2018年1月、
ほぼ日の学校が始動しました。

これからいったい、
どういう学校に育っていくのか。

そのプロセスの出来事や、
学校にこめる思いなどを、
学校長・河野通和が
綴っていきます。

ほぼ日の学校長

河野通和(こうの・みちかず)

1953年、岡山市生まれ。編集者。

東京大学文学部ロシア語ロシア文学科卒業。

1978年〜2008年、中央公論社および中央公論新社にて
雑誌『婦人公論』『中央公論』編集長など歴任。

2009年、日本ビジネスプレス特別編集顧問に就任。

2010年〜2017年、新潮社にて『考える人』編集長を務める。

2017年4月に株式会社ほぼ日入社。

ほぼ日の学校長だよりNo.37

表裏「生活のたのしみ展」

 生活のたのしみ展」(6月7日〜11日、恵比寿ガーデンプレイス)が一昨々日、無事に終わりました。今回もいろいろ学ぶことの多い5日間でした。

 JR恵比寿駅東口寄りの「メインエントランス」から会場に入り、ゆるやかな坂道を下ってゆく「ウェルカム参道」の中ほどに、小さなテントの店を出しました。「河野書店 ほぼ日の学校長の本屋さん」です。

 開催前日の搬入日は、小雨がぱらつき、“梅雨入り”の声が耳に入ります。書店にとって、水気(みずけ)は大敵。翌日からの雨風を想定して開店準備を進めます。

 ところが、フタを開けてみると、最初の3日間は好天続きです。3日目などは30度を超す暑さ! 日差しも初夏そのものの強さです。

 加えて、「たのしみ展」に新たなアトラクションを添えるかのように、残りの2日間はわざわざ台風までやってきました。さすがに書店は早々と、屋内の「グラススクエア」に移動します(最終日は全店舗が引っ越します)。スペースは縮小になりますが、屋台が軒を並べた感じで、にぎやかな小売市場みたいです。

 以上のことだけでも、多くの「学び」がありました。「たのしみ展」の表裏――2つのバージョンを体験したような気分です。

 とりわけ最終日には、ほぼ日の学校「シェイクスピア講座」でお世話になっているシアターカンパニー・カクシンハンの「移動演劇」というパフォーマンスが予定されていました。屋外のスペースを使いながら、シェイクスピア全37作品のハイライトシーンを一気に上演しよう――という試みのはずでした。

 ところが、雨で外は使えません。全店舗を1ヵ所にまとめたぎゅうぎゅう詰めの空間ですから、買い物するお客さん、レジを待つ長い列も勘案しながら、どういうパフォーマンスに切り換えるか。これまたスリリングなチャレンジになりました。

 不安を抱いたのは、むしろわれわれの側だったかもしれません。演出家の木村龍之介さんや、俳優の皆さんは、朝10時に集合した時から、意外なほどにフツーでした。見ようによっては、泰然自若。「これはこれでおもしろいと思います」と木村さん。女優の真以美さんも笑みを絶やさず、先月ハムレットを演じた河内大和さんは、何かを企(たくら)んでいそうな、怪しいオーラをまとっています。岩崎MARK雄大さんも、「別にどうってことないですよ」といった涼しい顔つきです。

 結果、河野書店の売場スペースを使いながら、周期的に噴き出す間欠泉(かんけつせん)のように、何度かのシェイクスピア・オムニバスを閉店ギリギリまで上演しました。多くの人が行き交い、ざわざわとした会場なのに、それをものともしないエネルギッシュな声、堂々とわたりあう役者の気迫が、野次馬のように立ち止まる人たちを惹きつけます。

 “演劇の原点”を示すような迫力に満ち、これも今回の「発見」のひとつです。

 店頭では、「『学校長だより』(No.36)を読んできました」と言って、お目当ての本をめざして真っ直ぐにいらした方。前回の「たのしみ展」(2017年11月15日〜19日、六本木ヒルズアリーナ)で紹介された本がとてもおもしろかった、とふたたび訪ねてこられた方。ずいぶん元気や力をいただきました。

 後者の例では、内田洋子さんの『ジーノの家』(文春文庫)を勧められ、「すっかり内田さんにはまりました」、「他の本もそれからずいぶん読みました」という方が6、7名。辺見じゅんさんの『収容所(ラーゲリ)から来た遺書』(文春文庫)を教えられ、「ふだんなら絶対に自分では買わない本だけど、読んで良かった、感動しました」という方が5名ほど。

 目の前のお客さんと話をしながら、「だったら、こんな本はどうでしょう」、「思い切って次はこれに手を伸ばしてみては」とオススメするのがこの書店のサービスです。本のソムリエかコンシェルジュのように――。

 自著『伴走者』(講談社)の即売&サイン会を2日間、脇で開いた作家の浅生鴨さんが、その後は河野書店の店頭に立って、選書のアドバイザー、読書ナビゲーター役を買って出てくれたのも、嬉しいハプニング。

 店頭に足を止める人は、声をかければ必ず何か反応してくれます。「最近あまり本を読まないから」、「私、本って全然読まないんです」と言う人も、水を向ければ、何かしら本の話を始めます。むかし読んだ本、感動した思い出、好きな主人公、苦手なジャンル‥‥。話すうちに、たいてい何か読んでみよう、という気になります。「たのしみ展」と銘打つ催しだけに、こうした会話の「たのしみ」を、店側も客側も共有できるのは何よりです。

 わずか30数種類の本しか置いていない書店であるにもかかわらず、一日の売上部数は驚くほどでした。本が売れない、出版不況だと言われるなかで、不思議な感慨がわきおこります。売上の数字だけではありません。何か別の大切なものが、この「書店」からは見えた気がする、というのが、浅生鴨さんの感想でした。

<ぼく個人としても、「河野書店」で販売のお手伝いをして、たくさんの発見がありました。活字離れとか本離れとかいろいろ言われるけど、あれは嘘ですね。いま足りていないのは「ちゃんとおすすめしてくれる人」の存在だけで、そういう人がいてくれればみんな本を読んでくれるはずだと実感しました>(「浅生鴨さんに、聞きました(古賀)。」、「古賀史健がまとめた生活のたのしみ展の人びと。」より)

 それにしても、最初の3日間は熱中症になりかねない暑さに耐え、一日9時間、坂道の斜面に立ち続けるというハードワーク(傾く体を支えようとする足腰に、思わず知らず負担をかけている)を終えると、しばらくは何をする気力もわかないほどでした。

 それでも、「たのしみ展」明けの「シェイクスピア講座」もあれば、先々の「学校」の準備も気がかりです。そんななかで手にしたのが、橋本治さんの『おいぼれハムレット』(河出書房新社)。「落語世界文学全集」と銘打つ新シリーズの初回配本です。

<扨(さて)、今日申し上げますのは、西洋のお大名家のお話でございます。お大名家のお話も色々とございます内で、「長ろうべきか死すべきか」で評判を取りました、講釈種(だね)の後日譚(ごじつたん)でございます>

 ほんとに落語になっている! こんな癒やされ方も乙(おつ)なものです。

 そして「たのしみ展」撤収を無事に終えた翌日に、岡ノ谷一夫さんの「シェイクスピア講座」――「ロミオとジュリエットを生物心理学から観る」の授業がありました。これについては、次回に譲りたいと思います。

2018年6月14日

ほぼ日の学校長

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