GIRL
テレビ番組「ザ・スクープ」を
スクープする。
なんてベタなタイトルなんだと、スクープのスタッフから
言われちゃうんだろうねぇ。しかし!時代はベタなんだよ。
こんなに青臭くベタな言葉で、テレビ番組を語ったことが、
いままでにあったろうか?

ぼくと「ほぼ日」が取材された
「ザ・スクープ」という番組を、一所懸命に取材しました。
放送人たちのこういう生なコトバを読むことって、
いままでなかったんじゃないかと思います。
その番組のオンエアの夜まで、
この連載はコツコツと続けて行くつもりです。
どんな番組になったのか、ぼくも知りません。
たのしみに待ちましょうや。

第1回 はじめて見たとき

第2回 どのように対談をもっていく?

第3回 マイノリティである場を確保する

第4回 白土三平であればいいと思うんです

第5回 なんでそんなにベタな

第6回 どこまで話がふくらむか

第7回 ひとりの個人

第8回 毎週つくってるひとたち

第9回 予想もしない方向に

第10回 28歳

第11回 ロシアとイランにおける日々

第12回 若いやつの素振り

第13回 認識のために

ついに今日! 1月29日23:30からの
テレビ朝日系列「ザ・スクープ」内
糸井重里&ほぼ日特集、ぜひ見て下さい。
そして本日はこのコーナー
「『ザ・スクープ』をスクープする」
も最終回だということもありまして、
内容的にもこれまでの12回を超えて
最高のものになっている自信あり!
鳥越俊太郎さんへのインタビューです。
海外から見ているひとも、
とにかく最後まで読んでみて!



   

----「ザ・スクープ」でやりたいことは?


うーん、そうね、基本的に
ぼくがいつも思っているのは、
今わたしたちはどんな時代に生きているのかということ。
見てるひとたちがそのことに
何か気づいたり、考えたり、してくれるといいな、
そういう番組でありたいなということです。
報道とかニュースとか
いろいろな言われ方をするけど、
ニュースとは何かとか、報道とは何かということを
根本的に考えていくと、結局
人間の認識の問題に突き当たる。
自分が生きていて、人間が生きていて、
生きていくうえで水を飲んだり、
食べ物を食べたりして肉体を維持しますが、
人間は肉体を維持するだけの存在ではなくて、
社会的な存在としても生きているわけですね。
そういうなかでどうしても、
自分を含めてこの世界はどうなっているのか、
今何が起きているのか、どっちに行くのか、
どうなるのか、というようなことについて
認識をしないと踏み出せない、歩いていけない。

人間の認識の材料になる部分、つまり情報を
供給しているのが、メディアですよね。
ところがあまり多くの、
取捨選択が難しいほどの多くの情報が流れていると、
逆に今は認識を正常にできなくて、
むしろ混乱するという状況に、
メディアが発達したことによって
なっているわけですね。
まあサッチーがどうしたとかそんなことまで
ぜんぶ人間の頭のなかに入ってくると、
普通の人間ではちゃんと整理して、
じぶんがこれから生きていくのに必要なものを
取り込んで認識して判断して行動するという
情報の受容、認識、判断、行動、
というシステムがなかなかうまく
作動しなくなってきていますよね?

だからそういう意味でいうと、
視聴者が時代の認識をできるように情報を、
われわれは取り込み、そして提供していく。
そうありたいと思ってやっているわけです。
コメントひとつにしても
そういうことを意識して言わなければいけない、と。
いつもうまくいくとは限りませんけど、
基本的にはそう。
だから「ほぼ日」で書いていても
念頭に有るのは情報の大洪水のなかで、
これは頭の片隅でも置いといた方がいいよねえ、
そんなことです。だから、
「ほぼ日」でやっていることと
「スクープ」でやっていることとの間には
ぼく自身にはあんまり差がない。

----今報道をやっているうえで
  どのような事件や現象に興味がありますか?


やっぱりこれまでのものが
ものすごい勢いで壊れてますよね。
例えばぼくらの世代には
そんなことはだめだろうというようなことが
平気になった。ルールが壊れちゃったんです。

援助交際というのがありますよね。
ぼくらの若いころはこんなもの、絶対ダメですよね。
いいも悪いもない。殺人と同じでこれはダメなんです。
ところが、そういうのを平気で乗り越えて、
「売春はよくないよ」というと、
「自分の体売ってどこが悪いの?」
こう来る女子高生が出てきた。
また、学校の先生がトイレにビデオを据え付けて
女子高生をのぞいたりとか、
女子高生とか女子中学生を池袋でナンパして
ホテルに連れ込んでセックスしようとして断られたら
「俺はやくざだぞ」と居直ったとか。
そういうのが一杯ある。
警察官が捜査で押収してきたネガフィルムを材料に
女子大生を脅して「やらせろ」と。
「やらせなかったら金を渡せ」と恐喝するとか。
そういうことを取り締まるために
警察官という職業があるのに、
一番やってはいけないことを警察官がやってる。
もちろん昔から警察官の不祥事というのはあった。
あったけれども、ここまで平然と
警察官の一番基礎になっている使命みたいなものを
踏みにじってね、本能とか欲望とかを優先させるという
時代もなかったと思います。
学校も、警察も現場が壊れていると思う。

東海村の臨界事故だってそうだし、大蔵省もそうだし、
金融機関の不良債権だってそうだし、
新幹線のトンネルのコンクリートが
落ちてくるのだってそう。
2キログラムとかのでかいコンクリートの
かたまりが落ちてくるわけ。
電車の上とか直後とかに落ちているんだけど、
でもあれが電車の直前に線路に落ちてごらんなさい。
脱線、転覆、おそらく1000人を超える死傷者が出る。
こういうすっごい危機一髪のところで
のがれているような深刻な問題なんですよ、
それもひとつじゃなくていくつも起きてる。
これは肉体労働の現場の手抜きですよね。
本人たちはちゃんとやったつもりでも
結果的には手抜きになるようなことが起きている。
例えば先日、九州のJR佐世保線で起きたケースでは
コンクリートのなかから布切れが出てきたでしょ。
ああいうのは本来日本の生産現場では
考えられないことでした。

つまり自分たちの仕事を
まあ一種神聖なものととらえて、
仕事に対してはいいかげんな手抜きをしないというのが
日本のこれまでの現場の前提であり
職人の世界だったけれど、そういうのが
平然と踏みにじられている、壊れているというのが
あっちこっちにあって、それはもう
道徳やモラルの崩壊でもあるし、
技術の崩壊でもあるし、教育現場の崩壊でもある。
全面的にこれまで「こうだ」と思って
日本人のわたしたちを後ろから支えてきたものが、
これまでの高度成長、大量消費、バブル経済、
つまり豊かになっていくなかでひとつずつ
パーンパーンとはじけ飛んじゃって、
今は何にもおそらくひとりひとりが
気がついてはないだろうけれども、
ひとりずつがそういうものから
はずれていく過程にあるんだろうなあ、と。
もちろんそうでない若い人も
たくさんいるんだけど、昔よりは
そういうタガがはずれちゃった人が多くなっている。

そうするとどうしても事件とか事故だとかいう
かたちになって数多く表に出てきますからね。
これからの日本社会の最も不安な点ですね。
21世紀は、「日本病」みたいなのが蔓延してくるのか、
英国病があり、アメリカ病がありますが、
豊かさをきわめた社会が、それなりにみんなが欲望を
満足させられるような状況になってくるとやっぱり、
社会的な病……。
英国病というのはそうですよね。
最初に社会が豊かになったわけですから。
で、アメリカも第2次大戦後の一時期は
最高に物質的に豊かなものを実現して
日本人はいつもうらやましいと思ってきてた。
それでアメリカもその豊かさが
続いていくうちに働かなくなった。
生産性が落ちるアメリカ病みたいなもの。
そこからアメリカは一生懸命巻き返えしてきたわけです。
今のアメリカはちょっと
ギャンブルに走ってると思いますがね。
で、日本は物質的にある程度豊かになって、
欲しいものが自由に手に入る社会になったときに、
自己規律だったものが失われてきた、
それはたぶん日本病という、一種の成人病ですよね。
おんなじシステムでずーっと戦後50何年も
来ているわけですから、足のあちこちが痛い、
腰が痛いとかそういうのが出てきても
ある意味仕方がない。
一種の成人病だと思うんです、
若々しい社会というのはもっと躍動的ですから。

おそらく今合計特殊出生率というのは
ひとりの女性が生涯生む子供の数ですが、
1.3くらいでしょ? これって2.08くらいないと
現状を維持できないと言われています。
それが1.3を切りそうなんですよね。
そうなるとすごいスピードで人口は減ってくるわけ。
だからといって急に子供が増えるわけでもないし
増やせっていう問題でもないしね。
そのなかで考えざるを得ない
そういう状況であることは間違いない、
そんなことも含めて、今私たちは
どんな時代に生きているのかということを、
いろんなニュース現象を通じて伝えていきたいですね。

アメリカも成人病にかかったんですよ。
ところがそれを放棄して何とか若さを取り戻そうと試みた。
ひとつは移民ですよね、
これはすごい勢いで移民が入ってきた。
もう1回成人の若さを取り戻すために
新しい血を入れるわけですよね。輸血です。
輸血によって若さを取り入れるわけですからね。

それから、ぼくはこういう言い方が
ふさわしいかどうかはわかりませんが、もうひとつは
覚醒剤を打っていると思うんです、アメリカは。
つまり株式という。バブル経済ですよ、あれも。
株がどんどん上がっていくということを
皆が信じこんで投資をする。
ああもうかったと言っては消費をする。
株価が落っこっちゃったら
たいへんなことになるのは目に見えている。
アメリカは株が上がるという覚醒剤を
打ちつづけているんだけど、
株が上がらなくなったらどうなるか。
値段が下落するという
覚醒剤を打たなくなったらどうなるか。
幻覚症状が出るんじゃないかと思いますね。
だから日本はアメリカの真似をする必要はないと思う。
いい年をしたおっさんが
覚醒剤を打って若い女の子とセックスをする
なんていうことを考えちゃいけないんですよ。

----どういう方向を取ればいいかを
  番組などで打ち出すつもりはありますか?


ぼくらの仕事っていうのはさっき言ったように
認識の材料を常に伝えているるつもりです。
だからあんまりそこをはみ出して
ご託宣を並べる気はないんですよ。
それをやりだすと
自分の判断が狂ってくるような気がするから。
認識の材料の販売店でいたいなあと。それで
「こういうふうに行ったほうがうまくいきまっせ」
みたいなことはあんまり言うつもりはないんですね。
それはきかれればこっちの意見としては言うけど、
そこは学者とか評論家とか政治家とは
ぼくは違う職業だと思いますね。

最終的にはひとりひとりが他の影響を受けることなく
自分で認識し自分で判断する、
そして自分の判断に基づいて行動する、
それが理想だと思いますので、
そういう風な状況造りにに自分は参加したいと。
そのためには自分のできることは何かというと、
さっきから言っていますように、
小さい店なのかもしれないけれど、
「こういうのがありまっせ」
「これちょっと食べてください」
とかね。それをぼくは今
テレビといろいろな雑誌の原稿を書いたり、
それから新しく「ほぼ日」というのが、
ぼくにとってはメディアですから、
東京で言うとこれまでは
六本木と神田くらいに店を構えてたんですけど、
今度は渋谷にもできたぜ、と(笑)。
「渋谷にもありますから、買ってくださいよ」
って言うんですよ。

----もっと自分の決断を前面に出す
   キャスターも、いますよね?


それをやるひとがいたっていいと思うんですよ。
それはその人の判断だから。
いてもいいと思うんですけど、
「ジャーナリズムとは?」ということについても
ぼくなりのとらえかたがあるわけです。
その自分なりの判断のなかで、
自分は何するのかというと、
そういうあり方をしようと。
「あまり踏み外さないようにしたい」とか。
他のひとが違うやりかたでやろうというのを、
それはそうじゃない、と言う気はないんです。
だっていいものは一つのかたちではないと思うんです。
いろんなやり方があると思う。
あんまりひとつの型にはめるのはよくないよね。
100通りあってもいいわけで。
エスカレーターとかエレベーターとかないからね。
自分でどこか坂道でも山道でもいいから
登らにゃいかんというそんな感じでしょ?

----別のひとのインタビューでおもしろかったのは?


中坊公平さんは面白かったよね。
なんと言うか、ああ、そうか、そうなんだよと
いうことがあってね。どういうことかと言うと、
まあテレビやマスコミのことを彼は語ってたんだけど、
どうしてもテレビや出版の場合には部数とか視聴率とか
数字のことを考えるけど、
そうじゃなくてほんとに何が正しいのか、
自分のやりたいこと・やるべきことを
きちっと見据えて、それをちゃんとやってれば、
数字というのはちゃんとついてくるものだ、という、
それは言ってしまえば
非常に簡単なことなんだけれども。

現実の社会ではそれが逆になってしまって、
そんなこと言っても数字が取れなきゃだめじゃない
そういう話になってくるわけじゃない。
だけどそれをズバッと言われて、新鮮ですよね。
ぼくは自分たちの仕事を考えれば、
やっぱり視聴率というものがあって、
視聴率が低いと視聴率をどうやって取ろうとか
考えちゃうわけでしょ?
視聴率狙いみたいなところに行ってて
必ずしも自分たちがやったほうがいい、
と思うことでないことも多少やってるわけです、
現実はね。そうすると、中坊さんのように言われると、
非常に嬉しい反面やっぱり自分たちが情けないなと、
中坊さんみたいに生きれればいいなと、
まあ複雑ですよ。

早い話が、最近の週刊誌って
あれぜんぶヘアヌードでしょ?
あれ何でかっていうと買う人が多いからですよ。
ああいうのは、出版をしている、
それを担当しているひとも
決して本意ではないと思うんですよ。
女性の丸裸の写真を載っけて
何がおもしろいんですか、売る側からして。
それが売れて嬉しいと思う?
思わないよ。俺は思わない。
でもそうやったほうが売れるからそうしてるんですね。
ほんとうはもっと違うこういう企画で
こういう特集をやって売れたほうがいいんだ、
と思ってやってるに違いないんです。

でも現実には毎週毎週裸の写真を載っけてる。
だからもう中坊さんの言うとおりだと思う。
あれで売れたからといっても、
それでほんとうに編集長は満足かと。
数字だけ見れば売れるということで
満足かもしれない。何十万部も売れた、もうかった、とね。
銭金だけのことを考えちゃいけないよというのが
中坊さんの言ってたことですね。

----現実にあるテーマで気になっているものは?

一杯あるから言えないんだけどね。
金属バット殺人事件、というの憶えています?
金属バットでお父さんが自分の子供を殺した事件。
東大文学部を卒業して出版社に入った、
青木書店というかつての左翼系の出版社ですけど、
そこへ勤めてたお父さんが、
家庭内暴力になった中学生の我が子を
金属バットで頭をめった打ちにして殺しちゃった事件です。
裁判は終わりましたけれどね。懲役3年だったかな? 
あの事件はいろいろなことを考えさせますよね。
ひとつはなぜお父さんが殺したかということ。
もう一つは何故子供が家庭内暴力になったかということです。
このへんのことを考えるうえで、
誰もが触れてない問題があると思うのですが、
これはまた神戸の事件とか
いろいろな子供の事件と共通してくるところが
あると思うんだけど、
人間の成長の過程に訪れる様々な問題を、
マスコミも教育関係者も親も
きちっと真正面から捉えてない、
つまり人間の成長のプロセスについての
理解というか洞察がちょっと違うんじゃないかと
ぼくは思ってるんですね。

大半は普通に育っておとなになっていくわけだから、
多少は問題があってもいいとは思うんだけれども、
社会が豊かになってきて、
豊かになればなるほど生きる力を
身につけられないまま子どもが、大人になっていく。
その成長の仕方は非常にはこう的で(足をひきずること)、
精神面がアンバランスな状態でおとなになっていく、
そこから生まれてくる問題というのが
やっぱりあるんだと思うんですよ。
人間の心っていうのはいろんな側面があるんですよね。
想像力だったり人間関係の能力だったり
表現能力だったり、精神面の能力というのは、
成長段階でバランスよくついてくるのが理想的なわけです。
でも人によってはでこぼこだったりするわけです。
最近の子は体がすごく大きくて、15歳でも
大人のように見えるんですけども、
精神面のある部分、例えば想像力については
3歳児くらいしかない、とか言うのがあるんです。

バーチャルな想像力ではなく、現実的な想像力というか、
そういうことがぼくは現実にはあると思う。
それが身に付いていないということは、生きる力が、
社会的な存在として生きていく力が足りない
そんなケースがけっこう多くなってる。
その結果として家庭内暴力になったり
少年事件のニュースになったりするんですよ。
その時にね、ごくありきたりな、
みんながよくやるのは母親との関係だとか
父親との関係だとか、そういうのがいいとか悪いとか、
社会がいいとか悪いとかいうんだけども、
そういうのもちろん関わってくるんだけど、
一番肝心なところは人間が生まれて
大人になっていく過程で身につけていく能力、
そういうことについてのきちっとした考察をやらないと
この問題は解決しないと思うのですよ。

金属バット事件の場合、
家庭内暴力を起こした子は
小さいときから非常に過敏な子で、
風船が上がを見て怖がったり、
つばを飲みこめなくて
タオルを1日5枚も6枚も用意して
全部つば履いてたとか。
お父さんは実は小さい頃吃音症で、
吃音症にもある種の神経症的なものがあって、
お父さんはそれを克服するんだけど、
そういう神経症的な遺伝子の部分は
子供に伝わっていて、子供はそういう部分を
人知れず悩んだと思うんだね。
悩んだけどもそれをみんな
ちゃんと受け止めてくれなくて、
じぶんでも解決できない。
それの彼なりの表現が家庭内暴力だった、という。
結局のところ誰もそこをわかっていないんです。
原因がようわからん、で終わってる。
そういう事実関係については
裁判の証言の中で出てくるんですけど、
神経症の問題として捉えたひとは誰もいない。

神経症は多いんですよ。
多くのひとが大なり小なり持っている。
同時に神経症というのは
繊細な神経を持っているということですから、
そういうひとが画家になったり
作家になったりするわけね。
それが豊かな社会のなかで
うまくいい方向に出ていかないで負の方向に出てくる、
そうなるとそういう家庭内暴力になったり、
事件をひきおこしたりする。豊かさの中の病、これが
今後の最大のテーマだろうなと思っています。


(おわり)

「ザ・スクープ」への激励や感想などは、
メールの表題に「ザ・スクープへ」と書いて、
postman@1101.comに送ってください。


2000-01-29-SAT

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