谷川俊太郎さんが一夜で綴り、
松本大洋さんが二年かけて描いた絵本──。
ようやく、『かないくん』という
特別な絵本をみなさまにお届けできます。
ぜひとも、読んでもらいたい本です。
『かないくん』の発売にあたって、
まずは、谷川俊太郎さんと松本大洋さんに
対談していただきたいと考えました。
二年という時間をかけて完成した本を真ん中に置いて、
詩人と漫画家がどんなことばを交わすのか、
とても興味があったのです。
この絵本をつくるに際して、
谷川俊太郎さんと松本大洋さんが
直接顔を合わせるということはありませんでした。
まず、谷川さんが物語をつくり、
それを大洋さんに読んでいただいて、
絵にしていただきました。
描きあがっていく絵を、
要所で谷川さんに見ていただきました。
谷川さんは大洋さんの絵に
まったく注文をつけませんでしたし、
大洋さんは谷川さんのことばを
絵の都合で調整したりしませんでした。
谷川俊太郎さんは『かないくん』のお話を書き、
松本大洋さんは『かないくん』の絵を描きました。
ふたりはそれぞれに仕事をまっとうしたので、
『かないくん』という絵本について、
谷川さんと大洋さんが直接にことばを交わすのは、
この日がはじめて、ということになります。
ふたりが会う場所に、
大洋さんが約二年をかけて描いた原画を
一枚、一枚、並べておきました。
まずはそれを見ながら
なんとなくしゃべっていただくのが
いいんじゃないかと思ったのです。
じつは、ふたりの関係は、ちょっと特殊なんです。
きちんとことばを交わすのははじめてなんですが、
初対面ではなく、30年くらい前に会っていて──。
そのあたりのユニークな経緯についても、
対談のなかで語られることと思います。
まず、大洋さんが時間の少し前に到着し、
並べられた自分の絵をあらためて眺めていると、
谷川さんがいらっしゃいました。
お互いに、ほどよく緊張しながら、
初対面のような、久しぶりのような
ちょっと不思議な挨拶を交わしたあと、
やはり、そこに並べられた絵を見ていきます。
扉の絵から、順を追って。
谷川さんは、原画を見るのははじめて。
自然、谷川さんが観賞し、
大洋さんが解説するかたちとなりました。
谷川 「ぜんぜん定規を使わないんですね」
松本 「そうですね、定規は使わないですね」
谷川 「こういう四角が、すぐ描けますか?」
松本 「何回か、描き直します」
谷川 「この線は、鉛筆?」
松本 「鉛筆ですね」
一枚ずつ、じっくりと、絵を眺める谷川さんに、
少し遅れて大洋さんが寄り添います。
ときどき谷川さんが質問をして、
大洋さんが短いことばで答えて。
谷川 「これ、どういう絵の具なんですか?」
松本 「これはアクリル絵の具なんです」
谷川 「(紙の)地も塗ってあるの?」
松本 「地も塗ってます。
まず地をつくって、鉛筆で描いた上から
アクリルをかけるという感じですね」
谷川 「はじめに、ラフかなんか、描くんですか」
松本 「はい。今回は、とくにたくさん描きました。
ぼくは、はじめてだったので、絵本が」
谷川 「絵本、はじめて?」
松本 「はじめてなんですね。
だから、最初は、
祖父江さんや糸井さんに
いろいろ相談したりしながら」
『かないくん』のブックデザインは、
日本を代表する装丁家、祖父江慎さん。
糸井重里は、このプロジェクトの言い出しっぺ。
絵本をつくるにあたり、谷川俊太郎さんに
大きなテーマをぽんと投げたのが糸井です。
谷川 「うさぎが、アイデアですね」
松本 「あ、うさぎ。はい、ぼく、考えました」
谷川 「うん(笑)」
松本 「少し多すぎるかと思って‥‥」
谷川 「ぜんぜん。うさぎ、いいと思います」
まるでできあがった絵本を読んでいるみたいに、
最初のページからふたりで追いかけていって、
ちょうど読み終えるというあたりで、
大洋さんが谷川さんにはじめて質問しました。
松本 「これは、はじめに、
『死』というテーマがあったんですよね?」
谷川 「そうだったね、たしかね」
ちょうどよく話題が切り替わって、
そういう話を座ってやりましょうか、
ということになりました。
なんとなくですが、
1時間くらいの対談かなと予想していました。
けれども、ふたりの話は
たっぷり2時間、続きました。
そのお話を、次回から。
どうぞ、おたのしみに。
(つづきます) |