ほぼ日の「伊丹十三特集」の最後には、 宮本信子さんをお迎えできたらいいなぁ。 この特集がはじまるとき、 糸井重里とほぼ日乗組員全員が、 そう願っていました。 いちばん近くで、いろんな伊丹さんといっしょに ときをすごした宮本さん、  さぁ、じっくりと、うかがいます、 伊丹十三さんのことを!

第一回 女優としての私を、かってくれた。 2010-01-30
第二回 そういう伊丹さんを見習って。 2010-01-31
第三回 自分は大きい道に戻って運転する。 2010-02-01
第四回 とうちゃん、味噌醤油代稼いできます。 2010-02-02
第五回 アンデルセン。 2010-02-03
第六回 黒字主義。 2010-02-04
第七回 ラッシュの夜。 2010-02-05
第八回 妻は大丈夫だろうか。 2010-02-07
第九回 両方に宮本さんがいる。 2010-02-08
第十回 人類最後の希望。 2010-02-09
第十一回 伊丹さんといたときの喜び。 2010-02-10
第十二回 毎日泣いてた頃。 2010-02-11
第十三回 そう言われるのは、夢。 2010-02-11
宮本 今日はね、糸井さんから、
いったい何を聞かれるのかと
ドキドキしています。
もちろん、私はまな板の上の鯉で、
いいんですけれども。
糸井 はははは。
宮本 糸井さんの聞き方が
なにしろすばらしいので、
思わぬことを
しゃべってしまうかもしれないです。
それがなんとなく「恐怖」です。
糸井 ぼくはいつも、こういう対談では
ある程度、出たとこまかせのところが
あるんですが‥‥じゃあ、
今日はもう、ますます考えないことにします!
宮本 考えないんですか(笑)。
糸井 うん、なんにも考えないことにしました。
あの要素とこの要素がなくて怒る、
というような人は、いませんから。
宮本 そうですよね。
よろしくお願いします。
糸井 お願いいたします。
‥‥で、どうしましょうか。
宮本 そうね‥‥そもそも、
自分のことを話す機会が、
あまりないもんですから。
糸井 女優のお仕事というのは、
ふだんの自分は、いわば
隠れていますからね。
宮本 そう。語らなければならない言葉は
台本の中にあります。
こういうニュアンスで伝えたいな、
ということはありますが、
内容を変えてしまうわけには
もちろん、いきませんから。
糸井 女優さんが自分で
「こういう映画をやりたい」
と言うことは、
あんまりないですよね。
宮本 うーん。
糸井 あるんですか?
宮本 基本的には、女優はオファーされる仕事ですが、
「こういう役がやりたい」とか
「こういう芝居をつくりたい」という
希望は、あります。
例えば日本では、
私ぐらいの年齢の女性を描く映画は
あんがい少ないんです。
あるとすれば、病気のもの。
糸井 ああ、なるほど。
宮本 介護をしている方、あるいは
自分が病気で悩んでいて
家族がどうなっていくだろうか、とか、
そういうお話が多いです。
だけども、そればっかりじゃなくても
いいんじゃないかな、と思うんですよ。
私ぐらいの年齢や、
もうちょっと上の設定でもいい、
元気でいきいきして、
前に向かっていくような、
そういう役ができればいいのにな、と
わりとずーっと思っています。
外国だと、そういう映画や役、
女優さんもたくさんいらっしゃるんですけど。
糸井 日本では、そういう作品は
なかなか難しいですね。
受け身でいると、そうじゃないものが
主になっていっちゃうんだなぁ。
宮本 そうなんですね。
俳優だった伊丹さんが
映画をつくったのも、
もともとはそういうことだと思いますし。
糸井 だけど、伊丹さんが
映画をつくることになったとき、
宮本さんのほうは、
「あ、ちょうどそういうのがやりたかったの!」
と、思っていたわけではないんでしょう?
宮本 えーっと、ないです。
糸井 (笑)
宮本 そもそも、私は主演ができると
思っていませんでしたから。
だけど、私は伊丹さんには、
結婚したときからずっと
1本でいいから
映画をつくってもらいたかったんです。
糸井 うん、うん。
宮本 これはね、女房だからだと思うんですよ。
糸井 女房だから。当然、ありますよね。
宮本 女優としての私を
まぁ、いちばん、
かってくれてたと思う。
糸井 うん。
宮本 「いい女優なのに、どうして
 いい仕事がこないんだろうね、きみにはね」
俳優同士の頃、
よくふたりで話していました。
糸井 そうか、伊丹さんは、そのときは
俳優だったんだ。
宮本 結婚したときは俳優同士でした。
だから、
「いい仕事ってなかなかないのねー」
「ないよねー」
と、夫婦で話を(笑)。
糸井 伊丹さんも、同じように
ご自身のことでも
そう思ってらっしゃったんですね。
宮本 そうだと思います。

(続きます!)


column伊丹十三さんのモノ、コト、ヒト。

29. 『再び女たちよ!』。

『ヨーロッパ退屈日記』『女たちよ!』につづく
伊丹十三さん3冊目のエッセイ集です。
1971年から「ミセス」(文化出版局)で連載していた
「のぞきめがね」(翌年からタイトルは
「私の博物図鑑」に変更)をおもにまとめたもので、
軽妙洒脱な語り口で、
伊丹さんらしいうんちくや見識を披露しています。
とりあげるテーマは、以前の2冊とは少々異なり、
海外で広めた見聞よりも、
身の回りの生活のなかで感じたことが
多くなっています。

この連載の時期あたりから伊丹さんは、
テレビのドキュメンタリーの仕事に傾倒していきます。
そしてこの後、自家薬籠中のものとなる、
聞き書きのスタイルの書きものが増えていくのですが、
すでにこの本の中でも
「長髪の論理」「放出品」「シコシコの論理」などは、
その人らしい話し方を生かした、
インタビューの形式でつづられています。

『再び女たちよ!』の出版は、1972年。
この3年前、伊丹さんは宮本信子さんと結婚されています。
初版の単行本(文藝春秋)と、現在復刊されている
文庫本(新潮文庫)の表紙は、
伊丹さんが宮本さんを描かれたものです。
当時担当編集者だった
新井信さん(文藝春秋社)によると、
普通の画用紙に鉛筆で素描されたものだとか。

確かに伊丹さんはあまり紙を気にされなかったのか、
伊丹十三記念館で見ることのできる
イラストの原画も、
原稿用紙の裏に描かれていたりします。

本文中のイラストは、連載当時のものが
挿入されているのですが、筆致が細かく、
光と影も表現された非常に写実的なものになっています。
(ほぼ日・りか)

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参考:伊丹十三記念館ホームページ
   『伊丹十三記念館 ガイドブック』
   DVD『13の顔を持つ男』
   『伊丹十三の本』ほか。



2010-01-29-FRI



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