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ジョージ |
おまたせーっ!
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── |
ジョージさん! おひさしぶりです。
きょうはよろしくおねがいします。
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ジョージ |
こちらこそー。
ボクもたのしみにしてました。
どういう格好で来ようかなって思って。
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── |
オックスフォードのボタンダウンシャツに
銀ねずの太めのネクタイ、
麻のジャケットをお召しになって。
下は洗いざらしていないデニムを1回折り、
ジョン・ロブの茶色の革靴です。
手にはゴヤールのサンルイをお持ちです。
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ジョージ |
お洋服はエルメスですっ。
気合い入れてきましたっ!
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ジョージ |
今ね、地下鉄で来たんだけれど、
ほんとはエスカレーターで上るのが
いちばん早いのね。
けど、ガラスの箱に乗って来たの。
ちょっと旅行気分を味わいたくて、
ガラスの箱に。
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── |
新宿通り側にある、
シースルーのエレベータのことですね。
ちなみに説明しておきますと
伊勢丹新宿店は新宿通りと明治通りのまじわる
新宿三丁目の交差点に面しています。
正面玄関は新宿通り側です。
では、さっそくまいりましょうか。
きょうは伊勢丹のかたに
アドバイザーとして同行願っております。
お顔は、出せないんですけれど。
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伊勢丹の人 |
どうぞよろしくお願いいたします。
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ジョージ |
どうぞよろしくお願いします。
こんな美しい女性と
いっしょに歩けるなんて光栄ですっ。
(建物を見上げて)
‥‥ボクは、伊勢丹に住めたら
すごく幸せだなと思うの。
この古い建物をいずれ取り壊すときがきたら、
高層にしてマンションにしてください!
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伊勢丹の人 |
マンションにですか?!
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ジョージ |
ほら、丸の内の再開発において
唯一欠けているのは
百貨店と住宅であると言われたでしょう。
あそこに伊勢丹さんが出てくれれば
完璧なのに、っておっしゃる方もいた。
だからこの新宿三丁目に
住宅付きの伊勢丹があったら、
すーばらしいと思うの!
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伊勢丹の人 |
どんな方が住まれるんですか。
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ジョージ |
おそらく、いろんなものが選べるんだけれど
選択肢があまりに多すぎるから、
誰かに選んでもらって、
まるでそこに招かれたように
生活をするような人、でしょうね。
たとえばホテルに住みたい人っていうのは、
ものを持ちたくはないけれど、
使いたいから、じゃないですか。
そういう人たちはけっこう
デパートメントストアではなくて
「百貨店」を必要としている。
千ではなくて、百しかないお店ね。
人間ってたぶん、
百もあれば足りるんですよ。
十じゃ少ない。
けど千になってしまうと
とっちらかって気持ちが落ち着かない。
そういう人にぴったりのお店なの、百貨店って。
昔、ニーマン・マーカスが
カタログで飛行機を売った、
最近はあんまり売らなくなった。
飛行機は売る必要はないと思うんだけど、
伊勢丹は世界で初めて
「生活を売った」ってことになれば
すごいたのしいと思うのよ。
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── |
おおー。
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ジョージ |
たとえば、気持ちが弱くなっている時とか、
お金を使えない時ってあるじゃない?
ボクも伊勢丹に来るとものがあふれすぎていて
買えないじぶんが
さみしくなることがある。
もしかしたら、世の中、みんな、
そうなのかもしれない。
ユニクロに行くと幸せなのは
すべてが買えるからよね。
ということは伊勢丹に来ると
買えないのにステキなものがありすぎて、
おもしろくない人がいるかもしれない。
その時に、ボクはこう思うことにしてるの。
ここにあるものは基本的に
「ボクのもの」であって
買うまでお預けしてる、って。
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── |
ぜんぶボクのもの!
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ジョージ |
そう。伊勢丹にお預けしている限りは
大切に預かってくれてるでしょう?
ボクが買うべきものがすーごいいい状態である!
って思って見ていれば、たのしいのよ。
「あ、ボクのために預かって、
毎日磨いてくれてるんだな」って。
伊勢丹の皆さんにしても、
そういうふうに思って働いてたら
すごくたのしいんじゃないかしら。
もう売れてるんだもん。
お店に置いたということは
もう、買い手がついているということで、
ただ、タイミングが合わないだけ。
だって売れないでいいと思って
仕入れているものはなにもないでしょう?
お店にあるということは
売れていないわけじゃなくて
買い主がまだ来ないだけ!
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── |
なんだか期待が高まってきました。
ジョージさん、そろそろ、中に入りませんか?
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ジョージ |
そうね!
それにしてもとってもにぎやかね。
水曜日だから?
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伊勢丹の人 |
そうですね、
伊勢丹は火曜日までが1週間で、
水曜日は「立ち上がり」なんです。
週替わりのプロモーションは
水曜日から始まりますし、
それをご存じのお客様がいらっしゃたりと、
平日でいちばんにぎわうのが水曜日なんですよ。
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ジョージ |
さあ正面玄関よっ!
いい、気をつけて?
これから入るのは、おとなの遊園地。
最高の遊園地なの。
買いさえしなければタダ!
‥‥なんて言っちゃいけないのかしら。
でも、思いがけないものを買っちゃうの。
いろんなところに罠みたいなものがあって!
この、まんなかにまっすぐのびる通路。
ボクの母がね、この通路に
名前を付けているんです。
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伊勢丹の人 |
わたくしどもは「中央通路」と。
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ジョージ |
ウチではね、「自己愛の花園」って呼んでるの。
ここってね、向かって右の明治通り側には
靴やハンカチ、いまごろの季節だと素敵な傘。
このフロアには女の人が
時間を忘れるものがたくさんあるじゃない?
だからその象徴のまんなかの通路は
「自己愛の花園」。
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── |
手前には指輪やアクセサリーもありますね。
奥にいけば化粧品も。
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ジョージ |
逆に二丁目から来ると、
安心して歩けるのがここよね。
だって、彼におねだりされるものが
なーんにもないから!
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── |
ということは一般的な男性は
おねだりされまくっちゃう場所ですね。
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ジョージ |
フフ。ボクの父が母と待ち合わせをするときは
かならず、明治通り沿いでね、って
約束するのね。
そうすると父が10分、20分遅れても
母は苦痛じゃないから。
でも、10分ごとに靴一足、
っていう暗黙の了解があるみたい。
それが父と喧嘩をしたあとだったりしたら
母はさっさと明治通りのいちばん奥にある
エルメスに入っちゃって、
ハンドバック一個になっちゃう可能性もあるの。
だから、なるべく仲良く早くここに来ようと、
父は、思っているみたい。
そういうエリアですっ。
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── |
突き当たりにきました。
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ジョージ |
昔、階段があったところね。
そして、ここで明治通りを背にして
左をみると、化粧品のフロア。
でも化粧品の匂いがあまりしないのね。
風通しがいいからかしら。
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── |
この化粧品売り場、
すごいですよね‥‥。
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伊勢丹の人 |
はい。スキンケアからメイクに関して
日本一の売上を誇るフロアです。
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ジョージ |
じゃ、ここでショップをもてるということは
素晴らしいことなのね。
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伊勢丹の人 |
ここは美容の精鋭が集まるところで
ここで経験を積んで他の店にいかれるんです。
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ジョージ |
(深呼吸して)なんだか懐かしいわー。
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