15日間も?
企画を持ち込んでくださったのは川辺さんという女性。
じつは、以前にも「上下反転生活」をしたことがあるとか。
「なぜ、そんなことを?」と訊くと川辺さんは言いました。
「みんなが納得するので『研究です』と言ってますが、
本当は、自分の体に対する好奇心です。遊びです」
その遊び、ぜひ「ほぼ日」にも協力させてください。
さあ、15日間の「左右反転生活」がはじまります。

川辺千恵美さんプロフィール

終了後:思い続けたメガネ遊びの終わり


(クリックすると大きい画像で見られます)


(クリックすると大きい画像で見られます)


(クリックすると大きい画像で見られます)


(クリックすると大きい画像で見られます)


8/23 終了後

朝、雨の音で目を覚ます。
ベランダに服を干しておいたのを思い出し、
取りに行く。
ベランダまでは、まともに行けた。
しかしその後が、向う方向を左右間違える。
ベッドに戻る途中も、別の場所にあるイスや
かべにすいよせられる。

ベッドからベランダの図

ベッドで目をつぶり、右手で頭をかくと、
右と左、両方に手の像がうかぶ。
左手を脇でふってみると、
やはり2本あるように感じて、
数秒はどちらが本物か分からない。
顔にふれて、本物が分かった。

トイレに向う。やはりまっすぐには行けない。
ドアの前で1回転、
かべがどんどんせまってくるし、
逆方向へ進んでしまう。体が勝手に。
メガネ外して1時間後ぐらいに戻ったみたいだ。

ベッドからトイレの図

階段の右側の手すりに対して、
左手を出していた。
パソコンを起動している間、
コーヒー牛乳を飲みながらボー、としていた。
ふいにコップが右にあるのか左にあるのか
分からなくなった。
すぐに右にあることが分かったが、
それを取ろうとして
左手が前に出て来て空をつかむ。
右にあるんだからこっちだよ、
と思いながら右手を出したら、
コップと逆の左手の前に手が向い、
やはり空をつかむ。

右手とコーヒーカップの図

30分くらいベッドでまた眠り、起きたら
さっきよりさらにひどくなったような気がする。
同じ場所でくるくる回る、
物を取ろうとするとてが逆に動く、
手すりに対しては必ず、反対側の手が出てくる。
洗濯機に近づこうとして遠ざかる。
起きてすぐに洗たくしたり、
ご飯を炊いたりしたせいなのか。
でもリビングとダイニング、
台所が左右反対のように思えて来た。

米を洗った後、釜を流しから台におこうとして
逆側の水きりカゴにぶつけてしまった。

流しの図

時計を見ようとして首を逆にふってしまう。

時計と頭の図

この(編集部注:下の図です)化粧水を
取ろうとして、
左手が出て空をつかむ。

化粧水と手の図

こうして字を書いてると、書く方向(左→右)が
逆のように感じる時がある。
右上(編集部注:ここではすぐ上です)
絵の手が右手か左手か分からずに、
自分の手を動かして確認する。
アナログの時計が何時なのか分からない。
短針が9と10の間にあるから、
9時30分くらいなのだろうと考えられるまでに、
30秒くらいかかった。
時計の図

歩いていて、自分を運転している感覚が
よみがえってくる。

起きてから、1時間半〜2時間かけて、
少しずつ行動のミスがへってきた。
物をとろうとして手が動く。
→その手を見て、そっちじゃない、逆だよ、
と頭が思う
→でも手はそのまま動いて正しく物を取る。
という風に、見て判断する事よりも、
手足の方がはやくに、正しく動くようになる。

<※注 左右反転メガネ着用>
お昼に1時間だけ、
左右反転メガネをつけてみる。
行動は間違えないけど足もとがおぼつかない。
意外だったのは、部屋の配置が元に戻って
ほっとしている事。
リビングも、ダイニングも台所も。
この左右反転した配置の方が
今の自分にはフィットする。
特に、自分の部屋は、メガネを外して
一晩すごしたが、
今ひとつ、ピンとこなかった。
日記を書いていた机とイスなどは
よそよそしく感じて、
ここで書いていた気がしなかった。
でも今、このメガネをかけて見ると、
ああ、これだ、と思う。
何がどこにある、ということが
頭の中ですっとおさまる。
1時間もかけていると、メガネ着用時の
自分のボディーイメージがよみがえってくる。
右半身は右手の見える側、
左半身は左手側にイメージできる、
でも、右手側が右だとは思えない。
手が視野に入ってると迷う時もあるけど、
やっぱり右手側は左だ。
<※注 左右反転メガネ着用ここまで>

14日に左右反転メガネをつけて
描いた自分の部屋は左右逆に見える。
今いる自分の部屋も、反対とは言わないけれど、
ピンとこない。
この部屋が、何年も見慣れてきた
部屋のイメージに戻ったら、
絵と見くらべてみよう。

2:00 まだ凸凹反転遊びができる。
メガネなしで。
テニスボールをへこます、深皿をでっぱらせる。
でももう安定しない。すぐに戻ってしまう。

夕方に実家から自宅へ戻る。
自宅は左右反転メガネをかけて
過していない場所だ。
そうじしたり、片付けものをしたりしていると
急速に現実に戻っていく。
もう、少しふらつく程度だ。
それでも、夜9:30、まだ凸凹反転が
メガネなしでできる。
深皿も、ラーメンどんぶりも、
今度は安定してでっぱらせる事ができた。
テニスボールは自宅にないので、
ボールより1回り大きめの
黄色いだるまの後頭を試してみる。
集中して3〜4分後、だるまの頭がへこんだ!
おどろいた。

さて、15日間の左右反転メガネ生活は
そろそろおしまいです。
上下反転メガネを15日間かけた後に、
左右反転メガネの事を知りました。
それ以来、このメガネをかけたい、
一度はかけてみなければ、
自分の体で実感しなければ、
と思い続けてきました。
これでようやく、私のメガネ遊びが終ります。
でもまた、何か変化がありましたら、
その時にはお知らせします。
それでは、また。

          川辺千恵美

※これで連載はいったん終了です。
 川辺さんへのメールはこちらからお送りください。

<ほぼ日より>

川辺さん、 15日間+終了後1日、
毎日のレポートをありがとうございました!
読むたびにわたしたちも、どきどきしたり、
ああかこうかと想像したりして、
楽しい毎日を過させていただきました。

レポートの中には、
「この部分は絶対に、
 やった本人でないと分からないのだろうな」
というところもあり、
その“実感できなさ”も、このメガネ生活の
奥深い魅力として心に残りました。

また楽しい遊びをする時には
ぜひご一緒させてくださいね。

左右反転メガネとは?

左右反転メガネとは、
直角プリズム2個を使って作ったメガネで、
外からの光が曲がって目に届くため
見ているものの左右が反転して目に映ります。
左右反転メガネ (クリックすると拡大します) お風呂用左右反転片メガネ (クリックすると拡大します)
メガネの構造は簡単ですが、文字は鏡文字に見え、
右や左を向くと風景が逆に流れる、
右に行こうとして左に進んでしまうなど、
日常生活に支障を来すため、着用には注意が必要です。
どのようになってしまうのか、
ほぼ日乗組員のシェフ武井がこのメガネをかけ、
狭い廊下を歩いて椅子に座るまでを
撮影してみましたので、
どうぞ動画をご覧ください。
なお、今回使用するメガネは
川辺千恵美さんの自作で、市販品ではありません。
また、川辺さんはお風呂用にもうひとつ、
発泡スチロールの片メガネも自作して用意しています。
2007-08-24-FRI

これまでの「15日間、左右反転生活。」

2007-08-08
0日目:はじめまして
2007-08-09
1日目:メガネつける
2007-08-10
2日目:頭を使う。何をするにも。
2007-08-11
3日目:ガスの点火、料理、切り絵
2007-08-12
4日目:緊張で胸がいっぱい
2007-08-13
5日目:トリックアート美術館へ
2007-08-14
6日目:“理性派”と“経験派”
2007-08-15
7日目:右手の見える方が右、になってきた
2007-08-16
8日目:左右の記憶にも影響が?
2007-08-17
9日目:鏡の中に入ってしまった
2007-08-18
10日目:見える右手から見えざる肩へ
2007-08-19
11日目:自転車に乗ってみた
2007-08-20
12日目:頭が口を出すと、間違える
2007-08-21
13日目:表参道、ほぼ日事務所へ
2007-08-22
14日目:古いイメージ、新しいイメージ
2007-08-23
15日目:メガネ、はずしました!