2018年1月、
ほぼ日の学校が始動しました。

これからいったい、
どういう学校に育っていくのか。

そのプロセスの出来事や、
学校にこめる思いなどを、
学校長・河野通和が
綴っていきます。

ほぼ日の学校長

河野通和(こうの・みちかず)

1953年、岡山市生まれ。編集者。

東京大学文学部ロシア語ロシア文学科卒業。

1978年〜2008年、中央公論社および中央公論新社にて
雑誌『婦人公論』『中央公論』編集長など歴任。

2009年、日本ビジネスプレス特別編集顧問に就任。

2010年〜2017年、新潮社にて『考える人』編集長を務める。

2017年4月に株式会社ほぼ日入社。

ほぼ日の学校長だよりNo.39

「投資とシェイクスピア」

 お待たせしました! 本日午前11時、ほぼ日の学校オンライン・クラスが開講です!

 ファンファーレが鳴り響き、頭上のくす玉が割れました。

 これまで受講できなかった方! ここからは、追いつく楽しみが待ち受けています。まずはほぼ日の学校がきょうまで辿ってきた道をしっかり味わってみてください。コンテンツはこれから増える一方です。

 と言いつつ、「シェイクスピア講座」は、残すところあと3回(7月3日、10日、24日)になりました。

 受講生からは、「終わるのがさみしくなってきた」、「学校ロスになる!」といった声が届いています。いよいよゴールが近づいてきた、という意識は私たちも同様です。

 とはいえ、達成感や安堵感はまだ少しも湧いてきません。残りの3回をどうするか、そちらの思いでいっぱいです。

 次回はベンチャー・キャピタリストの村口和孝さんに『ヴェニスの商人』を論じてもらいます。昨年暮れの「ごくごくのむ古典」(草月ホール)でのトークや、「『ヴェニスの商人』座談会!」(村口和孝×河合祥一郎×松岡和子)で、その片鱗はすでに披露しています。が、今度はいよいよ本番です。

 ここまで、橋本治さん、向井万起男さん、岡ノ谷一夫さんら、フツーの「シェイクスピア講座」だとおよそあり得ないような講師陣に出ていただきました。ただ、これらの方々がカーブやフォークボール、ナックルボールといった変化球だとすれば、村口さんは間違いなく「魔球」です。球筋がまったく読めない“大リーグボール”かもしれません。

 一方で、「シェイクスピア講座」は村口さんに、大きな“恩義”を感じています。というのも、この講座を始めるにあたって、村口さんはある決定的な役割を陰で果たしてくれたからです。

 村口さんと私は1年前まではまったく面識もありませんでした。糸井さんからこういう方がいる、ということを聞き、昨年8月21日(私の誕生日です!)にお目にかかったのが最初です。

 日本初の個人運営のベンチャー・キャピタル・ファンドを立ち上げた人で、投資先の上場率の高さではカリスマ的存在である、という前評判を聞いていました。お会いするに際して『私は、こんな人になら、金を出す!』(講談社+α新書)という著作を拝読しました。

 未知の産業フロンティアに挑む無名の起業家、新興企業を資金面でバックアップし、成長を促し見守るベンチャー・キャピタリスト――。プロフェッショナルは、どんな人になら、金を出すのか? 

 答えは以下の通りです。

・未来に対して真面目な人

・顧客を発見し価値を作れる人

・1週間で成長できる人

・粘り強く、あきらめない人

・ものごとを俯瞰できる人

・「互恵関係」を結べる人

・歴史の中にチャンスを見出せる人

・組織改革のタイミングを知る人

・48時間で切り替えられる人

 ゼロからのスタート・アップを支援する上で、村口さんが重視していることもおもしろいと思いました。

<私がベンチャー支援をする上で大事にしているのは「真面目」「熱心」「忍耐」「現場」というキーワードです。真面目に熱心に支援を続け、どんな困難に直面しても逃げずに忍耐強く続ける。そして、何よりも現場を大事にして、日々現場で改善を積み重ねていく。

私はベンチャー企業を支援する時、大事なのは“こころ”だと思っています。

テクニックではなく、最後は情熱です>(前掲書)

 1958年、徳島県生まれ。慶應義塾大学経済学部に入学後、シェイクスピア研究会に入部。「毎日、早朝から深夜に及ぶまで演劇の稽古や準備に明け暮れ、六本木の劇場でシェイクスピア晩年の名作『テンペスト』を演出するまでになりました」というほど、学生時代は演劇に打ち込みます。

 ところが、卒業後の進路を意識しはじめた頃、「芝居では食べていけないぞ」と先輩に言われ、またゼミの教授から「アップル・コンピュータという会社がシリコンバレーにあって、そこに投資して大儲けしているベンチャー・キャピタルという職業がある」と教えられ、「私が天職とすべき一生の仕事かもしれない」と直観します。

 とにかく現地を見てみよう、とすぐさまシリコンバレーへ向かったところが、非凡です。アポなしで飛び込み訪問したベンチャー・キャピタルのオフィスは、どこも迷惑がるふうでもなく、この闖入者を歓迎します。「日本から来た大学生だが、ベンチャー・キャピタリストになるために重要なのはどんなことか?」と尋ねます。

<すると、あるベンチャー・キャピタリストは短く、その答えを語ります。すべてを正確に聞き取ることはできませんでしたが、二つのフレーズが耳に残りました。「ヒューマン・アンダスタンディング(human understanding)」。もう一つは、「アーリー・バード(early bird)」です>(同)

 大学では何をやっていたのか?」と逆に尋ねられ、「シェイクスピアの芝居に没頭していた」と答えると、「That’s it! (それでいい!)」と太鼓判を押されます。「人の本質を描く演劇の経験は、ベンチャー企業に出資するうえでも役立つ」――と。

 ヒューマン・アンダスタンディング」=「人間に対する理解」。そして「アーリー・バード」、すなわち「情報の早耳たれ」という教えは、いまなお自分の支えになっている、と村口さんは言います。

 さらに、シェイクスピアの『テンペスト』をゼロから作り上げたあの“作業体験”こそが、後に独立し、自分で事業を立ち上げ、試行錯誤を重ねながら七転八倒するなかで、いちばん役に立った「教育」だ、とも。

 ズーンと、腹に響きました。

 未来の予兆を感じ取り、未知の産業を探りあてる最前線にあって、創業ベンチャーの支援活動を“こころ”と“情熱”で、いわば職人的に続けているプロの真髄に、学生時代に没頭したシェイクスピア体験が埋め込まれている、というのは、ひとすじの光に感じられたのです。

 ほぼ日の学校」をシェイクスピア講座から始めよう、という勇気と希望を授けてくれた人――そういう“恩義”を感じるのです。

 人の縁”は不思議なものだ、と思うのは、村口さんにベンチャー・キャピタルの存在を教えたゼミの先生が、5年前に亡くなった高橋潤二郎さんだということです。

 たまたま周りに高橋ゼミ出身者が数名いて、噂を聞くことがよくありました。その高橋さんが森ビルの六本木ヒルズ開発プロジェクトに関わり、その49階に展開する知的・人的交流のためのアカデミーヒルズ理事長に就任します。そして会員制図書館「アカデミーヒルズ六本木ライブラリー」を開設するにあたって、出版社勤務の私がフェローの一員として招かれます。高橋さんのお声がけでした。

 それから2年間、折に触れて議論したなかに、アメリカの大学で「リベラル・アーツ」教育の基礎をなした「グレート・ブックス(世界の古典叢書)」運動や、「アスペン・エグゼクティブ・セミナー」のことがありました(No.1213参照)。まさか村口さんとそんな因縁のある方だとはつゆ知らず‥‥。

 ともあれ、村口さんからじかに聞いた「シェイクスピア=That’s it!」体験の話は、痛快でした。ふと思い浮かべたのは、小林秀雄の「トルストイを読み給え」という一文です。

<若い人々から、何を読んだらいいかと訊(たず)ねられると、僕はいつもトルストイを読み給えと答える。すると必ずその他には何を読んだらいいかと言われる。他に何にも読む必要はない、だまされたと思って「戦争と平和」を読み給えと僕は答える。だが嘗(かつ)て僕の忠告を実行してくれた人がない。実に悲しむべきことである。あんまり本が多過ぎる、だからこそトルストイを、トルストイだけを読み給え。(略)途方もなく偉い一人の人間の体験の全体性、恒常性というものに先ず触れて充分に驚くことだけが大事である>(「トルストイを読み給え」、『小林秀雄全作品19』新潮社

 村口さんの講義は来週です。たまたま本業のベンチャー・キャピタリストとしても、今週大きなヤマを迎えます。13年間、投資し続けてきた会社の上場が決まるかどうか、というタイミングにぶつかるのです。

 その意味でも、実にスリリングな講義になりそうです。「ベンチャービジネスと『ヴェニスの商人』」というタイトルです。

2018年6月28日

ほぼ日の学校長

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