ほぼ日の学校長だよりNo.36
「河野書店」本日開店!
きょうから第3回を迎える「生活のたのしみ展」が始まります。
場所を恵比寿ガーデンプレイスに移して、6月11日(月)までの5日間開催します。60以上ものお店が賑々しく集結する“商店街”のなかに、「河野書店 ほぼ日の学校長の本屋さん」も店開きします。「たのしみ展」の中ではただ1軒の本屋さんですけれど、そこはほぼ日。オンリー・イズ・ノット・ロンリーなのです。
昨年11月の「たのしみ展」で大好評だった「古本X」(開けてお楽しみの「?」の古本)他、学校長お薦めの30冊、「ほぼ日の読書会」の課題図書、ほぼ日の学校のテーマ曲を作曲・演奏してくださっている栗コーダーカルテットのCD、それから学校長自身の本なども揃っています。
そうそう、最新刊の『古賀史健がまとめた糸井重里の本。』(ほぼ日文庫)も販売しております。糸井さんがぶらりと立ち寄った際には、気まぐれサイン会も随時開催の予定です。
何より「ほぼ日の学校」スタッフが皆さまのおいでをお待ちしています。私たちと本の話をしながら、気軽に本を手に取って、おもしろそうだと思うものを選んでみてください。前回もこうして“良縁”がたくさん生まれています。
お馴染みのシアターカンパニー・カクシンハンによるパフォーマンス「移動演劇」も、最終日11日(月)の午後に複数回予定されています。オープン・スペースでシェイクスピア劇全37作の見どころを一気に上演してしまおうという大胆きわまりない試みです。
また栗コーダーカルテットのフリーライブが10日(日)の午後1時、3時、5時くらいにあります。どうか皆さん、お見逃しなく!
さて今回、学校長が薦める30冊をご紹介いたします。
1.『本日は、お日柄もよく』 原田マハ(徳間文庫)
この小説が書かれた当時、国内では政権交代の期待が高まり、海外ではオバマ米大統領候補が圧倒的なスピーチの力で支持を集めていた。「言葉の力で世界を変えることができる」と信じられたあの頃は、遠い過去? 徒花に終わった夢まぼろし?(♠)
2.『舟を編む』 三浦しをん(光文社文庫)
辞書編集という特異な仕事、それに意欲を燃やす人たちの幸福感。辞書は言葉の規範を示すルール・ブックというよりも、言葉の大海原を自由に行き来するために編む舟だ、という純なロマンに心が震える。(♠)
3.『季節の記憶』 保坂和志(中公文庫)
何が起こるわけでもなく、ただ稲村ヶ崎に暮らす父と幼い息子と、その周りの人々の日常が描かれている。それだけなのに、この小説を読んだ時間が、まさに「記憶」として、空気のにおいや湿度もふくめてはっきりとからだの中に残っている。(♢)
4.『さようなら、ギャングたち』 高橋源一郎(講談社文芸文庫)
詩のような小説で、小説のような詩。失語症だった著者に重なるのは、「おしのギャング」で、彼は「自分の頭の中に書いてある言葉を探しはじめたが、どの頁も真っ白だった。」それでも言葉を探し、いくつかを見つける。でもそれは必ずしも幸せなことではない。ここでは、「言葉」とたたかうことが、生きることになっている。(♢)
5.『砂の女』 安部公房(新潮文庫)
読んでいると自分のからだ中、口のなかまで砂にまみれているような気持ちになってくる。
逃れられない砂のなかの生活。なんて不条理でつらいものなのかと思いつつ、自分の生活と何か違うのか本当はよくわからない。描かれているのは私たちの日常でもありました。(♢)
6.『エロチック街道』 筒井康隆(新潮文庫)
きつねに化かされているような不安感と、でもしっかりと描写されるたしかな現実感。そのあいだを行ったり来たりする感覚がくせになるようにからだに残ります。(♢)
7.『荒地の恋』 ねじめ正一(文春文庫)
現実か。小説か。どちらが「奇なり」かなんて関係ない。どうしようもない人間がいて、彼らが生活を営み、その日常から小説が生まれる。小説は理解するものじゃなく、人生のようにそこにあるものなんだと感じます。そうして生きている人たちが心から愛おしくなる。(♢)
8.『赤目四十八瀧心中未遂』 車谷長吉(文春文庫)
絶対に這い上がれない暗くて深い場所がある。主人公の「私」がどんなに身を持ち崩して、落ちていっても、そこに生まれた人たちとの間には絶対に違いがある。それでも気持ちが通い合える可能性と、結局は絶対に同じものを見られない現実。その間を行ったり来たりしながら、でもあきらめないことが、どの人間も同じにできることなんだと思う。(♢)
9.『絢爛たる影絵 小津安二郎』 高橋治(岩波現代文庫)
小津の映画が好きだ。その作品のうしろ側にいる、監督小津安二郎のことを知ると、もっとその映画が好きになる。小津のその人柄を知ると、作品とはなにかうまく結びつかないような気もするのだけれど、さらに知るとやっぱり小津にしかあの映画は撮れなかったんだと思う。(♢)
10.『凍』 沢木耕太郎(新潮文庫)
実在のクライマー夫婦の成し遂げたヒマラヤ登攀の物語。「どうしてそこまでして登るのか?」と不思議で仕方ないけれど、答えは山に登ることが好きだということに尽きる。そのなににも縛られないむき出しの「好き」に圧倒され、その「好き」を通して見えてくる世界がうらやましくなる。(♢)
11.『四百字のデッサン』 野見山暁治(河出文庫)
線に勢いがあって、味がある。こんな大胆な人物素描があり得るのか! 絵描きの目はつくづく恐ろしいと思わされる。(♠)
12.『時刻表2万キロ』 宮脇俊三(角川文庫)
「好き」という感情は、とてつもない大望を成就させる。国鉄(いまのJR)の全路線を完乗する、という野望! 会社の激務の合間を縫って、いまから40年前にこの快挙を成し遂げた、名旅行作家のデビュー作!(♠)
13.『ノラや』 内田百閒(ちくま文庫)
飼っていた猫のノラがいなくなってしまって、泣きくらす内田百閒。毎日はいっていたお風呂もはいらず、顔を洗うこともせず、仕事も手につかず、好きだった雨もきらいになり、ワアワア声をあげて泣く日々。猫を通して作者の人柄がみえてきます。人としての百閒が好きになる。(♢)
14.『料理の四面体』 玉村豊男(中公文庫)
料理は自由。でも人が長い時間をかけて生み出してきた美味しいものは、どこかでやっぱり理にかなっているんだよな。(♢)
15.『猟師の肉は腐らない』 小泉武夫(新潮文庫)
やさしくて、たくましくて、山について、生きることについてたくさんのことを知っている。昔からの知恵と、自分のもっている素直な感覚をたいせつにしながら、自給自足で生きる猟師の義っしゃん。これを読んでいると、一ページ一ページ心が鍛え直されていく気がする。「義っしゃんに会いたい!」、きっとみんなもそう思うはず。(♢)
16.『落語と私』 桂米朝(文春文庫)
品があって学識が豊か。埋もれていた数々の古典を掘り起こし、風前の灯火だった上方落語を蘇らせた「上方落語中興の祖」が、わかりやすく落語や落語家の本質を語った落語入門の決定版。(♠)
17.『僕の音楽武者修行』 小澤征爾(新潮文庫)
時代が良かっただけではない。音楽に向けられた若者のまっすぐな情熱が、人の善意を目覚めさせ、気まぐれな幸運の女神の後ろ髪をもとらえたのだ。(♠)
18.『贅沢貧乏』 森茉莉(講談社文芸文庫)
いくつになっても少女のようなひとだったんじゃないかと思う。正真正銘のお嬢様として育ちながらも、下北沢の安アパートで進駐軍払い下げのベッドに眠ることとなったその生活は、お金はなくとも貧乏の悲惨さはまったくない。貧乏生活を自分の好きなもので彩りながら、美しいものは欠かさない。おもちゃの指輪や、きれいなガラスのかけらを集める少女のような著者の姿が目に浮かぶ。(♢)
19.『ヒトのオスは飼わないの?』 米原万里(文春文庫)
「ネコイヌもいいけど、早くヒトのオスを飼いなさい!」そう言われた作者は、生涯人間の雄を飼うことはありませんでした。猫と犬の合間にちょっとだけ仕事、というように見えるけど、通訳として作家として第一線にいたのだから、その猫犬にむける愛情がどれほどのものだったことか!(♢)
20.『ミラノ 霧の風景』 須賀敦子(白水uブックス)
ミラノで過ごした時間のなかで、空気を吸うように、水を飲むように、その土地の生活や文化を身体中で吸収している。そのときの記憶をたよりに描かれていく日々には「肌ざわり」みたいなものがあって、読んでいる者の記憶も動かされる。作中の著者がイタリアに溶け込んだようすがあまりにも自然で、彼女が日本人であることをすっかり忘れてしまう。(♢)
21.『思い出トランプ』 向田邦子(新潮文庫)
向田邦子がみつめると、日常はこんな風に見えるのかと思う。日々の生活が、ひとたび、向田邦子という人間のからだを通って出てくると、ひとの持つエッセンスみたいなものが生々しくまぶされている。そしてそれがさらりと描かれている。(♢)
22.『父の暦』 谷口ジロー(小学館文庫)
少しだけのすれ違いで、取り返しのつかない時間をひとは失ってしまう。
でも知ろうとすること、取り戻そうとすることで、ひとは前を向いていけるんだと教えてもらえる。(♢)
23.『無能の人・日の戯れ』 つげ義春(新潮文庫)
タイトルの通り、まさに生活していく力のない(無能の)主人公が描かれる。本業のマンガがうまくいかず、いきあたりばったりの仕事をする。それはとても悲劇ではあるのだけれど、ある意味マンガがあるからこそ、そんなことができてしまうということでもあるような気がする。(♢)
24.『故郷/阿Q正伝』 魯迅(光文社古典新訳文庫)
自分の抱いている希望がほんとうは「偶像」に過ぎないのではないかということをおそろしく思いながら、それでも希望を捨てない。魯迅は、次の世代には新しい世界があるということをきっと信じていたのだと思う。(♢)
25.『変身』 フランツ・カフカ(白水uブックス)
主人公のグレゴール・ザムザがある朝起きると、虫になっている。それは、なにかの寓意なんかじゃなく、ただ本当に虫として描かれる。カフカの小説は、ただ描かれているままに読むのがいいのだと思う。わかるとかわからないとかじゃなく、小説を読むってこういうことなんだとあらためて思う作品。(♢)
26.『一九八四年』 ジョージ・オーウェル(ハヤカワepi文庫)
この小説をあらかじめ読んでおけば、“危険”はきっと回避できるだろう、少なくとも最悪の事態を迎える前に‥‥。そう思っていたのが皮肉にも、ますます現実味を帯びてしまった、このおぞましい監視社会のシナリオが!(♠)
27.『星の王子さま』 サンテグジュペリ(集英社文庫)
世界はひろいっていうことと、世界はやっぱり自分のそばにあるっていうこと、そのどちらも感じられる。外国の作品を読むってこういうことだなと思えるとてもよい作品です。(♢)
28.『悪童日記』 アゴタ・クリストフ(ハヤカワepi文庫)
戦争というどうしようもない現実を前に、覚醒した意識をもって生きる主人公のふたごの少年。ただ自分たちの判断と理論にしたがって生きていくふたりに、おとなが簡単に名付けてしまう感情(「優しさ」とか「愛」とか「憎しみ」とか「皮肉」とか)は太刀打ちできない。ふたりが子供だからこそ、ありのままを突きつけてくる。(♢)
29.『あなたに似た人』 ロアルド・ダール(ハヤカワ・ミステリ文庫)
世界はギリギリのところで正気を保っているのかもしれない。だれのなかにも、この15篇に出てくる普通じゃない(異常な)人物と似た部分があって、きっとだれもがハッとさせられる。(♢)
30.『日の名残り』 カズオ・イシグロ(ハヤカワepi文庫)
古き良き英国を象徴する名士の邸宅に長年仕えた有能な「執事」。大英帝国の落日と、敬慕してきた主人の失墜、そして高潔・厳格な職業倫理とともにあった自らの人生のほろ苦い真実。過ぎ去りし日の思い出を、抑制されたユーモアに包みながら、ゆったりと物語るノーベル賞作家の代表作。(♠)
以下は、これまで「ほぼ日の読書会」で課題図書にしてきた3冊です。
31.『うらおもて人生録』 色川武大(新潮文庫)
人生にはじたばたしたってどうしようもない場面がたくさんある。そうした時に「とにかく、しのげ、しのげ」という著者の声が聞こえてくる。「しのぐ」という言葉にこれほどの現実感と勇気を与えてくれた人生指南書はかつてなかった。(♠)
32.『園芸家12ヶ月』 カレル・チャペック(中公文庫)
若い頃、名作として読んで、いつの間にか忘れていた。数年前に読み返して、初対面のような新鮮さを味わった。「われわれ園芸家は未来に生きているのだ」という最後のメッセージに、ナチズムの脅威にさらされていた著者の痛切なアイロニーを感じるまでに。(♠)
33.『ちいさこべ』 山本周五郎(新潮文庫)
コミュニケーションなんて概念がなかった時代の人と人との心の交流に、どうしてこんなにも心が揺さぶられるのか。困難に立ち向かおうとする男がいて、女がいる。不器用でいて、真剣だ。何ていじらしく、輝かしいのだろう。(♠)
「ほぼ日の学校」チーム一同、皆さんにお会いするのを楽しみにしています。
どうぞお気軽にお立ち寄りください。
書籍コメント
♠︎:
河野通和学校長
♢:
藤井裕子(ほぼ日の学校メンバー)
2018年6月7日
ほぼ日の学校長