竹松 |
私が鶏郎先生の
お手伝いをはじめた時、
先生は、戦前・戦中に
書いていたクラシックを
甦らせようとしていました。
コンピューターでそれが実現し、
オーケストレーションに
バイタリティーを注ぎ込んでいました。 |
大瀧 |
うん。原点に帰ってね。
好きなことを、誰にも拘束されないで
期限無しに‥‥ |
竹松 |
‥‥「いちばん、楽しい」と。
ほんとうに楽しそうでした。 |
大瀧 |
そう、そう。ストレスが
一番ない時期なんだよ。締め切りはないしね。
作ってなんだかんだって
ガタガタ言われないしさ。
それは楽しいんだよ。 |
竹松 |
職業にしていたときは、
「やっぱり、つらかったね」
と言ってましたね。 |
糸井 |
だから、不本意なことをずーっとやって、
うまくやってきたということだよね。
だから、最後は一番自分にとって
軽い仕事をした、ということですよね。
好きで。 |
竹松 |
一番好きで、一番やりたかった‥‥
ことなのだと思います。
何十年間と費やしてきた時間に、
ほんとはクラシックを続けたかった、と。
でも、生活のためなどいろいろあって。
時代に乗った、というところもありますね。
で、最後は、自分の好きなことの
10年、20年、ということで。 |
大瀧 |
たいていは、それを「不本意」と
言うんだけど、ほんとの意味で
不本意ともちょっと違うんだよね。 |
糸井 |
うーん。 |
大瀧 |
それはね、ご承知のとおり、
時代の波に乗ったりとか‥‥
そういうような時期のときというのは、
楽しい部分は当然あるわけですよね。 |
糸井 |
楽しい部分はありますよね。
欽ちゃんだってそうですしね。 |
大瀧 |
ええ。必ずありますよ。
自分が時代を動かしているんだとか、
中心にいるとか、そういうような
錯覚みたいなもの自体を、後になってからね、
「あれは本意ではない」とか言うのはね、
やっぱりちょっと‥‥どんな人間でも‥‥。 |
大森 |
うん。 |
大瀧 |
それを、やったんだから。
目の前でそれを辞めた、というのだったら
話は別だけど。やった、という事実に
本意も不本意もないというのが
僕の考え方だね。 |
糸井 |
そうだね。なるほどね。 |
大瀧 |
現実を‥‥結果をそのまま
受け止るというのが、
歴史の改竄はよくないというのと同じで、
あったことはそのまま
受け止めるべきだと思う。
そういうようにしておくと、
受け継がれるの。
改竄したものというのはね、
受け継がれないんだ。
だから、我田に水を引いたり‥‥
という種類のものはね、
必ず、落ちていく |
糸井 |
だから、向いていることとか、
得意なことを選んでやってきたから、
うまくいったんじゃないよ、
ということが言いたいんですよね。 |
大瀧 |
まぁね。あとは‥‥あの時代というのは、
あまり社会的に高くなかったんですよね、
位置がね。 |
大森 |
うん。 |
大瀧 |
CMも含めて。芸能人も含めてだけど。
さすがに戦後はよくなったろうけれど、
プライドはかなり傷ついたでしょうからね。
戦前は、大学出の学士の
芸人みたいなのはないからね。 |
糸井 |
言わば、客商売をするということですからね。 |
大瀧 |
ね。そういう意味合いの、いろいろ不本意、
というのは随分あったとは思うんだけど、
ただ、いっぱい作って、
「俺の本来はこっちじゃないんだよ」って、
みんな言うんだよね。
でも、それも気持ちは分かるんだけど、
やっぱり、それはそれ、だよね。
作家が、「これが一番満足がいく」と
言ったものが、受け取る側が満足いったと
いうものとは、やっぱりちょっと‥‥ |
糸井 |
違うよね。 |
大瀧 |
そのズレがあるから、面白い。 |
糸井 |
だってね、モーツァルトだって
依頼がなきゃ‥‥ |
大瀧 |
依頼があって作っているからね、みんな。
やっぱり、依頼があるのが一番だね。 |
大森 |
今回の企画で、
こういうお話をお聞かせいただいて‥‥。
ぼくは先生の晩年には離れていたでしょ。
で、たまに、1年に1回とか、
2年に1回くらい先生にお会いする。
そうすると、
「大森さんね。申し訳ないけどね‥‥」と。
まぁ、言ってみるとリリカルソング、ね‥‥ |
大瀧 |
ええ。メロディータイプのものね。 |
大森 |
そう、そう。「自分の歌がある。
それを世の中に出したいんだ」と。 |
大瀧 |
服部良一のね、ああいうメロディックな
ものとか、ああいうタイプのものが
「俺にもあるんだよ」‥‥と。 |
大森 |
「出してくれないかな」と、
そういう気持ちをすごくいただいたんです。 |
大瀧 |
俺は、コミックソングで
ベスト10に入れたい、
という気持ちがあるんだけどね。 |
糸井 |
ときどき、あなた、
おやりになって
いらっしゃいましたよね(笑)。 |
大瀧 |
だけど、ベスト10に入ったことないんだ。
100位以内に2曲しか入ったことがないんだ。 |
糸井 |
「イエローサブマリン音頭」。 |
大瀧 |
「うなづきマーチ」。この2曲しか‥‥ |
糸井 |
大したもんだよ! |
大瀧 |
大したもんでもないんだ。
ベスト20にも入らないんだ。
‥‥コミックソングで認められたいんだよ! |
糸井 |
はぁー‥‥(笑)! |
竹松 |
鶏郎先生は‥‥
「コミックソングの三木鶏郎」
と呼ばれるのは、
不本意だったと思います。 |
糸井 |
それは、三木のり平さんもそうですよ。
三木のり平さんは結局‥‥ |
大瀧 |
演出のほうに行った。
あの時代の人は、やっぱり、そうだよ。
植木さんだって、スーダラ節を歌いたくて
やったわけじゃないとか。
‥‥われわれには、ないよ。
そういうようなことは。 |
糸井 |
ない、ない。 |
大瀧 |
嫌でやった、ということはないよね。
そういう意味では。 |
糸井 |
「べつに、楽してやっていたわけじゃないよ」
みたいなことは言うけどね。 |
大瀧 |
まぁね。だけど、嫌なことはないな。 |
竹松 |
「コミックソング」と言われるのを聞いて、
私は、「僕は特急の機関士で」とか
「田舎のバス」とかが、
「あれは、コミックソングだったんだ!?」
と逆に驚いたんです。 |
大瀧 |
厳密に言えば、コミックソングでは
ないんだけどね。 |
竹松 |
ええ。鶏郎先生はあれを
五大ヒットソングの中に
入れているんですけど、
「これは、コミックソングとは
私は捉えないですね」と言いました。 |
大瀧 |
そうするとね、ジャンルが
細かくなっちゃうのよ。 |
竹松 |
そうなんですね。 |
大森 |
糸井さんの「スーパーフォークソング」。 |
糸井 |
ああ‥‥コミックソングですよ!(笑) |
大瀧 |
結局、歌謡曲というデカイ幹があるから、
非歌謡曲というジャンルの総称体がない。 |
糸井 |
単純に、セリフが入るともう歌じゃない、
みたいなところがちょっとあるんだよね。 |
大瀧 |
だって、「月の法善寺横町」だって、
セリフあるじゃない。 |
糸井 |
だから、‥‥駄目なんじゃないのかな。 |
大瀧 |
え?‥‥鶏郎さんが? |
糸井 |
ええ。セリフがあると、なんかね‥‥ |
大瀧 |
セリフだけじゃなくて、
コントまで入ってるじゃない、
「田舎のバス」なんて。 |
糸井 |
そうだよね。「モォ〜」まで入ってくるよね。 |
大瀧 |
うん。だから、あれは
ミニミュージカルなんだよね。 |
糸井 |
ミニミュージカル! |
大森 |
うん! そうですね。
それはすごくよくわかる。 |
糸井 |
大瀧さん。全然、
もう作っていないの‥‥今? |
大瀧 |
ないよ。 |
糸井 |
ウフフフフ。 |
大瀧 |
依頼がないんだよ。
誰も頼んでこない。
頼まれているうちが花だったねぇ。 |
糸井 |
ウフフフフ‥‥そっか。
ではそろそろこのへんで。
今日はありがとうございました。 |
竹松 |
記念写真を1枚だけよろしいでしょうか。 |
大瀧 |
大森さんも。 |
一同 |
お疲れ様でした! |