3年前の夏、会津田島の家庭料理を取材した。
スタイリストの高橋みどりさんが自身の鰊鉢で
鰊(にしん)の山椒漬けを漬けてみたいと
友人の猪股慶行(いのまたよしゆき)さんの母で
料理上手な良子(よしこ)さんを訪ねる内容だった。
取材に伺ったのは会津田島祗園祭のとき。
祭りは毎年7月22、23、24日に行われ
それに合わせて猪股家全員が里帰りしてくる。
猪股家は代々、祭りの歌舞伎屋台の芸場であり
関係者などの来客も多いため
祭りの支度は良子さんにとって一年で一番忙しいとき。
期間中、猪股家でふるまわれる料理を
鰊の山椒漬けだけでなく、
郷土料理として撮影させてもらった。
母屋の離れには祭りのための調理場がある。
その広い土間で長年使い込まれた猪股家の鰊鉢と
みどりさんの鰊鉢に、鰊と山椒が漬け込まれた。
土間に鋳物のコンロと大きな釜がいくつも並び
「目出度記 お祭り献立表」と筆で書かれた
祭り料理の献立表が貼ってある。
「手間暇かけるのがおもてなし」が良子さんの口癖。
取材も大事だが、みどりさんはじめ取材陣も
良子さんの指揮のもと祭りの支度を手伝った。
そしてお世話になった3日間、祭りの料理に止まらず
朝食の煮物や祝い事のときの餃子、
おもてなしの天ぷらそば、
お疲れさまのソースカツ丼など、
普段の料理までご馳走になり、良子さんの話を聞いた。
祭りの味と母の味を求めて里帰りする家族たち。
大勢のための祭りの支度はすごく大変だけど
年一度、調理場に家族で集まって
世間話をしながら一緒に忙しく過ごす。
それがとても楽しそうで羨ましく思えた。
祭りの沿道では
大勢の子供たちを乗せた手押し車の大屋台が
「おーんさーん、やれかけろ」(神様、ほら走れ)
の合図でガラガラと音を立てながら
男たちは猪股家を目掛け大屋台を寄せてくる。
その様子を座敷から眺めていると
お囃子の音とともにこの土地の夏の到来を感じる。
そんなわけで3年前の良子さんの料理の味が忘れられず
今年の祗園祭に合わせて猪股家に行ってきました。
みどりさんは取材後も毎年祗園祭の季節に
良子さんの祭りの支度を手伝い、猪股家で夏を迎える。
日差しが強くても調理場は風が通って涼しく
井戸の水がすごく冷たい。その冷たい水で締めた
調理場のお昼の定番、冷やし中華がまた格別なのだ。