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The other side of Everest |
あんなに、とんがっているハズがない――。著しくパフォーマンスを落とした思考回路に、彼方から「声」が侵入してくる。8848Mの頂上直下、ほぼ垂直に近い角度で屹立する急峻な岩場。ヒラリー・ステップ。世界のてっぺんに立たんとする者を目前で阻む難所に、写真家は最後のアタックをかけていた。数分前に素早く抹茶ヨウカンを食べたばかりだし、ヒラリー・ステップ自体、さほど難しくは感じていない。つまり自分はいま、冷静だ。なのに聞こえる。「あんなに、とんがっているハズがないーー」幻聴? 狂気? ふと、真横に視線を遣った。一面の雲海に、世界最高峰が鋭角な影を落としていた。‥‥あんなにとんがってるハズ、ないわ。他の登攀者は、気づいていない。極限的な高みで、エベレストは「別の顔」を見せた。なぜだろう、石川直樹だけに。
2011-12-19-MON
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