<ありがとうなきもちでぱんくしそうです>
じぶんの声を空に向かって放り投げると
ぼくのからだに、ことばの欠片がゆっくりと
降り注ぐように堕ちてきて、胸のあたりで着地した。
はじめてそれを受け止めたとき、
とがったシャーペンの芯を指の腹で押したぐらいの
痛みがあった。でもいまでは尖る感じのそれではなく
どんよりとした鈍い痛みが続いてる。
だれも信じてくれないかもしれないけれど、
はじめは痛みなんかよりも先に気持よさに負けてしまった。
そしてその欠片は今ではぼくのからだのいちぶですべてだ。
心地よい痛みは早くになくしてしまいたくなかったので
そのままにしていた。
そのとき抜いてしまえばかさぶたになっただろう。
かさぶたはやがて剥がれてしまえばもう跡形もなく
じぶんとかかわりのなかったものへと姿を消してしまう。
そんなふうにはやばやとかさぶたにしたくなかったから。
なくしてしまいたくなかったから。
ぼくはそのままにしておいた。
そしてあらたに重ねるようにことばの欠片で
この胸を刺し貫いた。
だけど、もうそうもいかなくなってしまたのだ。
なぜってぼくのからだには198本もの欠片が
刺さったままだから。
このままだとこれからの季節にかかせない
Tシャツだって着れやしない。
だからゆっくりとその欠片をじぶんの両手で
引き抜いてやることにした。
はじめは迷ったし、もうそんなことやめてしまえと
計画そのものをちゃらにしたくなった日もあった。
でも、ぼくの大好きな先生がもうそろそろ
その日がやってきたんじゃないかね。と告げてくれた。
この両手はこの日のためにあったんじゃないかと
思うぐらい、ぼくは慎重に欠片のふくらみを
手のひらで包んで力の限り、一気に引き抜いた。
ぼくはそのときうまれてはじめてかもしれないぐらいの
痛みを、激しすぎる痛みを感じた。
刺さったときよりも、比べ物にならないぐらいの
生きている証の痛みがぼくを襲った。
汗をかきながらすべてを抜き終えたとき。
ぼくのからだには無数の穴が、残った。
ぽっかりとあいた穴はどうしてこんなに
さびしい輪郭をしてるんだろう。
ぼくはぼくのからだを鏡に写しながら思った。
あまりに風通しがいいと、空しくなるね。
ピアスをなくしてしまったみみたぶのように
いつかこのからだから穴がきえてしまうとき
ぼくはふたたび、ことばの欠片をまた空にむかって放ち
じぶんの胸に届かせてしまうことだろう。
そしてくりかえしおなじことをしてしまうんだろう。
性懲りもなく。だってそんな痛さ見たさがぼくだから。
<さびしくない穴なんて、きっと何処にもないのだ。>
せめてきょうだけはそうしたたかに思いたい。
そんな気持でぼくはぱんくしそうなのだと
ぼくはぼくのからだに声にせずに胸の奥で囁いた。
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