2018年1月、
「シェイクスピア講座」で
「ほぼ日の学校」は始動します。

そこに向けて、
いままさに「制作中」の様子や
学校にこめた思いなどを、
学校長・河野通和が
綴っていきます。

ほぼ日の学校長

河野通和(こうの・みちかず)

1953年、岡山市生まれ。編集者。

東京大学文学部ロシア語ロシア文学科卒業。

1978年〜2008年、中央公論社および中央公論新社にて
雑誌『婦人公論』『中央公論』編集長など歴任。

2009年、日本ビジネスプレス特別編集顧問に就任。

2010年〜2017年、新潮社にて『考える人』編集長を務める。

2017年4月に株式会社ほぼ日入社。

ほぼ日の学校長だよりNo.4

「乗組員名簿のフシギ」

ほぼ日入社からほどなくして、「DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー」に「組織社会学から見た『ほぼ日』」というレポートが連載され始めました。筆者は東京大学大学院総合文化研究科博士課程に在籍する樋口あゆみさん。2015年6月から翌年3月まで10ヶ月にわたる社内調査を行った力作で、ほぼ日はなぜ組織らしくない組織であるのか、その謎を解明しよう、という試みです。

私自身、ほぼ日のユニークさを「日々是発見」という日常だったので、毎回楽しみに読みました。周囲に読んでいる人も多く、とりわけ「『ほぼ日』はなぜ雑談を重視するのか」「会議なのか、雑談なのかがわからない会社」という2回は、あちこちで「もっと詳しく教えてほしい」と具体的なシーンの再現をリクエストされました。

雑談くらいあったりまえだろ、と思っていたので、むしろこの反応のほうが驚きでした。まじめくさって本題しか話さない会社なんて知らないよ、というわけです。大学を出て入社した出版社ですぐに配属されたのは、日本近代女性史とともに歴史を刻んできたような女性誌の編集部です。“夢を売る”きれいごと(だけ)ではなく、実生活のホンネの部分を大事にしよう、という編集方針が、当時大成功を収めていました。

いきなり参加した編集会議では、次の特集テーマをどうするかが議題でした。なみいる先輩編集者は、老いも若きも、男も女も、実に話芸たくみに、最近見聞きしてきたおもしろい小ネタを次から次へと披露し合います。特集テーマを正面から論じるというよりも、そうした生活実感にもとづく雑談を交わしながら、徐々に特集のヒントを集め、輪郭を探っていくようなやり方でした。

大学を出たばかりの若造に、これといったネタの持ち合わせなどなく、口をポカンと開けて聞いていました。そのうち、「性」特集についてのあけすけな質問をぶつけられ、どう応じたらいいものか、額に汗がにじみました。

雑談にまぶして、いかに正直に、かつ客観的に自分の関心の所在を語れるか。そんな訓練の場が編集会議だというふうに理解しました。当時、誰と話しても、「それ、いつ思いついたの?」「何をしていて感じたの?」「誰が言ってたの?」と絶えず訊かれたのも、根は同じだったと思います。

以来、会議というものの(少なくとも雑誌編集の)基本はそういうものだと思ってきました。なので、ほぼ日の会議風景にも少しも違和感はありませんでした。強いて言えば、雑談の芸風に、銀座線と丸ノ内線の空気の違いがある、くらいでしょうか……? とはいえ、こうして組織論の分析対象にされてみると、いかにわれわれの立ち位置が世間の常識とはかけ離れているかに気づきます。

ほぼ日で意表をつかれたのは、雑談とはちょっと別のことでした。デスクで誰かと話している時、いきなり脇から別の乗組員が話に参入してきます。そのカジュアル感。すばやく、臆せず、さりげなく、そして「やさしく、つよく、おもしろく」(ほぼ日の行動指針)――。

「アレッ、この話聞いてたんだ」と驚くスキも与えない、なめらかなツッコミ。それによって撹拌(かくはん)され、みるみる話の輪が広がっていくスペクタクル! これが特定個人のフリー演技ではなく、全社共通の“たしなみ”であると知るのに、さほど時間は要しませんでした。きわめて高度なチームプレーです。

「相談」と称して、社内のあちこちで立ち話がよく見かけられます。あるいは、社内のちょっとしたオープン・スペースで打合せが行われます。すると、通りがかった人が何のためらいもなく、しごくフラットに「ちょっかい」を出します。

おせっかいな、いたって気軽な口出しですが、結果、煮つまりかけていた「相談」の場がなごみ、思わぬアイデアが引き出されることもしばしばです。何の成果をもたらさない場合でも、少なくとも息抜きにはなるのです。

デスクで本を読んでいます。通りがかった若い女性乗組員が、「何を読んでるんですか?」と聞いてきます。それまで一度も話したことのない人です。40年近い出版社生活で、あまりなかった経験です。書類のコピーをしている時にも、同じようなことがありました。

「ナニしてんの?」と無邪気に話しかけてくる子どもの表情を彷彿とさせます。この距離感って、いまのオトナ社会ではあまりに稀少なのではないでしょうか? 過度な気配りのせいで、「遠慮→無干渉→無関心」に傾き過ぎてはいないでしょうか?

ある日、社内向けの乗組員名簿がイントラネット上にあることを知りました。なーんだ、もっと早く気づけば良かった、と見始めてすぐ、ひとつの特徴に気づきました。

前に属していた会社でも社員名簿はありました。いまどき立派すぎるくらいの簡易製本されたものです。それを見ていると、掲載された写真と実際の当人の印象はあまり変わりません。「なるほど、この人ね」という感じで、だいたい1対1に対応しています。ところが、ほぼ日の場合、名簿で写真を見ても、どうもピンと来ません。「エッ、違うよ」という感じです。別段、写真がヘタなわけではなく、リラックスした表情がごく当り前に並んでいます。だけど、違う。なぜなら、日常接している乗組員たちは、もっと生き生きしているからです。写真より何割増しかの笑顔を浮かべ、歩き、しゃべっているからです。名簿をいくら眺めても、本人感が足りない理由です。

今年入社したある乗組員から、こんな話を聞いたことがあります。「前職では、社内で会う人の顔は無表情か、険しい顔が多かった。対して、ほぼ日は目が合うと、満面の笑みを浮かべて挨拶してくれる人がたくさん。なんじゃこの違いは! と思いました」。

フレンドリーなこの気風を、「ほぼ日の学校」も校風として受け継がなければと思うのです。

2017年10月11日

ほぼ日の学校長

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