2018年1月、
「シェイクスピア講座」で
「ほぼ日の学校」は始動します。

そこに向けて、
いままさに「制作中」の様子や
学校にこめた思いなどを、
学校長・河野通和が
綴っていきます。

ほぼ日の学校長

河野通和(こうの・みちかず)

1953年、岡山市生まれ。編集者。

東京大学文学部ロシア語ロシア文学科卒業。

1978年〜2008年、中央公論社および中央公論新社にて
雑誌『婦人公論』『中央公論』編集長など歴任。

2009年、日本ビジネスプレス特別編集顧問に就任。

2010年〜2017年、新潮社にて『考える人』編集長を務める。

2017年4月に株式会社ほぼ日入社。

ほぼ日の学校長だよりはじめに

「ほぼ日の学校長」という肩書きを
使い始めて3ヵ月近くになります。

名刺を見て興味を持ってくれた人が、
「ほぼ日」のサイトをチェックしたところ、
まだ何も情報がなかった、と言ってきました。

いつになったら開校するんでしょう?

と楽しみにしてくれている様子です。

そこで、まだ準備中ではあるのですが、
現在進行形の様子を、週に1回メールマガジンの形で
お届けすることにしました。

試合開始の第一球は、思い切り
「開校にあたって」の挨拶文を書いてみました。

「試案」ではありますが、
ここから出発します、という宣言です。

「ほぼ日の学校」開校にあたって

ほぼ日の学校は「古典」を学ぶ場です。

「古典」とは、英語で言えばclassic。

長い歴史の風雪に耐えて、いまに生き残った
名著や音楽などを、一般的にそう呼びならわします。

ところが以前、ある人に教えられました。

classicの語源をラテン語→ギリシャ語にさかのぼると、
原意は「船」であり、「軍艦」なのだよ、と。

だから、複数形classicsは「艦隊」になるわけだ、と。

驚きました。

古代ギリシャの都市国家にとって、国家の存亡をかけた
戦いや貿易に不可欠だったのは「船」でした。

その国家の命運を決するclassicが、
人間の存在にとっても不可欠の、本質的な知の遺産
(=心の拠り所)というふうに、
いつの間にか意味を転じていたのです。

 

では、なぜいま古典なのか?

自分自身にそう問いかける時、
私にはひとつの風景が思い浮かびます。

私が生まれ育った岡山市から西へ(つまり広島の方向へ)

約15キロ行ったところに、備中国分寺跡という
史跡があります。最初にそこを訪れたのは、
小学校時代の遠足だったと思います。

「行った」という記憶以外、何の思い出も残っていません。

次は大学生時代、友人の車で初めて遠出をした時です。

ドライブという行為自体がとても新鮮なイベントだったので
他のことは忘れました。

それから15年ほどして、ある歴史作家を案内して
雑誌の取材で訪れました。

備中国分寺跡は、周囲に近代的な建物が何一つない、
のどかな田園風景の中にあります。

田んぼが広がり、なだらかな山と、青い空だけが背景です。

「五重塔は江戸時代に再建されたものだそうですが、
奈良時代に、聖武天皇の命によって
各地に国分寺が建立された頃と、
まわりの風景はほとんど変わっていないと思います。

古代人もこの道を同じように歩いていたのでは
ないでしょうか」と、口をついて言葉が出ました。

言ってから、ハッとしました。

自分が急にタイムスリップして、
昔の人たちと一緒にここを歩いているような
不思議な気分に襲われたからです。

そして10年ほど前に、思い立って行きました。

より強く、古(いにしえ)の人たちに
会いに行きたいと思っている気分の高揚を感じました。

 

私の中にある「古典」との出会いは、
この時のイメージに重なります。

はるか昔に生きた人々の温もりを感じ、
彼らの喜怒哀楽に思いを馳せ、
彼らの声に耳を傾けようとすると、
自分の身体の奥底に眠っていた何かが
呼び覚まされる気がするのです。

足元が頼りなく、輪郭がぼやけている現代人の姿や営みが
より鮮明に見えてくるような驚きと発見に
いつも何かしら出会うのです。

 

古典とは、私たちにとって何でしょう?

それは単なる情報、知識ではありません。

人生を深く見つめるヒントとともに、
生きる意欲を与えてくれる体験そのものだと思います。

本来の教養とは、そういうものではないでしょうか。

いまを生きる私たちに勇気と力を与えてくれる
共感の源(みなもと)である、と思うのです。

 

インターネットで情報が飛び交い、
AI(人工知能)が私たちの情報処理能力をはるかに凌駕する
時代がほどなく来るのでしょう。

その中にあって、私たちは
何らかの本質的な後ろ盾を必要としています。

いまの、これからの時代を生き抜くための「艦隊」を――。

 

古典の中に生きた人。
それをずっと語り継いできた人。

古典をこよなく愛する人。

これから古典に会いに行こうとしている私たち。

さまざまな人たちが行き交いながら、
ともに古典に触れる喜びを共有できる学びの場。

そういう新たな出会いの空間を、
「ほぼ日の学校」はめざしたいと思います。

門はいつでも誰にでも、広く大きく開いています。

ほぼ日の学校長

河野通和

こう、書いてしまったからには、
あとは笑ってやるしかないですね。

次回からは、学校の立ち上げに向けた
私たちの覚束ない足どりを綴っていきます。

どうぞよろしくお願いいたします。

2017年9月15日

「ほぼ日の学校長だより」は、
ほぼ日の学校長・河野通和がお届けするメールマガジンです。

「ほぼ日の学校」のはじまりや、これからの話、夢や想いを
週に1回、お伝えしていきます。
読みつづけていただくと、
耳寄りな情報が入ってくることも。
どうぞ、お楽しみに。

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